弥生の会計データをAIで貸出審査

オリックスとその関連会社である弥生が、弥生会計データを使って融資可否を即日で判断するサービスを12月に開始したそうです。日経コンピュータの平成30年1月17日付ITProサイトに掲載されていました。主体は両社が共同で設立したアルトア社で、サービス名はアルトアオンライン融資サービスです。

弥生会計を使う企業は150万社で内60万社がオンライン・サービスを使っており、これが当サービスの対象です。弥生の調査によると、利用企業の85%に短期資金需要があり、内、金融機関を利用するのが57%だったそうです。つまり、中小零細企業の36%強が短期融資ビジネスで手つかずだと考えられるそうです。

まず、弥生が預かる企業の会計データを匿名化してAIで分析し、ベンチマーク・データと与信モデルを作ります。その分析にはd.a.t.社の機械学習や自然言語処理技術を使います。企業が短期融資を申し込むにあたっては、1年分以上の会計データと本人確認書類などを伝送します。初回融資は最短で2日、二回目以降は即日で融資が実行される。融資額は50〜300万円、金利は3.8〜14.8%,期間は最長12カ月ということです。

アルトア社としては、徹底的に省力化することで、銀行が採算性から手出しできない少額融資のビジネスを開拓できる。データを蓄積し、時系列にモニタリングできるようにすれば、貸し倒れ率の予測精度があがり、途上与信も高度化できる。ということは、ある程度の信用リスクを前提としたビジネスモデルが実現できる。

一読すると良いことばかりのビジネスなのですが、良く考えると穴がないわけではなさそうです。

まず、第一に、本当に需要があるのだろうか?この記事ではクレジットエンジン社のレンディという融資が競合サービスだとしています。昨年1月にサービスを開始して、一年で数百件の実績があるそうです。少し乱暴ですが、500件、200万円、期間3ケ月、金利10%で計算してみましょう。500x200万円x10%x3/12=2500万円の金利収入です。更に貸し倒れ率をどのくらい見るか。3%とすれば、最大で3000万円が信用コストとなります。金利収支だけで黒字にするには、5万件くらいは融資して、貸し倒れ率を1%くらいに抑える必要がありそうです。

第二は、本当にネットで完結するでしょうか?証券や銀行もそうですが、ネット専業だからといって、社員一人とITがあれば済む訳ではありません。IT費用も大きいですが、お客が増えるほど、電話や書類の送付が増えます。法人向け融資ですから、アンチマネロン対策も必要です。人手を介する作業が避けられません。ロボアドの会社が、社員の数倍のパート、アルバイトを雇っているので、理由を聞いたら「客数が増える以上のスピードで電話と紙が増えている。人手で処理する事務設計をしていないので、ミスやトラブルも急増して手に負えない。」と嘆いているのを聞いたことがあります。更に、延滞や債権処理となれば大変な労力を要します。現実を知らないメディアや学者は、気楽にネット完結だと強調しますが、それを実現するには相当に練った業務処理手順に顧客を巻き込むことが前提です。

第三は、顧客データの扱いです。クラウド会計のデータは、クラウド会計業者のシステムに保管されており、顧客の同意か指示に基づいて第三者に提供されることになります。匿名化した場合は、まだマシですが、生データを貸金業者等に一部データでも渡す場合、顧客は提供先を限定することを求めます。それをクラウド会計業者が遵守しているか、今は確認する術がありませんが、何かトラブルが起きれば、外部の監査などが制度化されるでしょう。途端に、データの使い方が制約され、保管管理にコストがかかるようになります。

アリババのビジネスモデルやGoogle、Amazonが顧客の検索情報や取引情報を再利用して巨利を得ていることから、フィンテック事業者の多くは、「これからはデータが収益の源泉だ。」と言いますが、そんなに甘いものでしょうか?データは、顧客が自分の業務に必要だから入力しています。そのサービス料金に顧客のものであるデータをクラウド会計業者が転売する対価が反映されているとは定款にありません。

匿名化すれば良いとする考えもあるでしょうが、匿名情報だと統計処理の結果や抽象的な因果関係等のビジネスルールが出てくるだけです。それにどの程度の価値がつくでしょうか?個人情報については、プライバシー保護の視点から、様々な議論が行なわれ法制度等の整備が進められていますが、遠からず、企業の情報についても、法制度化云々は別として、企業機密の観点から法的紛争が起きてくると思われます。ネットワーク上で流通する情報の所有権は誰にあるのか?まだ決着はついていません。

今年の3月2日までに銀行はオープンAPIの方針を公表しなくてはなりません。その中核メンバーとなる決済代行事業者などは、誰から手数料を取れるか、自社が銀行に手数料を払う義務が発生するのか、まだ決まっていません。どの事業者も、今はデータを集めることが大事だと思っているようです。しかし、利用者から「自分の必要とする処理を委託しただけであり、そのデータを勝手に加工したり転売する権利を与えていない。」と提訴されたら中間事業者はどうするのか?仮に約款に書いてあるとしても、個人が相手だと約款が無条件に業者側の権利を保証することを意味しません。法人の場合でも訴訟案件となることが充分に予想されます。非常に際どいというか、危なそうな前提の上に作られるビジネスモデルです。銀行は、こうした紛争に巻き込まれることを避けるでしょう。ちなみに、オープンAPIのひな型契約書の作成で銀行は、口座情報は銀行のもので、その利用権が顧客にあるだけだと主張し、FinTech企業と論争しているそうです。これは銀行に理があるように思います。FinTechなどオープンイノベーションは、こうした制度上の不明点を連続的に表面化させます。まずは、複雑になる一方の情報流通チェーンにおける認証と権限義務の仕組みが必要となります。

                   (平成30年1月19日 島田 直貴)