3メガが本人確認の共通基盤を実証実験

ニッキンの平成29年8月4日付記事です。3メガとデロイトトーマツがブロクチェーンを使った本人確認のプラットフォーム実証実験に着手したということです。今年度中に報告書をまとめる予定です。口座開設時の本人確認(KYC)作業効率化が狙いで、金融庁の「FinTech実証実験ハブ」への登録を検討しているとのこと。

顧客は、まず、新設される共同運営機構にWeb経由で登録する。同機構が反社チェックやアンチマネロン・チェックを行ない、ブロックチェーンに登録する。口座開設や高額送金などの取引を行なう際に、各金融機関は登録された情報を使って本人確認を行なった上で、取引可否を判断するというスキームです。実施した取引も記録します。同じ顧客が他の金融機関と取引する際には、同機構の情報を使って、本人確認済みとすることもできる。要は、KYCチェック作業を共同化し、関連するデータをブロックチェーンで記録管理する。その際の、コストやセキュリティなどを検証して、実現可能となれば他の金融機関の参加を求めるということです。顧客にとっても、金融機関毎に面倒なチェックを受けることが軽減されます。不正取引目的の人には、極めて不都合な話ですが。

最近、大手金融機関で反社チェックやAMLのKYC強化の動きが続いています。金融経済新聞の8月7日号には、りそな銀行の反社チェック・システムが大きく紹介されていました。7月14日付ニッキンでは、三井住友銀がマネロンチェックにSASのツールを使っているが、年10万件以上のアラートが出て、それを担当部門が調査して絞り込むと3分の一となる。更に、それを監督当局に届け出る資料作成を作成しているが、この作業にRPAを使うという記事でした。

警察や財務省などから金融機関に対して、更なる厳格化が求められているのかと思った次第です。また、FinTech推進において本人確認作業が、顧客にも金融機関にも大きな負担になっていることから、本人確認をWeb完結化する為の方策を、金融界、経産省、金融庁などが一斉に検討し出したことがあるのかもしれません。

確かに、そうした動きが強まっているのですが、もう一つ別の背景があると聞きました。来年にFATF第4次相互審査がありますが、FATFは、わが国のAML実効性に強い疑問を抱いているとのこと。それで、金融庁が地域金融機関のマネロン対策に関する実態調査(日経新聞7月11日付)を始めたのだと合点がいきました。FATFとしては、わが国金融界のKYC/AMLが各社別々に行なわれており、その水準にばらつきがあることから、抜け穴が相当あると見ています。更に、わが国金融機関の多くは、口座開設や最初の大口海外送金の際はチェックするが、その後の継続審査が甘いという指摘もあります。

加えて、決済サービスには銀行以外の資金決済業者もありますし、ノンバンクや質屋なども関連します。多くの事業者が、KYCと取引モニタリングまで含めて水準を合わせることは、相当な負荷となります。ただ、テロ対策や国連制裁国関連の資金移動チェックはますます厳格化されており、その基準を満たせないと、国際的資金移動において大きな制約を受ける可能性があります。国を上げて取組むべき問題であることは確かです。

しかし、海外送金取引など滅多に発生しない、大口の国内送金だとしてもその顧客の顔も氏素性も知り尽くしているという中小金融機関からすると、AMLに高額投資をするビジネス面でのメリットはありません。こうした状況をデロイトトーマツは承知して、昨年12月からKYC一元化を目指した研究会を進めていました。それが、今回の3メガとの共同実験に結びついたと理解できます。ブロックチェーンを使うというのは、良い選択だと思います。新規の業務ですから、レガシー・システムの制約がありません。反社・マネロンのチェックと関連する事務を全て、共同運営機構で代行できるとは思えませんが、チェックの水準を共通に上げつつ、コストを抑えることができればありがたい。

懸念されるのは、一社単独で競争原理が働かないと、早晩、その組織は官僚化して、変化対応もコスト削減努力も行なわれなくなります。そもそも、メガとの共同開発だと、メガの金銭感覚で構築してしまって、地域金融機関はコスト面で参画できなくならないか。この問題をいかにチェックして、業務革新を継続させるかが重要となります。とはいえ、まずは、大急ぎで実験を完了させて、早い実働を期待したいところであります。

                                 (平成29年8月8日 島田 直貴)