モバイル・チャネル (携帯電話とICカード)

日経新聞の9月29日号がICタグの動向を紹介しています。三菱マテリアルやデンソーウエブなどが非接触型ICタグを家電製品に埋め込み、履歴管理や検品などに利用する試みです。
現在、使用されている非接触型ICは記憶容量が256或いは512バイトで、大きさは10円玉大、価格は100円程度だということです。

私は知らなかったのですが、日本自動認識システム協会という団体があり、ICタグと周辺機器を合わせた市場規模は、今年で235億円だそうです。事業規模としては、極めて小さなもので(ちなみに外食産業は30兆円、IT産業は20兆円、パチンコ産業は10兆円、アングラですがヘルスですら4兆円)業務プロセスに多大な影響を与える可能性があります。プロバイダーとして参入するよりも、それを活用するビジネスを考えるべきでしょう。

1984年に銀行の顧客10数名に随行して欧米の銀行を視察したことがあります。当時日本ではICカードの実験が始まり、銀行業界でもカード仕様の標準化を目指した検討が開始された時でした。欧米の金融機関では、カフエテリアでの支払やマシンルームや役員フロアへの入館証として既に普及しており、VISAがカードへの搭載を実験しだしていました。同行した銀行員の皆さんは、近い将来、日本でもICカードが主流になると考えたようです。私はリプレース・コストの負担者がいないことや、ICカード技術が普及に充分な技術水準にないこと、何よりも顧客へのメリットが見えないことで消極的な評価をしてきました。

10年近く前にモンデックスが日本に上陸した時も、その評価に変わりがありませんでした。日経新聞は資本参加したこともあり、連日のように応援記事を掲載しました。興銀もあらゆる伝手をたどって協賛銀行を募集しました。数名の地銀頭取が悩んでどうしたものかと電話してきたものです。私は、自分がもともと時期尚早論だったものですから直答せずに「使うか使わないかは消費者が決めるでしょう。技術屋や天動説の銀行員に聞くよりも、お宅の奥さんに聞いて下さい。頭取がキチンと説明できて、奥さんがそれは便利、使いましょう・・と言うのであればモンデックスに数百万円の入会金を払えば良いでしょう。でも、この手の技術は普及しないと意味がありませんから、何も競って先行することはないですよ。何時でも参加できないようなサービでは普及しませんから。」と申し上げたものです。奥方達の回答は共通でした。[何、ソレ。何でそんな不便ものをわざわざお金払って使わなくてはならないのですか。今より良いことが何かあるのですか?]でした。

ところがJR東日本のスイカによって、話が随分と変わってきました。非接触型であることで、顧客認証が大幅にスピードアップしたのです。このカードは、ソニーのFelicaというチップを搭載していますが、既存の接触型チップや磁気ストライプとの共存が可能です。ソニーのEdyカードは、コンビニやクレジットカード会社など多くの企業が採用を予定しています。恐らくハード仕様からすれば、日本の標準となるでしょう。銀行業界は、かつてのように業界標準のプロトコルを決めて、自己中心型の仕様制限を行なうことは出来ないでしょう。二、三年かける検討の間に、普及が進んでしまってデフアクトスタンダードが出来てしまうでしょうから。この意義は大きいものがあります。通信電文やカード・データ仕様などのビジネスプロトコルを決める際に、銀行界が天動説によって社会活動の進歩をどれだけ遅らせてきたことか。ようやく我が国は、この呪縛から解放される時代になったのだと感慨深いものがあります。

非接触型ICカードに加えて、楽しみな技術が携帯電話です。近くある携帯電話会社と大手IT企業が提携して携帯電話機と通話料金を合わせて月額固定料金1万5千円のサービスを開始するそうです。既に、PCモニターの画面を携帯画面用に自動変換するソフトもありますので、企業の既存システムを携帯と接続することは簡単です。一方、携帯電話を個人認証のツールとして使う試みは、自動販売機での支払いに携帯を使うなどの事例が出ています。これと非接触型のICカードを複合させますと、カード決済とネット決済が結合できます。固定料金制の携帯電話を優良顧客に無料で配布すれば、顧客との双方向かつ継続的なチャネル構築も可能です。営業マンに持たせれば、モバイル・チャネルとしてテクノロジー・ドリブンのBPR機会が大幅に増えます。

なんとも面白い展開が可能となってきました。私もICカードに対する悲観的評価を止めて、積極論者に転向することします。

一つだけ、ご注意を。最近、この手のアイデアをビジネスモデル特許申請中と称して、提携話を持ち掛ける人々が増えていることです。提携に関わる費用負担として数十万円か数百万年を要求するようですが、いかにもM資金のような伝統的な手法でアプローチしてきます。日本のIT産業も成長が鈍化して、資金繰りや事業計画に支障をきたす企業が急増しています。このような時には、怪しげな連中が跋扈しやすいものです。常識に基づいた判断が大事でしょう。