マイナンバー・システムと金融

平成29年7月18日にマイナンバーの中核システムを構成する情報連携とマイナポータルの試行運用が始まりました。日刊紙は報道しませんでした。日経ITProだけが報道していました。政府に広報の意思がないのか、メディアがマイナンバーを忘れてしまったのか。確かにマイナンバーカードの交付率は、5月15日現在で9.0%と悲惨なものです。男性、9.9、女性は8.0%です。19歳以下は3%台以下です。必要性が少ないので仕方ないとして、50歳以上の世代でもようやく10%という状況ですが、政府には危機感が見られません。ただ、こんなサービスもできるように検討するというアドバルーンが時々上がるだけですから、やると決まってから発表しろと思っていました。最近は、動いてから言えという感じです。

マイナポータルは、国民毎に関連する情報を提供したり、マイナンバーを使ったサービスを提供する為のポータルですが、子育て関連を除けば、まだ具体的なサービスが乗っていないレベルです。今年1月からアカウント開設が可能になりましたが、余りの煩雑さに不評三昧といいます。筆者などは、知人が簡単で便利だというまでは、手をつけない方針ですが。9月末にはWindows用のログインアプリをリリースし、その後、秋頃(時期を明示できない)本番稼動することになっています。

金融関連では、群馬銀行がマイナンバーカードの電子証明書を使ってスマホから残高照会を行なうサービスの実証実験を始めました。NTTデータとICTまちづくり共通プラットフォーム推進機構が協力しています。検証を続けて、2018年以降の実用化を目指すとしています。今の方法だと、利用者は自分のデバイスにカード読取機(機能)が必要です。アプリを立ち上げて、カードを読ませて、暗証番号入れて、残高見るかね?という印象ですが、このインタフェースができれば、銀行としては別のサービスが可能になるのでしょう。ちなみに、カード読取機能つきスマホは現在、予定を含めて13機種で、それもAndroid版だけだとか。マイナポータルは当面、IEだけです。何とも統一の取れていないのが、マイナンバー・プロジェクトの特徴です。思わず、日本人がやっているのか?と。

情報連携ですが、コアシステムである情報提供ネットワークと国の機関、自治体などをIFシステム経由で接続し、必要な情報連携を可能にするものです。約1800団体のシステムが、情報提供ネットワークシステムと地方公共団体情報システム機構と接続します。

会計検査院が、国の行政機関と健康保険組合など170機関、190システムで国の補助金100万円以上を使った開発契約503件、650億円を検査し、7月26日に結果を公表しました。(8月2日付の日経コンピュータITPro版) 業務定義が不十分なため、手直しや契約変更など追加費用が35億円程、発生していたそうです。中でも、国家公務員共済組合(KKR)の場合は、必要な機能要件や既存システムとの連携を充分に分析しなかった為、中間サーバーとの接続ができず、2回の変更契約で約34億円を増額したとのこと。KKRというよりは、厚生労働省が、いい加減な仕事をやったようです。KKR職員がやれば良かったのにと思うのですが、上部組織である厚労省と財務省には、全く頭が上がらない組織です。気の毒としか言いようがない。同時に、丸受けベンダーは何してんのか?税金だぞとも。

別の、あきれることがあります。データ標準レイアウトを定めて関連機関はそれに合わせる必要があることは常識です。しかし、検査対象190システムの内、127システムでデータ項目不一致があったそうです。中間サーバーとのデータ連携のタイミング管理にも多くの不整合があったとか。どうも、現場のシステム担当者が、現業で忙しく、または、スキルがない為、所管官庁側で手配した人間が、業務設計したようです。関係者の「所管官庁が、実際の事務をこれほど知らないとは思っていなかった。」という発言がITProに紹介されていました。筆者からすれば、「それは当り前でしょう。現場が業務要件を決めなくて、誰ができる?」要は、キチント成果をまとめることよりも、何かドキュメントを作って、ベンダーに投げれば、あとは、自然に出来あがると思っているのが、役所のIT化です。

一瞬、恐ろしいと思った情報も報道されていました。旅券や相続などの手続きに必須なのが戸籍謄本・抄本なのですが、法務省の研究会が、戸籍とマイナンバーの連携に関するシステム実装方針の中間報告を4月にまとめたそうです。各市町村の戸籍情報システムでは、ITベンダーによって、文字コードやデータフォーマットが異なっており、今更、一元化は無理とのこと。加えて、市町村毎に異なる外字は、約102万のコードや字形に及ぶそうです。法務省職員は、「我々は文系出身なのでコンピュータはさっぱりわかりません。」が会った時の挨拶ですから、同情しますが腹も立つ。システムのレガシー化と言う事もできますが、どうも幕藩体制の遺物がまだ残っている。だから、預金口座名義から漢字を除いて、アルファベットにしようというアイデアが出てくるのか?

預金口座でのマイナンバー付番は任意ですが、来年1月から始まります。各金融機関は対応の準備を進めています。多くは、CIFとは別に、マイナンバーDBを構築して、CIF番号と連携させる方式を取ります。その方が、構築が楽ですし、機微情報管理も用意です。使うのは警察と税務署くらいですし。預金保険発動の際に使えるという声もありますが、それなりのマイナンバー告知率にならないと、意味がありません。証券口座は来年から、NISAは今年9月から、マイナンバー告知が義務化されます。しかし、NISAの告知率はいまだ2、3割とされます。証券口座自体も似たような状況と聞きます。このままだと、証券業界は個人取引が壊滅的なダメージを受けます。政府は、証券取引のマイナンバー告知義務を延期するか、そのまま突入するか、決断が必要になるかも知れません。

となると、預金口座への付番も、3年後とする義務化が先送りになる可能性が高くなる。それとも、マイナンバーの個人認証機能を活用した新サービスを生活必須機能に育て上げ、金融界がマイナンバーの定着を主導するか。業界の方針を決めざるをえなくなるでしょう。マイナンバー制度そのものは、デジタル経済のインフラとして不可欠ですが、日本のような民主国家では、国民に強制できることに限界がある。それにも関わらず、行政機関には社会を誘導する能力が欠落している。マーケティングを知らなさすぎます。

                            (平成29年8月3日 島田 直貴)