仮想通貨、相次ぐ想定外

日経新聞の平成29年7月13日付記事です。仮想通貨は市場が小さい分、値動きが激しく、6月中旬に3000ドル台だったビットコイン(BC)が12日には2300ドル台に下がっている。2位のイーサリアムでは、6月に米GDAXが数百万ドル規模の売り注文を執行しようとしたところ、価格が317ドルから10セントに急落したケースもある。市場に厚みがないことが原因であるが、証券市場のように取引制限などがない為、誤発注であろうが、GDAXのようにプロとは思えない大量発注処理を行なえば、一瞬にして需給バランスが崩れて価格は激変する。要は市場としての規律を満たしていないということ。これまでは、BCを賛辞するばかりだった日経新聞が、ルール整備や法制度の対応が必要だとの論調に変わりました。NHKの相次ぐ仮想通貨詐欺事件報道が効いているのか。

今、BC利用者や関係業者が注目しているのが、8月1日のBC業者分裂問題です。取引量が増えるとマイナーにとっては、処理負荷が増す。サーバーを増強するとそのコストだけでなく、電気料も増える。実はマイナーにとって最大のコストは電気代。今は、手数料を上げることで凌いでいるが、抜本解決に向けて処理方式を改善しようとなった。そこで出てきたのが、セグウィットという方式で一部データをP2Pメインネットワークの外で管理する方式です。それだと自分達の外にデータが流れて手数料が減ると考えるマイナーも出てきた。そこで、ブロックチェーンの情報量上限を上げるという方法との折衷案をセグウィット2Xとして85%のマイナーが同意した。ところが、一部のコア・マイナーが、UASFという別の方式を主張して8月1日から実行することになった。つまり、BC取引のプラットフォームが分裂するリスクが高まっている。分散台帳が分裂台帳となり、取引者にとっては自分の取引履歴が消える=権利が消滅する可能性がある。

日本のBC取引所は14ありますが、協会を作っています。協会では、8月1日から1週間ほど取引の停止をすることを検討しています。その間、入出金も停止される見込みですが、全業者が対応策を合わせるかはわかりません。こうして、取引から手を引く利用者が増えていることが、価格下落の原因となっています。

4月に施行された改正資金決済法によって仮想通貨の販売・交換業者には国への登録義務がありますが、9月末まで登録猶予期間があり、まだ登録した業者はありません。金融庁は10社程度の業者に対する事前審査を始めたそうです。顧客への説明・情報提供、顧客財産の分別管理、取引システムの管理態勢などを調べているそうです。その一環として業者分裂問題への対応策も確認していることでしょう。まさに、何が起きるか判らない世界ですから、審査する金融庁職員も頭の痛いことでしょう。最終的には、分裂騒ぎが収まったあとに、顧客の取引履歴を書き換えることで、履歴の整合性を確保するようです。

日経記事では、仮想通貨詐欺やランサムウェアで支払い方法に指定されるなど悪用される例が増えていることも記述しています。結論として「市場育成へ制度整備急げ」と書いています。今、BC取引所の事前審査をしている金融庁職員や資金決済法改正を行なった職員は、あきれていることでしょう。散々、BCを煽っておいて、何かあると、制度をちゃんとしろと言って済むのですから。管理する者がいない自由な市場、P2PネットワークなのでITコストはかからない、分散台帳なので誰も書き換えられないし、障害にも強いとブロックチェーンのメリットばかりが報道されてきました。仮想通貨推進論者の学者などは、仮想通貨の仕組みの弱点など一切指摘しないでいて、最近では分裂問題の解説をしている。

日経記事では、「相次ぐ想定外」との大見出しです。全銀協のブロックチェーン検討委員会の中間報告書など、中立的機関のレポートでは、スケーラビリティや匿名性、台帳整合性などの技術的リスクは以前から指摘されています。決して想定外ではありません。大勢のマイナー達が、合議で決めるのですが、ガバナンスはどこにもない。国内に事業者協会を作ったところで、海外の業者と共同歩調を取れない限り、実効性はありません。誰に向かって制度整備しろというのか?

グローバルなネットワーク市場においては、一国で統一的規制を行なうことはますます難しくなります。グーグルやアマゾンのようなプラットフォーマーが、公的機関に変わって制度やルールを定める。それに反する者は、ネットワークから排除される。公的機関は、プラットフォーマーの行為が不公正・不公平になっていないか監視するという間接的規制になっていくのでしょう。

われわれ最終利用者は、プラットフォーマーの日常の施策や言動から、その品格や社会的公正さを評価してわが身を守る必要がある。皆が使っているからという理由ではなく、業者の姿勢を見抜く眼力をつけなくてはいけない。その為には、メディアに眼力をつけてもらう必要がある。無理ならせめて記事を記名制にして、読者が記者の格付けできるようにしてもらいたい。これからも、メディアが想定外という事案が続く筈です。最終利用者には良質な情報が必要なのです。

                             (平成29年7月14日 島田 直貴)