三井住友FGがNECとBPOの共同事業

日経コンピュータの平成29年8月25日付ITPro記事です。SMBCの完全子会社にNECの完全子会社が49%出資して、AIやRPAを使ったBPOサービスを開発する。社名をNCoreと改めて、10月から金融やそれ以外の業種から定型的事務作業の受託業務を開始するとの内容です。

同日付の日経新聞は、この発表に対して、異なる切り口から報道していました。SMFGの事業再編の一環だという内容です。子会社フィナンシャル・リンクが行なう給与計算や請求書作成受託業務は、成長性はある程度期待できるものの、BPO専門企業に比べて金融グループに強みはない。昔は、銀行がITで先進しており、多くの銀行が計算受託業務として関連会社経由で提供していたが、今日では、技術的進歩、サービス進化に遅れをとってしまった。加えて、BIS規制の強化を考えると、売却するか出資比率を下げざるをえず、関西アーバン、みなと銀、ポケットカードなどの持株売却と同じベクトルの事業再編だと書いています。標題は「事業再編・餅は餅屋」でした。

今回の持株売却は、改正銀行法によるフィンテック関連IT事業参入とは逆の動きです。後ろ向きに取られないように、AIやRPAを並べて、NECと戦略的なフィンテック事業展開というイメージを狙ったのでしょうが、日経新聞は資本戦略とグループ事業の再編成という脈絡で整理してしまいました。

ところで、新会社NCoreは、NECの完全子会社であるNECマネジメント・パートナーが49%大株主となります。しかし、SMBCが51%を持ち続けるようです。こうすることが、NCoreにとって何が良いことなのでしょう?2000年創立の会社ですから、社歴が17年。銀行本体からの天下り社員と生え抜き社員が業務を遂行し、営業活動は銀行からの紹介というイメージです。それが、銀行とNECの半々出資となると、銀行の営業担当者は余り力を入れなくなるでしょう。一方のNECは、役員を派遣しても、元の企業の独立性と組織文化や慣習を重視します。はっきり言えば、放任して面倒はみない。その結果、誰が責任を持って営業をするのかという心配がでてくる。

更に、AIやRPAといってもNECに目立つ、独特の技術があるとは聞きません。顔認識は世界クラスであり、音声認識では10%前後のシェアがあるとは聞きますが、それ以外に聞いたことがない。金融系やオフィス系のアプリに強いという話も聞かない。小売業や地公体、医療関係では実績があるようですが、筆者が全く経験のない分野なので、NECがBPOやシェアードサービスにどんなアプリを乗せられるのか、それも採算の取れるようなビジネス展開できるのだろうかと心配のタネは尽きません。

旧住友銀行とNECは、同じ住友グループで古くからの緊密関係にあります。一方、旧三井銀行と同じ三井グループの東芝は、オフィス業務には実績も経験も豊富です。なぜ、東芝でないのか?東芝は経営危機でそんな余裕はないということか。常識的に考えれば、住友銀行系の行員が、フィナンシャル・リンクの出資比率を下げようと考えて、頼み易いNECに受入れを頼んだと考えるのが自然です。NECが迷惑と思ったか、労せずして顧客が手に入ると思ったかは知りません。でも、住銀に頼まれたら断れないでしょう。

三和銀行が経営危機になった2002年7月のことです。同じ企業グループの日立に基幹系システムを買ってくれるように依頼しました。価格は500億円。地銀に売るには大きすぎ、他の都市銀行には、基幹系システム更改の計画はない。転売できる当てがないにも関わらず、日立は即応しました。同じ企業グループだとか、長年の親密関係があればこそ、デユーデリなどと言わずに応諾する。

しかし、今の時代だと、悪くすれば株主から責められる。場合によれば、取締役は背任を追求されます。も提携戦略というからには、提携した後の事業展開を確実に進める必要があり、その可能性を高めるためには、お互いの強みと弱み、事業の機会と脅威が整理されてなくてはなりません。不足するものがあれば、例えば、当件であれば、RPAやAIに強いベンチャーを巻き込むとか、海外IT企業をも抱き込んだ提携にするとか。残念ながら、そうした動きは一切なかったようです。

こうなると、巻き込まれた社員が気の毒になります。同じような状況にある銀行傘下の計算受託会社は、60社以上あります。筆者の知人にもこうした銀行系計算受託会社の役員をしている人が数人います。彼らには、いざとなったら、MBOで経営権を握りなさい、その上で、特定の技術に強いベンチャーと組みなさいと提言しています。親銀行のするままにしていると、仲間の社員達の人生を狂わせてしまうからです。しかし、銀行傘下にあって、自律的な経営経験のない人達ですから、なかなか踏み切らない。

であれば、同じ境遇の銀行系計算受託会社同士、合併して経営力のある人材を取り込めば良いのにと思うのですが。日本の場合は、経営者になっても、うま味がありませんから、そこまで踏み切る人がいない。となると、独立系IT企業で事業拡大を企図する会社が、買収するのが一番合理的なようです。営業力と技術力は、補充しなくてはなりませんが、施設も人材も揃っています。そして顧客を持っている。このまま埋もれさせるには惜しい企業が多いのです。

                          (平成29年8月29日 島田 直貴)