預金通帳の有料化 (大手銀が検討)

朝日新聞の平成30年1月18日付記事です。マイナス金利で国内事業の収益悪化が止まらないことへの対策としてメガバンクが、預金口座の維持コスト軽減策を検討しているという内容です。三菱東京UFJ銀行では、通帳発行手数料の議論を開始したとしています。毎年、手数料を取る案が出ているとのこと。その背景には、通帳毎に毎年200円の印紙税を銀行が負担しており、それが銀行にとって大きな負担になっていることがあるといいます。

間接的に聞いた話では、この記事に対して三菱東京UFJ銀は怒り心頭で、「そんな検討は全くしていない、他の銀行が良からぬ意図で朝日に書かせたのだろう。」という話を聞きます。最近、メガバンクだけでなく地域銀などでも両替などの有料化や値上げの発表が続いたこともあり、通帳の有料化という話が出ても、不思議ではありません、日銀の中曽副総裁が口座維持手数料の徴求を検討したらどうかと発言したという話もあり、マイナス金利の解除が当面見込めないこともあり、銀行に無料、或いは、コスト割れの低料金を見直す動機があることは確かです。

しかし、MUFGの平野社長は全銀協会長の立場で、「宅配便のように顧客から苦労が見えて、同情を得られる環境と違い、銀行は顧客の目から行員の苦労が見えない状況で口座維持手数料を下さいとは、なかなか言い出せない。」と発言しています。地銀協の佐久間会長も中曽副総裁の提言を受けて、とても無理と明言しています。確かに、今、無料のものを新たなサービスもなく、ただ、金払ってとはとても言えません。「悪いのは政府と日銀です、マイナス金利が終了したら、また、無料化します。」と言っても顧客が納得するとも思えません。

銀行手数料は古くて長い懸案です。お客からすると、「預金しても一回時間外で引出しすれば、金利分以上の手数料を取り、金を借りれば、土日でも金利を取るくせに。」となります。思い出すのはATM利用手数料を取りだした時のことです。それまでATMからの引出しは取引銀行でしかできなかったのですが、業態別に相互引出しができるようになりました。1980年代末のことです。その時に他行引出しが有料となり、徐々に自行での時間外有料化、時間外他行引出しの値上げなどに繋がりました。その当時は、電車賃使って取引銀行に行くのに比べれば安いとか、一回使えば預金金利が飛んでしまうなどと賛否が分かれました。今はそんな議論は全くなく、要は、利用者が利便性とコストの比較で選べば良いとなっています。そうなのです、公正取引委員会の台詞ではないですが、利用者に選択の余地があるかないかということだと思います。

その点で、通帳の有料化や口座維持手数料の徴収は、顧客に選択の余地が殆どありません。口座を解約する方法もありますが、普通預金口座の多くは自動引き落としなどと繋がっています。関係する公共料金やクレジット、各種会費などの口座変更手続きは、わが国の場合は余りに広範で手続きが面倒です。そんな時間的余裕のある人は限られます。結果、社会問題化しかねません。全行で足並みを揃えれば、公取が国民の英雄になるだけです。

それをやったのが、米国やEU、英国の銀行です。リーマンショック後、手あたり次第に手数料を上げ、儲けにならない客を切りました。銀行に対する国民の反発は、広範で根深いものになってしまいました。政府は、国民の声に押されて、銀行への規制を強める一方で、銀行業への新規参入を認め、FinTechを推進しています。EUや英国では、口座ポータビリティ制度を導入しました。特に英国では良く使われる制度です。顧客が今の取引銀行A行を止めて、別のB行を使いたいとします。A,B両行に口座を移管するように指示しますと、一定期間内にA,B行が協力して移管手続きを行ないます。無料です。その時に、自動引き落としなどの移管手続きも行ないます。口座移管後に引落し依頼や振込がA行に来ても、それはA,B行で処理することが義務付けられています。この制度は、EUでは余り利用されていませんが、英国では数百万の預金者が利用したとされます。わが国でも、銀行の手数料値上げが続くと、政府としては預金者の選択肢確保の為に、口座ポータビリティ制度を導入せざるをえないでしょう。予想されるのは、自公の国会議員が議員立法を図ることです。財務金融部会のメンバーはこの制度のことを良く知っています。

筆者は十数年前から、銀行の手数料収入源として会費を提案しています。会員になると各種の手数料が割引か無料で、家計簿サービス(アグリゲーション)、提携先のサービス利用、顧客別の情報提供などを提供します。顧客毎でも構いませんし、世帯単位という方法もあるでしょう。非同居家族や三世代での加入という方法も考えられます。クレジットカード、デビットカード、プリペイドカードなどと組合せ、ランク別のカードデザインや優遇策を入れても良い。一人平均、月に3千円は払うのではないかと思っています。新聞購読料より安い。この話を銀行員にしても、誰も真剣に聞いてはくれませんが、いずれ、そんな時代が来ると思っています。

要は、我々がプラチナカードを持ちたがるのと同じことで、コスト採算と合わせた顧客目線のサービス設計だと思っています。特に地方では効果的かと思います。こう考えると、今のCRMやらEBMなどには、顧客目線が全く感じられません。銀行に、差別化が重要だと言うと、銀行員は「我々はお客を差別することはできません。全てのお客に公平で同等なサービスを提供するのが銀行です。」と返ってきます。筆者は銀行の機能、サービスを差別化するという意味で言うのですが。そこで、「個別客によって異なるサービスを提供するのが差別化であり、それをやらない銀行は、顧客から選別されるだけですよ。」と言いますが、それ以上の議論にはなりません。わが国におけるFinTechは、米欧や新興国と異なり、銀行、新規参入者、利用者の価値観の違いを整理する実証実験をやっているようなものかも知れません。

 

                       (平成30年1月24日  島田 直貴)