メインフレームの将来 (日立がハード製造停止)

日経コンピュータWeb版が平成29年5月23日付で報道しました。日経新聞5月24日号も大きく報道していました。日立はAP8800Eの後継機を自社製造せずに、IBMのzSystemsを採用し、それに同社のOS「VOS3」を搭載し2018年度中に販売開始します。2年程、AP8800Eと併売する。サポートはOS、ハードともに日立が担当する。後継機の特徴は、IoT基盤との接続性ということです。日立は、ここ数年、オープン化を進めており、MFは金融で殆ど使われていません。使用中の製造業や官公庁のユーザーは、少し安心したことでしょう。

富士通やNECのユーザーには、まだ、金融、官公庁などにMFユーザーが多くあります。彼等にとっては、ベンダーのMF戦略が気になって仕方ありませんが、両社ともに具体的な方針を明らかにしていません。早晩、撤退を発表するだろうと推測されています。NECは、三井住友銀行などに納入した最新版は、自社で設計し、海外の製造会社に委託製造しました。それでも、不安を拭えないユーザーは、NECからIBMに移行しています。取りあえずは、アプリをNECのCOBOLからIBMのCOBOLに変えるだけですので、業務面でのメリットはありません。それに数十、数百億を投資するのですから、外部から見ると、何とも不可思議な話です。

ハードとOSは表裏ですし、OSとミドルは密な関係にあり、アプリはミドルと密結合しています。ですから、ハードを変えると影響は、アプリだけでは済みません。様々なリスクや負荷が発生して費用が膨らみます。時間もかかります。その点、日立はIBMと提携して技術協力の態勢を既に構築しています。今回の発表は、急な話ではなく数年かけて準備してきた結果です。主要なユーザーには以前から根回しをしていました。

日経記事では、メインフレーム事業では、IBMも苦戦している。その理由は、クラウド化への急速な流れがあるとの内容です。クラウド化対応が大手ITベンダーの生死を左右する大命題であることは、周知のことです。クラウドの基盤は、オープン系ですから、メインフレームの需要が減る一方であることは、今に始まったことではなく、いずれMFは博物館でしか見られない存在になることも明白です。でも、IBMはそれを捨てられないし、捨てない。

それは何故か。市場規模としては、世界のMF市場は年4、5千億円前後、日本は6、7百億円前後です。国内の設置台数は、2013年の3千台が2016年の2千5百台程度と年5%ずつ減っています。しかし、実はこれがベンダーにとっては宝の山なのです。まず、新型機種を開発、製造するコストは巨額で、それを賄う為の安定した顧客基盤が必須条件ですが、世界シェア80%以上のIBMには営業コストが殆ど不要な高収益ビジネスです。そして毎年、累計販売額の20%近くの保守費が入ってくる。この収益で次世代機種開発コストは賄える。そこで開発した技術は他の分野に転用できる。

もう一つの宝の山は、レガマイ市場です。国内2千5百台のメインフレームには、大企業が長年積み上げってきたアプリケーションが乗っています。その70%以上が富士通、NEC、日立製でCOBOLがベースです。手作りアプリは各社数百万コードとなるでしょう。大手の鉄鋼業、重工業などでは数千万を越えます。過去にレガマイに挑戦したものの、多くが挫折して、二度と試さないとしてきましたが、以来十数年を経て、移行技術が進歩しましたし、いよいよハードの入手ができないとなれば、怖がってばかりおられません。

仮に2000台のメインフレームをM2M、M2O(含むクラウド)するとして1台当たり5百万コードだとすれば、全体で100億コードの移行となります。乱暴ですが、1コード当たり1千円かかるとすれば、実に10兆円の市場です。レガマイには様々なツールが必要で経験も不可欠です。当然、受託できるベンダーは限られます。心配なのは、日本のレガマイ支援ビジネスを支えているのは、中国系、韓国系のベンダーです。彼等は日本では数兆円の市場だがグローバルにはその10倍あることを知っている。

日系ITベンダーの若い技術者は古い技術には目もくれず、JavaやWebに寄っていきます。MFは古くても、これまでのスキルやノウハウが集積したアプリに接するまたとない機会なのですが。筆者が、Javaで月60万円もらうのと、COBOLで月100万円もらうのと、どちらを選ぶ?と聞きますと、全員がJavaです。Javaなんて数カ月もあれば覚えられるのにです。理由を聞くと、ただ恰好悪いのだそうです。

最近、嫌なというか、怖いニュースが二つありました。一つはGoogleがディープラーニン専用チップCloud TPU(TensorProcessingUnit)を発表したことです。180テラFlopsだそうです。TPU64個でポッドを構成すると11.5ペタFlops=秒1京を超えるという。日本の京は8万個のプロセサーで構成されているそうですが、それを上回る。Googleは同時に1千個のTPUを搭載したクラウドを構築し、機械学習研究者に無料で提供するとも発表しています。もう一つは、3月にIBMが量子コンピュータ「IBM Q」を発表し、量子コンピュータと従来型とを連携させるAPIとSDKを提供するとしたことです。この結果、Webサービスやスマートデバイスからも量子コンピュータを使えるようになります。同社は1年前に量子コンピュータ・クラウドを100カ国4万5千人に提供して30万件以上の実験が行なわれたとのことです。

この二つの技術だけでも、ハードの基盤技術が大きく変り、開発技法もツールも変わる。そのスピード、変化の大きさにわが国はついていけるのか?国が叫ぶ10年サイクルのテクノロジー国家戦略に何の意味があるのか?国内で議論している間に、世界は変わっていく。日本はソフトで世界から周回遅れとなり、ハードでも遅れを取りました。古いアプリとデータをどうするのか、守り続けるのか、一度、捨てるのか? (最近、断捨離という言葉がIT業界でも流行りつつありますが) それを決めるのに、どれだけ時間をかけるのか。

                (平成29年5月25日 島田 直貴)