FinTech普及に決済・送金の関連法を一本化

平成29年10月13日付け日経新聞の記事です。金融庁が決済や送金などに関連する法制度を再編して一本化する方針だという内容です。現在、銀行法、割賦販売法、資金決済法などで別々に規制していますが、それでは、技術革新や金融サービス高度化に不都合が発生するので、それを業種横断の統一法として、年度内に方針を固めて、2018年以降に施行したい考えだということです。

日経新聞記事では、金融庁の新しい動きのように記述していますが、フィンテック関連で電子決済を検討した初期段階から、関連法制の整備統一が必要だとしてきました。ならば、今年6月に施行した電子決済法を国会上程の段階で統一すればよかったではないかと思うかもしれませんが、関連法には割賦販売法のように他省庁所管法制度も含んでおり、新制度設計に時間をかけるよりも、まずは、部分的にでも規制緩和して、その状況を踏まえながら順次制度改正を行うことを選択したのでしょう。行政当局としても、今の変化が最終的にどうなるか確信を持って予測できない以上、実験的と言われようとも、走りながら考えようという方針のようです。今回、統一法化を明示したとすれば、経産省との根回しが済んだと思ってよいでしょう。または、観測気球か。

この記事から、金融機関など関連する業界が注意すべきは、行政の姿勢です。つまり試行とスピードを重視している。従来のように最も足の遅い金融機関に合わせる護送船団方式を放棄したということです。金融機関としては、このスピードと変化についていけるのか、それとも、自社の市場を維持確保しながら、できる範囲内の新施策しか実施しないという決断ができるのかということです。行政としては、自社の事業継続性と取引先の支持が得られるのであれば、必ずしも新しい動きにあわせる必要はないと言い切っています。金融機関経営者としては、自主判断と自己責任を求められる辛い立場でもあります。

海外先進国では、米国を除けばEUに代表されるように、決済・送金関連法の統一化が進んでいます。その際に、FinTech企業など、新規事業者が参入しやすい制度設計が行われています。ただ、それには前提があり、欧米では大手銀行の市場占有率が高く、特に、リーマン・ショック後の銀行による手数料値上げや非優良顧客に対するサービスレベル低下は、多くの国民から非難を浴びています。政府としては、伝統的金融機関、特に大手銀に厳しい姿勢をとらざるをえず、新たな競争環境を作り出そうとしています。

わが国では、リーマン・ショックの影響は欧米銀ほどではありませんでしたし、銀行界はリストラといっても、顧客に不評を買う施策はとっていません。店舗統廃合なども、極力スピードを抑えて、顧客の不満が表面化しないように配慮してきました。それなのに、どうして金融庁は欧米などと同じように制度改革を急ぐのでしょうか?理由は、技術革新と海外との競争力です。国際的競争はメガだけだろうという人もいますが、企業も個人も海外の金融機関と取引するのに大きな制約はありません。それほど金融サービスのグローバル化が進んでいるということです。信金や信組もこの流れから逃れられない状況です。

筆者が気にするのが、こうした決済・送金サービスの改革関連記事では、必ず今の手数料よりも大幅に手数料が下がるという決まり文句です。記者の思い込みとも言える、この表現は事実なのでしょうか?大昔ですが、大手地銀の内国為替関連の取引処理コストをみたことがあります。手数料が600円と800円の時代です。この200円の差は、印紙税です。大蔵省主税局の人に、消費税と印紙税の二重課税ではないかと聞いたのですが、明確な説明は得られませんでした。手数料の高い原因とされる全銀システムの手数料は200円前後でした。今、それはリアルタイム処理で数十円(金融機関の規模や取引件数で単位コストは異なりますが、50円を優に下回る。バッチ伝送方式だと10円以下です。ここでは30円と仮置きしましょう。)

つまり、400円かかる振込み手数料のうち、9割前後は送金電文の伝送コスト以外です。各行の勘定系オンライン処理コストや仕向け銀行、被仕向け銀行の人的コストなどです。全取引がSTP(ストレートスルー・プロセシング)で全自動化できれば良いのですが、窓口で振込み伝票から端末入力すれば、さらに大きなコストがかかります。当事者の氏名、口座番号や銀行名、支店名の誤記修正などには大変な手間がかかります。これは、顧客が振込先を間違えた時に、銀行が誤った送金先から資金を回収して本来の振込先に再送金する振り戻しに2千円前後の手数料がかかることからも理解できると思います。銀行は、2千円もらっても大赤字だそうです。

仮想通貨を使うと、どのコストが安くなるのでしょうか?送金メッセージだけだとすると、1割下がれば良いということではないか?身元が確認されており、銀行に取引を停止されたら困る預金口座保有者と違って、携帯電話を購入する時の身元確認しかしていない相手に誤送金したら、どうなるのか?誤送金先と代行手続きを行う決済業者(行なってくれればの話ですが。)の間でトラブルになることもあるでしょう。我々は、間違いを犯さず、善意の相手を前提に考えますが、送金先にはいろいろな人や企業がいます。クレーマー・コストだけでなく、さまざまなシチュエーションが出てきます。銀行業界は、長い歴史の中で、こうしたトラブル・ネタを事前に押さえ込み、処理する仕組みを作りあげています。

日本は信用経済の社会です。決済・送金はその根幹です。小口決済であればあきらめるか、保険でカバーできるでしょうが、大口資金となると我々個人や中小零細企業では対応しきれません。メディア記者の皆さんには、決済を通信コストや利便性だけでなく、信用経済を支えるインフラだという認識を持って、もっと、客観的で正確な表現をしてもらいたい。その為にも、決済・送金にどんなプロセスがあり、どんなリスクがあるか、銀行は情報公開をすべきです。その上で、新種決済における決済業者と顧客の責任分界を明確にすべきです。改革と煽っておいて、後に大トラブルが起きた時に、全てを決済業者の責任に押し付けるようなことは避けなくてはなりません。新規参入する決済事業者も、本業の決済事業は赤字で、決済データを収集・販売するという事業計画は、金融事業の社会的使命から逸脱していないかと懸念する次第です。

 

                                        (平成29年10月16日  島田 直貴)