ブレグジット対応とITガバナンス

日経新聞の平成29年7月1日付記事です。三井住友FGがフランクフルトにSMBCとSMBC日興証券の現法を設立すると決めたそうです。6月28日には、野村証券もフランクフルトに証券業免許の申請を出したと報道されていました。大和証券もフランクフルトが有力です。これで、3大証券とSMBCがフランクフルト、MUFGとみずほFGはアムステルダムにEU拠点を置いて単一パスポート制度を維持することになります。

いずれも、ロンドンが引き続いてハブ拠点となりますが、とりあえずEUに数十名の拠点を置いて、様子をみながら徐々に機能と要員を移すのでしょう。フランク以外にもパリ、ダブリン、アムステルダム、ストックホルムなどが候補にあがっていましたが、最終的には市場の規模と英語の通用範囲でフランクを選ぶ金融機関が多いようです。やはり、EUはドイツ中心なんだという感じです。筆者の個人的感想だと、フランクのような無機質な街よりも、パリやダブリンの方が文化の香りがしていいだろうと思うのですが。

昔、頻繁にブリュッセルでの研修やミーティングに参加しました。この地は、英語、フランス語、ドイツ語が公用語で住民も3カ国語をこなします。食べ物もおいしい、風土も良い。EUの首都みたいな所ですが、それは政治面の話で、金融は、やはりフランクフルトでした。研修やミーティングにはヨーロッパ各国から人が集まっていました。北欧連中の英語の旨さは、ネイティブを超えていました。ドイツ人もうまいのですが、北欧連中にはとてもかなわない。我々、日本人並みに下手だったのが、フランスとイタリア。理由を聞いてみると、小国は英語がうまくないと経済的に活きていけない。大国は、無理して英語でなくてもやっていけるという。では、ドイツはと聞くと、それは、敗戦国だからとの返事。なら、どうしてイタリアはあんなに下手なんだと聞くと、あれは自分が敗戦国だと判っていないという。日本人の英語下手は、フランス的理由なのか、イタリア的理由なのかと悩んだが、学校の教育が悪かったといい加減な結論で終わったものでした。

何故、こんなことを書いているかというと、東京に金融センターを創りたいという話があります。国も東京都も前のめりです。筆者は無理に決まっていると思っています。家賃、物価は高いし、英語は下手だし。法人税を安くするといっても、利益が出なければ所得税はかからないから減税に意味はない。月100万もする社員寮を用意できるのは外資系大手しかない。下町なら安い賃貸もあるだろうと言うかもしれないが、観光旅行の体験宿泊ならいざ知らず、何年も1DKで暮らせるような欧米人は多くはない。

何よりも、ITコストが違い過ぎる。以前は、日本に銀行を創りたいと下見にくる石油産出国が多かった。簡単で良いから銀行オンラインを作りたい。どのくらい金が必要かと聞かれて、相場は200億、知恵と割り切りを駆使して30億と答えると、絶句して直ぐに帰っていきました。彼らの相場観は5億円以下。何故、そんなに高いのかと聞かれて、細かく説明しても納得しませんでした。今、考えれば、インドから技術者とインフラを持ってくれば良いと答えるべきだったと反省しています。まさか、日本のITベンダーは効率が悪いが、単価が高くて、余計なものを作りまくると本当のことも言えませんでした。この問題は、小池知事が頑張っても解決の見込みは全くありません。

やはり、昔、都市銀行の海外拠点システム全更改で各国のシステム状況を調べたことがあります。各国のITスタッフでシステムの保守・運用をやっているのですが、驚くほど費用が安い。開発は東京で行なって各国に配り、現地でカストマイズするのですが、それも安いので本部が把握してない。困ったのは、データ標準が大きく変っていて、銀行全体の計数が把握できない。ドイツには2拠点あったのですが、全く別物になっていた。同じ国なのに何故、こんなに違うのかと調べると、それぞれが小規模ながらシステム部門を持って、ボスの個人的考えで勝手に作り直していました。統一しようと言うと、なら、俺は辞めると言う。結局は、せめてデータだけでも標準化しなおして、それは遵守しようと政治決着となりました。その実施には何年も、そして、大変なコストがかかりました。今から考えると、ITガバナンスが各国現地に行き届いていなかったことが原因です。コストとガバナンスのどちらが重要かというと、長期的にはガバナンスの方が重要です。両方ともないのは、最悪。

最近では、フレームワーク、レイヤー、モジュール化、BRMS化、パラメーター化を駆使して、標準を維持しながら、現地要件を取り込み易くなっています。会計の国際標準化が進んだお陰でもありますが。更に、OSSがふんだんにある。クラウドも使えて、コンテナ化も実用レベルとなっている。プロセス連携をやめて、メッセージ連携による疎結合もできる、そのオーバーヘッドはハードの高性能化で十二分にカバーできる。そしてこれら機能を備えたプラットフォームも販売されている。

これを使うと、開発・保守の生産性は飛躍的に改善する。それを経営に役立てようとすると、ITガバナンスが必要となる。今の金融ITガバナンスがどうなっているかと考えると、悲惨な気持ちになってしまう。ベンダーも顧客の成長を希望するのであれば、金融ITの復活に一肌脱いで欲しいし、無理なら撤退してもらいたい。金融機関は、オープン・イノベーションという舞台を使って、中小やベンチャーのIT企業との付き合いを試してみることが重要だろう。今のままだと東京は、フィンテックの市場にはなれても、ビジネスの拠点にはなれない。

                              (平成29年7月7日 島田 直貴)