マイナンバーの届出拒否 (証券業界が困惑)

日経新聞の平成29年5月28日付け記事です。見出しは「マイナンバー 証券顧客の乱」です。証券会社は平成31年1月から証券口座(既存口座)の支払調書にマイナンバー記載が義務付けられており、顧客には平成30年12月までに番号の届出を依頼している。新規口座開設では、既に昨年から番号の提出が必須となっています。NISAに関しては、昨年の税制改正で今年の9月までに番号の届出を受けて、NISA非課税処理を行なうこととなっています。番号の連絡がない顧客は、来年以降、NISAでの売買ができなくなります。各証券会社では、WebサイトやDM等を通じて、顧客に届出を要請していますが、野村で5割、大和は2割しか集まってないとのこと。昨年末1069万口座となったNISAも、このままだと来年から半分以上がNISA適合から外れてしまうとのことです。個人の証券口座2300万も、来年12月までにマイナンバーを登録しないと、翌年(平成31年)からは取引できなくなる。

何故、証券顧客は登録を嫌がるのか?日経記事は、資産残高や課税所得を国に把握されることへの拒絶感を上げています。また、郵送による提出が面倒との理由もあげていました。前者に対しては、マイナンバーによって新たな口座情報が国税に連絡されるわけではなく、支払調書への記載だけで他は今と変わらない。仮に税務調査を行なう場合は、各金融機関は国税の調査に回答する義務があり、国税からすれば今でも各口座を調べようと思えば調べられる。郵送が面倒なら、スマホアプリでの届出もできるようになっていると書いています。要は、我々個人顧客のマイナンバー制度に対する認識不足と誤解があるということです。

この認識不足と誤解の原因は、国の広報が下手(へた、且つ、したで)であることは事実です。それに、メディアや国による個人情報収集を嫌う一部の人達による扇動的な情報発信が影響しています。しかし、この制度とシステム構造からすると、国がマイナンバーで個人情報を集約するわけではなく、マイナンバーの収集、保管、利用を法律で許可された情報保有機関毎に、マイナンバーから変換された符号を使います。つまり、各省庁が許された情報以外を閲覧できない仕組みになっている。それを、やたら、マイナンバーの漏洩を恐れさせ、その防御策ばかりを喧伝する国とメディアの広報姿勢は最悪だった。「したで」と言いましたが、マイナンバー自体にはなんの情報もついておらず、符号は当該情報保有機関以外には入手できない。当制度に反対する人達に押されて、やたら、屋上屋の機密保持体制を作った。むしろ、堅固な個人認証が可能になるので、印鑑や数字4桁の暗証番号などより遥かに安全安心だと、説明しきれば良かったのです。絶対安全と言いきれないので仕方なかったかもしれませんが。

郵送による届出が面倒なのでスマホアプリで登録できるようにする証券会社が多いとも書いていますが、果たしてスマホの方が便利でしょうか?必要な提出書類は、届出書(告知書)、個人番号カードのコピー、または、通知カードのコピー+身分証明書コピーです。筆者は両方ともやってみました。結論を言えば、送られてきた書類に必要事項を書き込み、各コピーを糊貼りし、外出のついでに投函する。占有時間は約5分。スマホだと、アプリをダウンロードして、必要事項を入力、写真を取って添付し、送信してから、アプリはもう不要なので消去する。その間、30分。速くなるのは、送信時間だけ。楽するのは証券会社。ですから、Web登録しかない証券会社には、督促されても、いまだ登録していません。

ところで、マイナンバーの登録を拒否するとその顧客はどうなるのでしょう。法的な罰則はありません。ただ、NISAのような公的な優遇処置を受けられないことが増える。証券会社や金融機関に顧客に対する強制力はありませんから、何回もお願いを繰り返し、その記録を取っておく。その負担が限度を超えるようであれば、理由をつけて当該顧客からの取引指図を受け付けないようにする。場合によっては、口座の閉鎖を申し入れる。税務署に脱税を見つからないようにマイナンバー登録を拒否する人がいるとすれば、逆効果でしょう。税務署にとっては誠に好都合なブラックリスト情報となる。AIを使うまでもない。もともとマークしていた人物と登録状況をすり合わせて、お伺いを出せば良い。その上で税務調査を行なえば、税収を大きく増やせるでしょう。いずれにせよ、国民は、稼いだ分に応じて税金を納めれば良いだけのことです。

それにしても、証券会社にとっては、とんでもない災害です。手間とコストがかかる一方で、顧客が大きく減ってしまう。その内に、国税に摘発される人が増えだして、「マイナンバーの届出をしてない人が狙われている。」などと噂が流れたら、今度は届出が殺到するでしょう。対応しきれないかもしれません。その間に、書類紛失や処理ミスが起きるリスクが高まる。

保険会社も証券会社と同じ問題に直面している筈です。それも証券業界の10倍の顧客がいる。といって、口座開設後の取引は余りないので、届出しなくとも顧客側に不便がでることは少ない。繰り返して督促するしかありません。そこで収益を伸ばすのは郵便局ということでしょうか。

銀行は、平成33年度頃からマイナンバーと預金口座の紐付けが義務化される見込みです。顧客から番号の届出を受けるのはその前年32年までで充分という計算になります。その頃には、多くの顧客はマイナンバー届出に慣れているでしょうし、大半の人が、通知カードではなく、正式な個人番号カードを持っているでしょう。店やATMコーナーにタブレットのようなデバイスを設置して、キャッシュカードと番号カードをかざしてもらって暗証番号を入力してもらえば済む。

政府としては、マイナンバーの利便性と使い易さを急ピッチで高めるべきです。今のようにカード発行の段階からもたついているようでは話にならず、下手をすると金融機関から損害賠償請求を立て続けに受けることになりかねません。制度設計というよりは、マーケティング力の問題です。文句をつけられた時の逃げ道ばかりを作っていないで、過半の国民が使いたい、使って良かったと思うサービスを作ることに専念すべきです。

                 (平成29年5月29日 島田 直貴)