銀行の構造改革とRPA、そしてトランジット

メガバンク・グループ3社が構造改革案を競っている。平成29年11月14日の日経記事では、みずほFGの構造改革を大きく報道していました。マイナス金利や人口減少などの経営環境悪化に加えて、フィンテックによる異業種参入など競争環境も変わるので、高コスト体質を変えないと生き残れないとの危機感がある。そこで従業員を今の7.9万人から2026年までの9年で1.9万人減らす。拠点数を24年までの7年で500から400に減らすとしています。単純計算すると1年当たり2100人と14店舗を減らすことになります。削減規模が大きいので目立ちますが、1年当たりで見る限りは穏やかなものです。米系大手銀のCEOがフィンテックを脅威だとするシナリオと同じですが、リストラの規模とスピードは大分違います。

3メガが構造改革を説明する時に、必ず出てくる方法がRPAです。PC操作のルーティン作業をソフトウェアで自動化(ロボット化)する技術が、銀行リストラの主役になってしまいました。ただし、みずほ以外のMUFGとSMFGは削減人数ではなく、削減する業務量を数値目標としています。11月13日付の日経コンピュータのITPro版でSMFGは、RPAで200業務、40万時間分の業務量削減を実現したと報じています。対象はコンプラ・リスク関連と業界情報や顧客取引情報の収集作業などです。UiPathのデスクトップ型とサーバー型のRPAを併存させるそうです。更に年度末にかけて100万時間、3年以内に300万時間、1500人分の業務削減で人員余力を捻出し、収益部門に配置転換するということです。

何万人ものホワイトカラー従事者がいて、膨大なルーティン・ワークに携わっていると、随分と大きな削減効果が計算できるものだと驚きます。外部から見ると、それほど単純労働が多かったのかという感じでしょう。次には、形式化できるような専門知識業務をAIで置き換えるのでしょう。実現できればの話ですが。

SMFGはデスクトップ型とサーバー型を供用する、使うRPAはUiPathに統一する計画だそうです。正しいと思います。デスクトップ型で個別最適を図り、サーバー型で全体最適を目指す。片方だけだと、いずれ行き詰りますから。共同CoE(Center of Excellennce)という開発・運営管理体制も構築したそうです。これも重要なことです。こうした仕組みは、やはりメガならではと思います。社員数2、3千人以下ですと、そんな人的余裕がありません。また、皆さん、兼務で多様な業務をこなしています。その一部をRPA化しても人員削減になりません。ですからデスクトップ型で個別最適を追求する方が現実的でしょう。

個別最適を続けていくと、いずれは全体の整合性や効率の問題に行きあたります。そこで全社的な業務可視化とBPRを行ない、事務規程やシステムの操作マニュアルなどと精緻に連動させることになります。その頃には、先行したメガではサーバー型RPAで全体最適を目指した仕組みがブラックボックス化し、変化に適応できない状況となっているでしょう。彼らの学んだことを教えてもらえば、効率のよい全社的なソフトウェア・ロボット化が実現できます。RPAは簡単で単純な合理化策です。ベンダーはブームに乗ってAI、BPM、BRM、OCRなどとの連携を進めています。コンサル会社は、働き方改革だとか組織文化再構築だとか、全社的構造改革と称して、コンサル案件を広げようとします。それはそれで良いとも思うのですが、そのそも何の為の業務改革なのかが大切です。それと、事務や業務が自動化されてブラックボックス化することで将来の禍根を残す恐れのあることを理解しておく必要があります。

筆者が心配するもう一つは、業務量を減らせば人件費が自動的に減る訳ではないことです。人は自分の仕事が減れば、身の廻りにある何かをやって時間を埋めてしまいます。会社は、自動化するから何人を供出しろと命令するでしょう。すると、その部門長は自分が余り評価しない人から出していきます。その人が新たな職場で意欲的に働ければ良いのですが、それは稀です。会社は再教育に力を入れるでしょうが、会社に裏切られたと思う人が、どこまで熱心に研修を受けるでしょうか?こうした悪循環は、何十年にも渡って製造業などで繰返されてきました。金融界でも再編の際に大量の人が転出しました。しかし、その時にはその人達が転職する理由に充分な名分と処遇がありました。

トランスフォーメーション(企業変革。ToBeへの移行をトランジットとも呼ぶ。)は実に難しい。新しいビジョンと目標や戦略、組織や評価基準などを変えるのは簡単です。しかし、それを実行する人々のモラル、スキル、価値観などを納得感をもって変えるのは極めて難しい。企業だけの問題ではなく、社会としても労働移動性や働き方を変えていかなくてはならない。社会や個々の銀行員にとって、最も良い方法は、優秀だと衆目一致する人から、銀行を出ていくことです。「RPAやAIでできるような仕事をやっていられるか。自分は新しいチャレンジをするぞ」と起業してくれれば更に有難い。この人達で、最初からAIやRPAを組み込み、フィンテックを活用した銀行を作れば、その時にトランジットで苦労している元勤務先を凌駕することは難しくないでしょう。

                       (平成29年11月14日 島田 直貴)