銀行のIT内製化

平成29年11月10日付ニッキンに、八十二銀行の事務統括部員がタブレットで各種手続きをペーパーレス化するソフトを開発したという記事がありました。女性行員2名を含む3名が3カ月で作ったというのです。今はオフラインで実験中ですが、今後、本番化するとともにホスト接続を図るとしています。

この記事を見て嬉しくなりました。筆者は最近の講演で、「銀行員は全員プログラムを作れるようになるべきだ。車の運転と同じで、皆さんは、車を作る必要はないが、運転は自分ですべきだ。いちいち、運転手を外から雇っていたら、思う所に移動できないし、金ばかりかかる。」と主張します。それを聴く金融機関の方々は、それは理想だが、とても無理という顔でまともに聴いてくれません。英語を学ぶより、はるかに簡単ですよと言っても駄目です。ところが、八十二銀行がそれを始めた。同行とは、昔、随分と親しくさせてもらいました。その頃は、地銀界で最も先進的で効率的なシステム化を進めているとして、高く評価される銀行でした。その血が活きているのが嬉しかったのです。

筆者がこう主張するのは、今のIT丸投げに強い危機感を持っているからです。来年からは、クラウドが本格的に金融で普及し始めます。となると、アプリを内製できる企業と丸投げする企業では、スピードもコストも大きく差が出ます。よく引き合いに出すのが韓国の銀行です。日本の銀行が、ある案件を考えて、部内稟議している間に、韓国の銀行はプロトタイプを自分で作ってしまう。役員会に方針稟議をかけている間に、韓国では本番稼動させてしまう。日本はその頃、ベンダーから提案書を受け取り、比較検討して、実行稟議を通して、契約手続きをして、ベンダーが要員手当てして、開発作業が始まる。最初にやることは、利用部門からどんな業務仕様にしたいかを聞き出し、関連資料を分析して、設計し、云々をウォーターフォールで行なう。そして出来あがるのは、アイデアが出てから1年以上も後になる。当然、コストは嵩む一方です。

どんな業務でもアジャイルで作るわけではなく、ウォーターフォール式で作ることもあります。しかし、昨今のシステム化は、対象業務が事務プロセスではなく、顧客サービスへと急速にシフトしています。これしかないという作り方はありませんし、作ってから頻繁に修正・変更することになります。とてもウォーターフォールでは間に合いません。GEがイメルトCEOを解任するまで、全社員プログラマー化を標榜していました。この話を聞いた時に、今ですら、ソフト生産性で大きく劣っているのに、徹底的に負けると思ったものです。

ITに関わる技術で基礎も応用もプラットフォームも、日本はワールドクラスになれそうもありません。最初からグローバルで通用するものを作ろうと考えてもいません。例外はありますが、あくまで例外であり国力という観点からは意味がありません。海外企業とITサービスでも競争する日本企業は、このハンディを自分で乗り越えるしかない。海外IT企業の製品やツールを使ってでも、自社製品やサービスの競争力を高めることが必要で、アプリケーションでの勝負に集中することになります。そのアプリケーションを当該ビジネスの専門でもないIT企業に丸投げしていては、とても、競争にならない。ですから、この2、3年、製造業などはITの内製化、特にアプリケーション開発の内製化を急いでいます。

ところが、金融機関にはITでサービスの差別化という発想が弱すぎる。それを考える銀行があっても、具体的な方法はITベンダーに質問する。とてもプロとはいえない。と思っていたら、BTMUシステム部門の紹介資料を見て驚きました。東京本部850名とIT関連会社2200人、そして海外に3300人、合計で6350人のIT要員がいる。それを5千名を超えるIT企業技術者が支援している。そして主だったところでも、AWS要員を600名育成するとか、RPA専門部隊を200名で発足させるといったスキル強化も図っている。加えて、フィンテック関連ではJDD社のように、別会社化して意思決定と事業開発のスピードを大幅に速め、IT要員の採用を一挙に強化するという施策を打ち出しています。

最近は、メガバンク3行が構造改革と称して、事務作業のRPA化などで6千人だとか1万9千人とかの人員削減計画を競っています。でもその時間軸をみると10年です。3メガがこれからの競争相手とするGAFAが生まれてから今の巨大企業に成長したのと同じ時間をかけて、社員の十数%を減らすというのです。それを競わせているメディアにわが国の国際競争力が顕れています。

しかし、MUFGがシステム開発の内製化に大きく舵を切ったことは心強いことです。JDD社は高度技術者の採用を進めていますが、その給与水準は銀行本体より高いそうです。以前は子会社の給与水準で、勤務先は千葉ニュータウンでした。応募者が殆どいなかったそうです。当面30人ほど採用するが、その人件費予算は10億円だそうです。IT業界で最も給与の高いNTTデータやNRIを凌駕します。ただし、面白い仕事でないと良い技術者は来てくれない。そこはFinTechで一緒にチャレンジしようという話でしょう。

メガのような規模のない地域金融機関にはとても無理と思うかもしれません。でも、海外では、数百人しか社員のいない中小金融機関でも、独創的なサービスを内製開発して顧客を集めるところがあります。最近では、7月に設立した韓国のカカオバンクが典型例です。たった2カ月で390万口座の開設があったそうです。日本のネット専業銀行のウリはただ、店舗を持たないから安いというだけですが、ターゲットの客層に合わせたサービス・デザインがあればカカオのような成功は充分にありえます。

IT化においては、内製か外部委託かの二者択一ではなく、中間にコラボレーションという方法があります。地銀ではアライアンスと称して、営業活動等で協力し合っています。ITリソースの種類、システムのライフステージに応じたソーシング戦略を展開すれば、規模を補完することは充分に可能です。これからは、業態を越えたコラボレーションが進むでしょう。その場合でも中核となるIT人材は必要ですし、武器です。頭取や理事長は、自ら、高度IT人材を捜して、自分よりも高い給与を払うくらいの覚悟が必要になりそうです。

 

                           (平成29年11月29日 島田 直貴)