P2P送金ビジネスとFinTech栄枯盛衰

金融経済新聞の平成29年8月21日付記事です。30を越える米銀大手が共同のP2P送金サービスZelle(ゼル/ゼリ)を構築していますが、6月からBOAやウェルズ・ファーゴなど9行がサービスを開始しています。フィンテック企業Venmoへの対抗として鳴りもの入りでスタートしたのですが、銀行の熱意はイマイチ盛り上がらないようです。結果、Venmoユーザーの94%はZelleを知らないとし、63%はこれからもZelleを使わないと調査に回答しているとのことです。

Venmoは2009年に設立、12年3月にサービスインしました。メールアドレスか携帯電話番号を指定するだけで送金できる。6月時点で700万のアクティブユーザー数がいるそうです。相手先がVenmoに口座を持たなければ、招待機能もある。割り勘も簡単。スマホ送金サービスの元祖みたいなサービスです。Venmo meと言えば、金を送ってという意味で、今ではVenmoが動詞にすらなっているという。Venmoの平均送金額はたったの2ドルですから、送金ビジネスとしての影響は既存銀行には余りない。ただし、圧倒的な取引件数で顧客の送金インタフェースを奪われるという危機感が銀行にあり、Zelleの設立に至った。銀行としては、Zelleで収益を上げる必要はない。Venmoの収益を邪魔すれば良いだけ。利便性と低価格がウリのFinTechに対しては、市場を分断して一定以上の規模を確保できないようにしておくことと、料金値上げができないように価格競争を仕掛けていれば、遠からず、立ちゆかなくなる。

Zelleの企画が始まって1年程度で稼動させるという米銀のスピードを見ると凄いと思わざるをえません。その点、わが国では、一昨年の暮れに金融審議会の答申を受けて、全銀協が携帯電話番号送金に関するニーズ調査やサービス企画検討を始めました。未だ、何の発表もありません。要はニーズが見込めないということなのでしょう。「わが国では時期尚早」と言えば良いのでしょうが、金融審議会から「考えたらどうか」といわれて、無碍に拒絶できないのかも知れません。

審議会などの委員である学者や有識者は自分の海外視察の経験から「インドでは、露店でものを買う時に、店主の端末に指をおくだけで支払いが完了する。日本は遅れている。」などと言います。他の有識者も自分の見たことを並べます。銀行側委員は、「インドでは全国民の生体認証と国民IDがデータベース化されており、銀行口座と紐付ければ、ダイレクトに口座引き落としが可能だが、日本では無理。」とは遠慮して言わない。こうして、あれもやろう、これもやろうと高校の文化祭企画みたいになってしまうようです。携帯電話番号送金は、あれば使うことがあるかも知れませんが、なくても別に困らないというのが日本の消費者だと思います。つまり、銀行のビジネスにはならない。EC決済などで、決済手数料を加盟店から取るような仕組みが必要ですが、加盟店が受け入れるかは銀行の判断の外です。誰かがやってみるしかない。そこで、オープン・イノベーションが必要となる。金融審が、銀行にばかり迫っても話は進まないということです。

8月4日付のアメリカン・バンカー紙に、入出金アプリの代表格だった「レベル・マネー」が9月1日付でサービス停止するという記事があったそうです。(筆者は確認していません。)13年にサービスを開始し、家計管理アプリの代表的存在でした。今では、数多くの同様アプリが乱立して、市場が分断されてしまいました。料金も下がる一方です。それに勝ち抜くには、新規サービスの開発を絶え間なく続けるしかありませんが、資金も気力も続かなくなる。同紙によると、プロスパー・デイリー・アップ(ID管理)、ゼンバンクス(モバイルバンキング)も停止するとのこと。どうも、米国FinTechは成功しても、寿命は4、5年が多いといったところのようです。

米国のスタートアップ企業を評価する調査に、CNBCのDisruptor50というのがあります。今年5月の発表では、838社が審査対象となり、Top50を選んでいます。5年連続で選ばれた企業はAirbnbやDropboxなど5社だけです。金融関連でTop50に入ったのは、本人確認のTrulioo、ECペイメントのPayoneer、個人向け総合ファイナンスのSifiなど5社だけです。金融では創造的破壊が難しいということなのでしょうか?日本でもFinTechベンチャーの業績は、芳しくないところが殆どです。単クロ化している会社は、殆どが小さく事業をやっていて、限られた客層にコストをかけずにやっている。頻繁にメディアで出てくるような社員百人以上のFinTechは、売上の1.5倍以上の赤字を出し続けている。それを、VCや金融機関などからの資本参加でカバーしている。このことは、米国でも同様で、出資側からすれば、そのベンチャーの将来性を買っているということです。

しかし、気がつくと年間売上の何十倍もの資金が自社の口座に振り込まれるとどんな気分でしょう。金を使うには想像を越えた体力と知力が必要です。筆者の友人でそうなった人には「飲んだら駄目だよ。他人様の金を預かっているだけなんだから。遊びたいのなら、会社を売ってしまいなさい。」と冗談めかして忠告しますが、多くは聞かない。そして消えていく。Disruputorと称しても、特許など技術的差別化できるなら良いですが、アイデアものであれば、すぐに類似サービスが出てきて、市場は分割され、価格競争になる。自分が作った市場なのにと思っても、どうしようもない。スタートアップにおいては、マネタイズとイグジット戦略が必須条件だと思う次第です。

                          (平成29年8月22日 島田 直貴)