金融機関のクラウド利用

6月はクラウドに関するイベントが目白押しです。5月30日〜6月2日にはアマゾンがAWS Summit Tokyoを開催しました。数十の利用企業が事例を発表しましたが、何と言っても三菱東京UFJの説明に注目が集まりました。AWSは同行を前面に打ち出して金融での販路拡大を図っています。グーグルも6月14日と15日にGoogle Cloud Next’17 in Tokyoを開催しました。Googleはこの1年で日本における有料の利用者数を7割伸ばし、ヒット・サービスGoogleComputingEngineが好評でGCPの利用者は毎月20%強の伸びだそうです。IT関連メディアは連日クラウド関連の報道を競っています。

その中で日系IT企業の影は全く見られません。残念ではありますが、日系IT企業は、米系クラウドをベースとして、その上に自社の技術やアプリを載せるSaaSかプライベート・クラウド狙いに徹しているように見えます。パブリック・クラウドの市場規模は昨年3760億円、プライベット・クラウド市場は約1兆円でしたから、プライベートに徹するのは正解とも見えます。しかし、クラウド市場に対する主導権はありません。単なるクラウドSIerに過ぎない。インフラ提供者は営業利益率を30%以上確保しながら、毎年20〜30%も売上を伸ばす。そのインフラを使ってアプリを開発、保守、運用する日系IT企業は、労働集約型サービスで営業利益率が5%もあれば上々といったところです。外見的には日系IT企業のクラウド売上は増えるが、おいしい所は米系クラウド業者に取られているということです。

ところで、日本は極端にプライベート市場の方が大きい。それは何故なのか?セキュリティやデータ保管場所の問題なのか?筆者は、ユーザー企業にクラウドを利用するスキル人材がなく、ITベンダーに丸投げする結果ではないかと思っています。要は、フルアウトソーシングしているシステムのインフラだけをパブリックのIaaSに替えている。スケーラビリティや機器導入スピードは大きく改善するでしょうが、それでコストが下がるのか?

さて、わが国金融機関におけるクラウド利用は進んでいるのでしょうか?FISCが3年前に実施したのが最新の調査です。回答した698金融機関の37%が何らかの形でクラウドを使っているとします。特に大手銀、大手証券、生損保での利用率が高い。信金・信組は殆ど使っていない。使っている金融機関でも、グループウェアや周辺システムの一部です。クラウドと称してはいるものの、実態はASPサービスであるケースも多い。今では、利用率が50%程度になっていると推測しますが、その内容は余り変わっていないように思います。これからの3年間はどうでしょう。筆者は一挙にクラウド化が進む可能性が高いと思っています。理由は、幾つかあります。

1.クラウドサービスの料金低下、機能追加のスピードが速いこと。つまり、利用しないとIT競争力が劣化する。

2.行政当局も金融機関のクラウド利用に前向きなこと。

3.FISCが安全対策基準の全面改訂を予定しており、そこではプリンシパル・ベース、リスクベース・アプローチの採用により、個々の金融機関の判断余地広がること。

4.オープンイノベーションが進んで外部との協業が広がり、そのITインフラにクラウドが適していること。

などです。

IaaSの世界はAWSの一人勝ちの様相となり,米系各社はプラットフォームに戦略の重点を移しています。ディープラーニング、IoT、ブロックチェーンなどが代表的なプラットフォームです。また、サーバーレス化も進んでいます。ハードやインフラを気にせずにコードを作成し、特定のトリガーに従って、プログラミングしたアクションが自動実行される。ユーザー企業はアプリケーションを開発すれば良い。こうなると、IT先進企業はシステム部門の開発や保守・運用チームを廃止する一方で全社員にプログラミング・スキルを習得させようとするでしょう。金融機関行職員の給与はプログラミング・スキルによって大きく差がつくかも知れません。

いろいろなプラットフォームが必要になるので、当然にマルチクラウド化します。オンプレミス・システムも残っているでしょうから、ハイブリッドとマルチクラウドのミックスです。DBをどう持たせるか、プロセスの連携をどうするか、システム間のインタフェースはどうするか。相当に高度なアーキテクトが必要となる。

ただ、顧客の機密情報を扱い、自行のシステム障害が社会的な混乱に結びつく決済業務などを扱う金融機関としては、なんでもかんでもクラウドという訳にはいきません。FISCの全面改訂では、機微性やリスク波及性の程度に応じたリスクベース・アプローチが採用されることになっています。金融機関としては今から、扱うデータやアプリを棚卸しして、機微性とリスク波及性をレベル分けし、オンプレミス、業界共同、プライベート(これにも単独、グループなどがある)、パブリックなどに振り分けるソーシング・ポートフォリオを整理しておく必要があります。この作業は、とても大きな負荷となり社内の調整・合意にも大変なエネルギーと時間を必要とするでしょう。急いで着手すべきです。

ソーシング・ポートフォリが決まったら、それぞれに必要なスキルの質と量を予測し、スキル調達計画を立案し、行動を起こす必要があります。これまでのような丸投げをしていては、クラウドのメリットを得られません。複数のクラウドベンダー、クラウドSIerに多重にロックインされるだけです。それは致命傷となるでしょう。そして、スキル調達には、時間とエネルギーと資金が必要です。このことを認識している金融機関は極めて少ない。クラウドを使うと、早く、安くできるくらいにしか考えていません。使いこなすには、スキルが前提なのですが。AWSの広告塔を行っているように見えるBTMUでは、クラウド化戦略の最大の柱が経験とスキルの蓄積であることを見逃してはならないと思います。

                   (平成29年6月19日 島田 直貴)