終活金融(信託銀、生活支援が競争力)

日経新聞、平成29年9月5日号の特集記事です。75歳以上の後期高齢者向け生活支援サービスが信託銀行の営業テーマとなっており、みずほ信託は、介護やホームセキュリティ会社など14社と提携して、信託商品と介護相談、家事代行などを組み合わせた新商品を8月に投入したとあります。今後は、葬儀やお墓、ペットの世話などサービスを拡充するということです。同行の担当者は「高齢者のニーズは幅広く、本人も予測できないことが多い。」を言います。まさに、この市場の複雑さをあらわす言葉です。

金融経済新聞の9月4日付には、高齢単身者の孤立死に対応する賃貸住宅オーナー向け保険を紹介していました。入居者が孤独死した場合、家賃清算、家財処分、清掃、現状回復などが必要で、場合によっては風評被害によりしばらく空室となるリスクもあります。こうした費用を補償するには、火災保険の特約があるが、少額短期保険が圧倒的な市場占有率だとのこと。ところが、登録制の少額短期保険業者が扱える保険は、保険額1千万円以下、期間2年以内という制約があり、現在は上限額を引き下げて期間を5年とする経過措置が採用されています。その期限が来年3月に切れる。少額短期保険協会は、経過措置の延長を要請しており、金融庁も有識者会議で検討を開始したという内容です。まさにニッチな保険市場ですが、こうした保険がなければ、高齢者が賃貸住宅に入れなくなってしまうでしょう。

世帯主が65歳以上の世帯は、2015年で1889万、内、単独世帯が601万だそうです。75歳以上に限ると882万世帯で、単独世帯が326万です。これらが、毎年30〜40万増えていくことが確実です。そして、65歳以上の10%強が程度の差はあるが認知症だということです。こうした人達のケアには膨大な費用がかかりますが、一方で、彼らの社会生活において様々なトラブルが起こります。それを防止、被害の軽減、金銭的な補償に対する社会的ニーズは高まる一方でしょう。

生命保険業界は、以前から超高齢者社会における生命保険サービスをテーマとし、特に、高齢者対応の向上策を模索してきました。最近では独居老人をどのようにサポートするかと様々な商品や付属サービスを開発しています。最近流行りのインシュアテックで思い返すと、認知症老人にGPS、介護施設入居者に尿センサー、歩行速度で認知症の早期発見などなどです。どうも、高齢者自身のニーズに応えるというよりは、ケアする親族や施設職員用の発想です。

筆者達、高齢者が集まってこうした話題になると、「終活だとかエンディング・ノートだなんて、縁起でもないし、失礼な言葉だよね。」とか、認知症では「先にボケたらこっちのもの。自分は何も判らんし」という台詞に全員が同意します。受益者が誰か、費用負担者は誰かという視点が、大手生保や損保には欠けているようです。インシュアテック・ベンダーにも見られない。その点、みずほ信託の生活支援サービスは高齢者自身が費用負担しながら、安心と生活利便を改善できそうです。ただ、画一的なサービスや業者選定では、広く普及する仕組みにはなりません。担当者の言う「高齢者のニーズは幅広く、本人も予測できないことが多い。」はまさにその通りです。

筆者達のNPOでシルバー・フィンテック研究会を昨年、立ち上げました。3回程開催して停止してしまっています。理由は単純でニーズがバラバラ、皆に共通なサポート・サービスなど出てこない、あるとすれば単純で既に存在しているからです。ある人は、奥さんが先に認知症になってその世話で困っている。それが優先順位第一。別の人は、ペットの犬を買いたいが、自分より犬の方が余命が長いので犬だけ残すのは可哀そう。更に別の人は、遠隔地に親から継いだ不動産があるが、その管理が仕切れない。子供は娘ばかりで、嫁入り先に頼む訳にもいかない。云々です。ニーズがバラバラだと書きましたが、その時々でニーズは頻繁に変わる。それを本人でも予測できない。こうした、ニーズに全て応える仕組みを考えだしたら、それは売れるでしょう。でも無理か。

また、商品・サービス開発者は、現役バリバリの勤め人ですから、高齢者の悩みや希望を心から判っている訳ではない。ただ、男女を問わず、認知症云々を問わず、大多数の高齢者は自分の話を聞いてもらうと喜ぶ。幼児や子犬の遊ぶ姿や声に喜ぶ。皆で大きな声で歌ったり、笑うと元気になる。その後は、食欲も増える。何が言いたいかというと、悩みは千差万別、ころころ変わる。際限がない。一方で、喜びはほぼ共通している。高齢者向けサービス開発を手がける人が、何故、喜び支援に目を向けないのかが不思議です。高齢者の保有する資産をターゲットにするだけでは、差別化できません。

昔、地方選挙で「元気はつらつ、寝たきり老人」を公約に掲げた候補者がいました。その時は「ふざけた奴だ」と思ったのですが、今にして思うと真をついた公約で、こちらの考えが浅かったと反省しています。

                  (平成29年9月5日 島田 直貴)