金融庁が金融検査を抜本改革 (FinTechとの関係)

日経新聞の平成29年6月9日付記事です。金融庁は、金融検査を抜本的に見直して、検査局をモニタリング部と改称して監督局と一体化することを検討しているそうです。8月に総務省に機構・定員要求を提示し平成30事務年度から実施する方針です。検査マニュアルも凍結して、従来式の検査は不祥事やシステミック・リスク対応時のみとなります。

金融庁は規制のあり方に関して全面的な見直しを進めており、金融審議会で議論するとともに、長官や局長など最高幹部が、積極的に背景説明や検討状況の発信を続けています。いわゆるフォーワード・ルッキングな規制のあり方と組織体制見直しを自らの意思で進めていることは、従来の官庁にないことで、官邸も全面的にバックアップしているとのことです。金融庁の発信内容については、同庁サイトの審議会議事録や長官講演録などで、確認できます。

骨子をまとめると、以下のようになります。

1.わが国の金融資産は預貯金に偏在し、国民経済の発展に貢献していない。この構造を変える必要がある。(当コラムでも繰り返して述べていますが、仮に個人の金融資産1700兆円を2%で運用できたら、それだけで、GDPは7%近くの成長となります。)

2.その為には、利用者保護やシステミック・リスク等に配慮しつつ、金融サービスの高度化を進める必要がある。フィンテックを推進することは、この一環である。

3.人口減少、高齢化、地方経済の停滞、デジタル経済化の進展等の環境と上記2点を考えれば、金融機関はみずからの持続性を確保しつつ、顧客や地域に貢献できるビジネスモデルへの変革を進めるべきである。

4.上記を実現する為には、金融機関の変革を阻害・逆戻りすることなく、推進する為の環境整備と側面支援を行なうことが当局の役目となる。(このことには、行政が民間の経営に深入りし過ぎとの意見もありますが、金融庁は民間に自主的な変革意思が見られず、放置できない状況になりつつあるとの認識です。もっとも、そうしたのは誰だとの声もありますが。)

悩みは、社会や技術の変革が余りに速く、先を確実に見通すこともできないので、決め打ちできないことです。ですから、やってみるしかない。その上で、調整すれば良いと考えているようです。これも従来の官庁にはない発想で、今の政治状況だから可能なのかも知れません。ですから、同庁は急いでいるのでしょう。しかし、金融機関がついてこれない。経営陣は理解しても、現場は「また当局が訳の判らないことを言って、自分達の仕事をかき回す。幹部が変われば元の静けさに戻るだろう。」と思う人が多いようです。

金融庁を急がせるのが、デジタル経済化です。個々の顧客が情報武装化し市場での影響力を増している。非金融機関もITを使って金融サービスに割り込んで来たが、それは顧客への付加価値を追求する結果であり、止められない。多くの顧客基盤を確保すれば、顧客ニーズをより適格に把握して更にサービスを高度化し、勝者一人占めとなる可能性が高い。その勝者は非金融機関となる可能性があるし、国内企業とも限らない。フィンテックは、多くの失敗を伴うだろうが、それでもわが国のデジタル経済化を促進する有力なビークルとなり得る。こう考えると、金融審議会での幅広なテーマや細部に渡る提言などのベースにある危機感や考え方が理解できるでしょう。

そこで、金融機関はどうすべきか。スマホ決済やブロックチェーンの実験をやっていれば良いのか。金融庁が特に気にしているのが、地域金融機関です。メガのように豊富な資金と要員で海外を含めた広範な事業展開は無理。寄って立つ地方経済には、悲観的な要因ばかりが目につく。

地域金融機関からすれば、そんなに心配なら、どうして自分達の収益源を片っ端から締め上げるようなことばかりするのか。事業性融資などと言われても、既にやっているし、強化しても即座に収益に結びつくわけではない。それなのに、投信や保険の窓販の売り方に因縁をつけ、外債を含めた債権運用では自己資本規制を厳格化しようとする。そして、新しいビジネスモデルを作れとしか言わない。預金・貸出・決済しか認められておらず、営業基盤も限定されている我々に新しいビジネスモデルなど出てくる筈がない。へぼなコンサルみたいなことを言わないで欲しいというのが本音でしょう。役務取引利益(地域銀平均47億円)を倍増するなど、とても無理と思うのでしょう。

金融庁が今持つ仮説解は、顧客との価値協創です。顧客に寄り添ったテーラーメードの金融サービスを創り、共有する価値を提供することでより広い顧客層に、新たなビジネスを展開することです。その時に、業法が阻害するのであれば、国民経済に資するという前提で、規制を見直しましょう。アイデアを持ってきて下さい。一緒に考えますよ・・・ということです。長官、3局長が共通した説明を繰り返しています。

しかし、個人や企業で自分にどんなニーズがあるか、判っている顧客は殆どいない、金融機関にも新しいサービスを考えだせるようなところは殆どない。ですから、当局がベスト・プラクティスを集めて紹介しましょうとなる。ビジネスモデルといっても、経営学者の著書のような大げさなものである必要はない。顧客にも金融機関自身にも役立つサービスをビジネスとして考えて実行してみたらいかがですか。その時に顧客と一緒に考え、外部の知見や技術を利用したら良いのでは。それがオープン・イノベーションだと思うのですがと金融庁は言います。

問題は、こうして革新を続けたとして、最終的にどんな金融機関の姿になるのか見えないことです。試行錯誤を繰り返すしかない。これはどの国も同じです。最近、金融庁幹部が頻繁に口にすることが、金融機関の産業文化、支店網やシステムが負の遺産にならないか、それからの脱却方法はないかということです。そして、金融庁自身も護送船団に戻らないで金融機関のチャレンジを支援する為に何を変えるべきかということです。金融検査の自己改革はその象徴的な意味があるようです。金融機関やサポートするIT企業で働く人達には、面白い時代だと思います。

                   (平成29年6月12日 島田 直貴)