政府が本人確認の完全電子化に規制改革

平成29年6月23日付ニッキンの記事です。犯収法、外為法、国際送金等調査法に関わる規制を関係省庁が見直すそうです。「フィンテックに関連した効率的な本人確認の方法を検討する。」と未来投資戦略2017に盛り込まれたことを受けての動きということです。口座開設や送金などにおける本人確認をインターネットで完結できるようにするのが目的です。

このコラムでも繰り返して触れましたが、折角、口座開設を申し込んでも、本人確認手続きの面倒さとプライバシー侵害を恐れて、開設を取りやめる人が多い。証券関係では半分近い、NISAのマイナンバー告知も進まない。全銀協もKYCの効率化を公式に求めています。

6月21日に、金融庁が「FinTech時代のオンライン取引研究会」を設置すると発表しました。この発表を見て筆者は、突然に何を始めるのか?と思いました。効率的な本人確認の方法などを検討するという。メンバーは全銀協、地銀協、第二地銀協に加えて新経済連盟(ネット系企業による経済団体)、FinTech研究会、FINOVATORSです。学者など有識者とされる人がいない。経団連ではなくて新経連だというのも面白い。経団連だとマイナンバー使えば良いだろうとなるところです。金融庁としては銀行界から実務面での障害や改善策等の希望を集め、ネット産業界からは新たなサービス・イメージや技術的なソリューション案を集めたいのでしょう。集めた結果は、金融サービス高度化という名分で、未来投資会議に提議する一方で金融審議会に諮るのだろうと推測します。

米国のFinTechでは、P2P送金やP2Pレンディングの勢いに影が見え、昨年の後半からはインシュアテックとオンボーディングを行なうベンチャーに資金が流入しているそうです。理由は、どれも期待ほどの市場規模にならなかったことです。残ったベンチャーは、ファンドなどから資金調達したり、金融機関に身売りすることでエグジットを急いでいる。仮想通貨やブロックチェーン関係も、新規参入は大幅に減少し、撤退するベンチャーの方が多いと聞きます。

ビットコインは昨年から取引量、価格ともに激増していますが、中国政府が締め付けだして同国市場が壊滅状態となり、今では日本が主役になってしまった。高速道路を他車についてスピード違反走行していたが、気づいたら自分が先頭、いつパトカーに捕まるかヒヤヒヤしている状況です。メディアはこぞって、国が仮想通貨を認めたことで新規参入や取引が急増しているともてはやします。しかし、その裏ではビットコイン取引業者の分裂危機が噂され、詐欺まがいの取引勧誘が問題化しつつある。この市場が破綻したら、メディアの批判はどこに向かうか?自分達が煽ったことには一切触れない。裏では、仮想通貨取引業者が、取引量増加に対応する為のサーバー強化と電力のコスト急増で運転資金調達に奔走している。

何が言いたいかというと、便利になることは良い、利用者が儲かるか安くなることも良い。それを推進する為に環境整備や障害除去をすることも結構。ただし、メリットだけではないということです。当面は、国民の数%も使わないサービスを推進して、デメリットが顕在化した時に、関係のない残り90数%に悪影響を及ぼすことはないか。ある施策で全てのケースに有効ということは、まず、あり得ない。今回の本人確認に関わる規制緩和では、どこまでのプロセスを対象にするのかが重要ということです。

本人確認だけであれば、マイナンバーや既に他の金融機関等が確認済みであれば、それを流用することで済むかもしれない。口座開設まで踏み込むならば、反社チェック等が必要となる。規制改革といっても反社対策を止める訳にはいかないでしょう。では、警察庁や金融機関が反社DBを条件付きながらも開放するか、プラットフォームを提供するか。過去の国民総背番号制度における議論等を見ると、世論が受け入れるとはとても思えない。金融機関もこんな超機微情報を他社と共有などとてもできない。新規参入するFintech企業にとっても、自社ビジネスに関係ないのであれば、反社チェックのプロセスを増やすのは困るでしょう。

そう考えると、口座開設等のネット完結処理といっても、自ずと本人確認=住民登録した個人との一致くらいが限界か。FinTechというくくりでのKYCには無理ではないか。特定サービスのみを対象として、本人確認、反社チェック、マネロン・チェックなどを代行する公的機関を設置するか。または、個別のFinTech企業は、性善説で口座開設を認めることを原則とする。その後の取引に応じて、内部情報や関連機関との間でKYCチェックを行なうか。であれば大騒ぎするような話ではないのでは?などと考えてしまいます。

テクノロジーを駆使して、関係する機関のチェック・システムを連動させれば、口座開設等をネット完結させる為の全自動化は可能です。ただし、その時に、使ってくれる顧客がどの程度、残るのか?5月にHSBCが発表したTrust in Technologyというレポートによると、口座開設をロボットで自動化することを受け入れるとした人は7%だったそうです。一方で、銀行となら自分の個人情報を共有しても良いという人が84%。その銀行と新規参入者とを混在させると何が起きるか?

最近、FinTechに熱心な米欧大手銀が、”顧客とのTrust”という言葉を頻繁に使います。金融庁幹部も講演等で、新たなビジネスモデルの前提は信頼だと言います。その信頼を高めて、社会秩序とセキュリティを補強するような規制見直しを考えて欲しいものです。

                                   (平成29年6月28日 島田 直貴)