銀行の構造改革(店舗統合)

金融経済新聞の平成29年12月11日付け記事です。十六銀行が岐阜県内を中心にフルバンク支店40ケ店を個人客向けに転換するという内容です。県内に106店あるそうで、愛知県内52ケ店も将来は対象とするようです。母店に融資や外為等を集約し、転換対象店は個人向けの相談業務に特化します。結果として店あたり10人の行員を6人にして年3500万円の人件費が削減できると試算しています。40店ですから、年14億の人件費が減らせることになります。対象店の支店長は経営待遇から管理待遇と格下げになり、支店長代理も減らせるそうです。賃借り店舗であれば、家賃も減るでしょう。(家主は同行との取引を停止するでしょうが。)自社ビルで余剰スペースが出れば、貸すことも可能です。金融庁は、銀行の余剰スペースを地域向けに貸し出せる規制緩和を検討しています。

随分と思いきった施策ですが、行員のモラルダウンは相当なものでしょう。最近は、銀行員の転職率が上がっているようです。若い人は転職し易いですが、高齢者となると難しいとも聞きます。昔話ですが、中途採用に応募してきた銀行員に「何ができますか?」と聞いたら「支店長ができます。」との答えに、「ウチには支店長という仕事はないのだけど」と面談者が返したという話がありました。学歴やブランド性の高い職歴は、転職に不利となることが多いのですが、それを知る銀行員は意外と少ない。

人員削減や店舗統廃合で、3メガが規模を競っています。余り美しい景色ではありません。先日、筆者が決済に使うメガの支店にいきました。閉まっていました。一瞬、倒産したかと思ったら、ビラが貼ってあって、100メートルほど離れた古いビルの一階に2台のATMとなっていました。大きな店だったので、行員達はどうしたのだろう、パートさんは仕事を失ったんだろうなと少々暗い気持になりました。事前に閉店を知らせる掲示には気づきませんでした。小さなビラでも貼ってあったのでしょう。

少し腹がたってきて、いっそ、銀行を変えてしまおうかとも思ったのですが、幾つもの役所や企業などに口座変更届けを出すのが面倒なので、放っておくことにします。この銀行の窓口に行ったのは10年以上も前が最後です。通帳記帳は一切していません。カードは、この銀行が合併を繰り返す前のものです。擦り切れていますので、次回、窓口に行くのはカード再発行の時でしょう。その時には、店に来るなと断わられ、ネットか電話で申し込め、手数料は口座から引き落としておくからと言われるのでしょう。この口座は筆者にとって50年の歴史がありますが、時間とともにその銀行に対するロイヤリティは薄らいでいます。英国のように、銀行口座のポータビリティ制度があれば、まるごと、口座を移したいところです。

十六銀の店舗転換策は、個人客には便利かもしれませんが、法人はどうでしょう。一番迷惑となるのは、決済等で複数の取引を持ち込む法人です。銀行としては、ATMかネットで済ませて下さいというところでしょう。融資や外為取引は、頻度は多くないので母店に足を運ぶことになります。中にはタクシ−代かバス代を出せと嫌みをいう法人があるかも知れませんが、営業渉外の訪問回数を増やせば、喜ばれる筈です。

銀行の支店は勘定系オンラインと並んでレガシーの代表であり、デジタル経済における負の資産とされます。手続きが多すぎる、銀行が多すぎる、支店も多すぎるとされます。特に、金融庁はそう言います。それは、コスト構造からすれば事実です。しかし、コンビニや家電量販店等の多店舗戦略を考えると、銀行の場合は、数の問題というよりは、質の問題に思えます。銀行は、もっと支店数を増やすという選択肢もあるのではないか。りそな銀は、既に540店という最多の店舗網を持っていますが、それを今後の3年で30店増やすとしています。但し、事務処理を中心に業務量は更に減らすとします。これが、今後の銀行店舗戦略だと思うのです。MUFGも構造改革を発表した際に、平野社長が、当面は小型店を中心に店数が増えるかもしれないとさりげなく漏らしたそうです。

要は、ネット化が進んだ、キャッシュレス化も進む、よって店の業務が減り、来店客も減るのだから、店を減らしても顧客の迷惑にはならない。多少の迷惑をかけても、銀行が立ちゆかなくなれば、それこそ、お客に迷惑だというロジックは、顧客には通じないと思うのです。喜ぶのは、株式市場だけでないか?とすれば、地域銀であれば上場廃止という方法もある。一番大切なステークホルダーは誰かという問題です。

米銀の大手では、モバイル・ユーザーが3千万人となり、BOAは大幅にATMや店を減らしましたが、顧客の反発は想像以上でした。筆者のように、滅多に窓口に来なくても、必要があって店に行こうと思ったら無くなっていた。腹をたてて、銀行を変えようかと思うのが、普通のお客です。BOAが顧客の反発に驚いて、店舗廃止を中止すると声明を出した日に、ウェルスファーゴのCEOが次のような発言を記者団に発しました。「当行は、店を減らす程、困っていません。お客はスマホで取引するが、電話もかけてくるし、店にもやってくる。当行は、顧客に必要なチャネルとサービスを提供し続ける。」

両行の判断基準の違いが明確な話です。一方は、銀行の収益性が第一で、もう一方は、顧客の望みが第一だということです。地域銀行には、いつもこう言います。「チャネルとしてネット、デバイス、対面(支店と営業担当者)の3本が不可欠。メガには、対面チャネルを強化し続けることは無理。地域銀は、この3タイプのチャネルをうまく組み合わせることが重要です。金融業の根幹である信頼はネットだけからは、生まれません。最強のチャネルは対面であることは、将来ともに変わらない。」と。信頼を失うのは一瞬です。取り戻すのは、まず不可能です。

                   (平成29年12月13日  島田 直貴)