キャッシュレス化の動き

日経新聞が平成29年12月19日〜21日にかけてBeyond the Financeと題した連載を掲載していました。一回目の記事では、現金お断りというレストランをロイヤルホールディングスが試験開業したことと愛宕神社が楽天Edyによるお賽銭箱を1月4日限定で設置するという話を報じました。面白い試みですが、所詮はメインとなる話ではなく、主催者の話題作りという印象です。また、韓国のカード決済は、民間消費支出の9割に対して日本は2割と遅れているというものでした。現金を使うのが、いかにも遅れているという論調に、マスコミのワンパターンとがっかりしました。韓国では、北側のスパイ対策もあり、住民登録番号カードを全国民に強制化し、小売店の脱税対策に小口決済でもカード決済の受入れを義務化したり、消費者や小売店に税制上の優遇処置を行なっています。そんなことは、意図して一切説明しないのか、知らないのか。日本の消費者は現金で決済することが、遅れているとも、不便ともサラサラ思っていないので、4名の記者は「わが国は世界の流れに大きく遅れているので、急いでキャッシュレスに対応しなさい。」とでも言いたいのか。

その後の連載では、日本でのスマホ決済の事例としてオリガミやLINE Pay、Apple Pay、エニィペイなどの紹介をしました。そして最終回の21日には、セブン銀がLINE Payと連携した同行ATMでの入出金の事例でした。思わず笑ってしまうのですが、キャッシュレス化の代表的ツールであるスマホ決済で現金の預け入れや引き出しをするのです。セブン銀からすれば、LINEユーザーの取り込みが狙いですから、全く筋が通るのですが、この特集記事としては?そして最後の事例がイオン銀の生体認証ATMでした。メガバンクなどとの違いは、カードやパスワードが不要で生体認証だけで取引ができることです。イオンの度胸の良さは、とても伝統的銀行のできる技ではなく、多少のトラブルは覚悟の上で、先進性を打ち出そうというのでしょう。成功すれば、保守的な銀行も安心して後追いができます。でも記事では、この例がキャッシュレス化に結びつくシナリオは記述されていませんでした。

スマホ決済は、現在のところ殆どがQR決済です。いろいろとメリットが言われますが、筆者などからするとポケットから財布を引きだすのとスマホを引きだすのは労力として変わりなく、QRを読み取って支払い操作するのと、現金の受け渡しを行なうのも変わりない。現金を持ち歩かないスェーデンや中国の大都市のようになれば、それなりに便利ですが、日本では結局は財布もスマホも持ち歩かざるをえない。スマホ決済だと何時どこで何を買ったなどとうるさくつきまとわれるが、現金にそんな煩わしさはありません。そのくらいなら、Suicaの方が、遥かに携帯に便利だしポイントもつく。時々、匿名化するからとかいって、人様のプライバシーに手出ししようとしますが、煩わしくなったら他の電子マネーに変えれば済む。というのが、日本人大多数の実感ではないでしょうか?ただし、スマホの顔面認証や指紋認証だけでいろいろな決済ができるようになると、財布の内積の半分近くを占めるカードを持ち歩かなくて済む。それに窃盗や紛失などの心配がなくなる。始まると普及は意外と速いかもしれません。

金融庁は近未来投資戦略という今年の国家戦略において、10年後には現在のキャッシュレス比率19%を40%にするとしました。金融界の方々は、とても無理だろう、実現できなかったらどうするのだろうと言います。筆者は、その時には森長官は金融庁にはいないから、何の問題もありませんよなどと話をそらしています。このキャッシュレス比率という数値はどう計算されるのでしょうか?分子は非現金での精算額比率なのでしょうが、分母は何か?金融庁の参照資料などでは現金流通額を使うことが多い。民間調査機関などでは、国民最終消費額を使うことが多いようです。いずれにせよ、決済件数ではなく、決済額です。だとすると、スマホ決済などコイン替わりのキャッシュレス化は殆ど意味をなさない。わが国現金流通額の大半は1万円札です。そこで、1万円札廃止論なども出てきますが。要は、クレジットカードの利用をもっと高めれば、多くの人が無理という40%は難しくはないと思うのです。国は、クレジット利用促進の為に、チップカード化でセキュリティを強化し、認証端末導入に補助金などを出す予定です。それよりも、カード会社が加盟店から徴収する手数料を強制的に引き下げることが一番効果的なのですが。

現金流通が減ると銀行側メリットは何か?みずほグループは現金に対する運用管理コストが8兆円と言います。別の調査では、ATMの運用管理コストが年間2兆円という推計もあります。台数が半分になれば、相応のコスト削減が可能ですが、消費者との接点はカード会社に移ってしまい、銀行は単なる口座管理業になります。今の銀行にとって決済サービスはコスト割れの、はなはだ人手を要する必要悪であります。だから、コスト削減を目指したキャッシュレス化というストーリーになります。メガバンクのデジタルマネーの動きがそれです。そこに、決済から得られる顧客の生活行動情報が本当の狙いなのだと付け加えます。日本でアリペイやアップルみたいなことをやったらどうなるか?見てみたい気がします。仮に普及すると、ある人の情報には大変な価値がつき、別の人の情報は全くの無価値などとなるでしょう。その情報価格が、本人に判るようにすれば、当然、他人の知るところとなりますから、それがその人の世間価格となります。やはり、メガが考えるのは、供給側論理ということか?デジタルマネーの望ましい使い方は、もっと福利厚生的なものの方が良さそうです。地域金融機関がいろいろと考えています。

金融審議会では、こんな議論も行なわれるのでしょうが、はたしてどう着地を見出すのか。議論は複数年かかるそうです。

                    (平成29年12月25日 島田 直貴)