仮想通貨事業に10社超が参入

日経新聞の平成29年5月2日付け記事です。SBIが新会社を設立してビットコインとイーサリアムの仮想通貨取引所を開設予定、GMOグループも複数通貨を扱う取引所を開設する。カブコム証券やマネーパートナーズを始めとしてネット証券やFX業者など合わせて10社超が参入準備中だと報道しています。その背景には、7月から消費税非課税となり仮想通貨の普及拡大が期待できることがあり、改正資金決済法が求める財務局への登録が必要なので、その申請準備を急いでいるとしています。

4月には関連法改正もあり日本での取引が増えていますが、それでも9割前後が中国での取引です。元の変動リスクを分散させる目的と課税などを回避しつつ、値上がり益を狙う目的があるとされています。中国投資家のギャンブル的な資産多様化戦略と中国政府の規制強化リスクの上に乗った市場というのが現実で、健全な近未来決済手段としての日本国内の仮想通貨イメージだけで、事業参入したり投資するのは危ない。リスクをよくよく見極める必要があります。仮想通貨取引とそのベースにあるブロックチェーンの将来性とは分けて考えるべきです。

その点、この日経記事は、最後にリスクがありますよと付記しているものの、見出しは「仮想通貨 運用しやくすく 10社超が参入」と一面トップの大見出しです。日経の仮想通貨に対する思い入れは当初から凄いもので、何故、これほど仮想通貨に肩入れするのか。それほど好きなら、購読料支払い手段にビットコインを受け入れれば良い。日経関係者に、仮想通貨での購読料支払いを皆に呼びかけてあげようか?と言うと、「やめて下さい。」と言う。

キャッシュレス化は経済活動効率化の重要な方向性であることは確かです。ブロックチェーンもメディアや革新を標榜する学者や評論家によって古いIT生産性を抜本的に変えると期待されています。ブロックチェーンの技術特性やビジネス・プロトコルを良く知る人ほど、その期待が具現化するまでに乗り越えるべき障害が数多いと諌めますが、期待の声にかき消されています。このことは別稿で触れるとして、キャッシュレス化について考えてみたい。

我が国の現金流通残額は、102兆円弱です。国際的には頭抜けて多い。クレジットカードや電子マネーの利用が増えても、現金は一向に減りません。タンス預金として43兆円が自宅等に保管されています。(第一生命経済研究所の推計) デビットカードも、最近ではブランドデビットによって急増するものの、年間利用額はたかが9千億円弱です。(日銀) 何故、日本人はこれほど現金が好きなのか。

やはり、安全で安心、そして便利なのでしょう。諸外国には、偽札が多くて紙幣など信用できない国、泥棒や強盗が多くて現金を持っていられない国、脱税が多いので高額現金紙幣を発行しない国や強制的にクレジットカード使用を進める国、預金口座を持てない人が多くてクレジットカードを推進できないのでP2P送金を進める国、人口が少なくて現金のような非効率な決済手段から電子決済化を進めたい国、小切手のように手間コストのかかる決済手段から脱したい国々ばかりです。

これらを日本で現金決済が主流である理由とするのは簡単なのですが、諸外国で電子決済化が進んで日本の決済効率が経済生産性の足を引っ張ることへの懸念は大きい。要は現金よりも数段(少しでは駄目。) 安心、便利で有利な決済手段が欲しい。現金決済の優位性を継承しながら、それを超える決済手段はないものか。政府やメディアが、いくら新決済手段を喧伝しようが、お金に関しては、大衆はお上の言うとおりには動きません。このことは万国共通です。「あなた方がキャッシュレスにしたいのであれば、自分たちでやったら?俺達に先にやれというのは、通りませんよ。」というのが民意でしょう。さりとて、偽札を出して現金通貨の信用を落とすこともできません。

現金よりも便利で有利な手段が欲しい。支払い手段毎に価格を変えて、現金を不利に設定できるか。ATMを減らしたり、営業時間を短縮してキャッシュポイントを減らすか。どちらも無理でしょう。今のクレジットカードや電子マネーのように、ポイントや割り引きなどで優遇するのか。国が発行するのであれば消費税を大きく割り引くとか。その場合にかかるコストは誰がどのような方法で負担するのか。そのコスト(=利用者のベネフィット)総額はどのくらいまでが可能なのか。それには、国や自治体による負担はどのくらいまでが可能なのか?

筆者の感覚的な考えでは、今、出現しているような決済手段やその普及策程度では、ただ、決済手段が多様化するだけで、気が付くと発行者で利益が出るものは誰もいない。仮に日銀が電子通貨のような新たな手段を提供しても、その普及速度は期待をはるかに下回るでしょう。キャッシュレス化が国策として必要なのであれば、普及の為の国策が不可欠です。決済電子化が、民間頼みであることは仕方ないとしても、今のように内外のアイデアを手当たり次第に模索していては、決済のカオス化が進んで国民経済的なコストは高まるだけ。もっとも消費者にはそれで一向に差し支えなく、自分に都合の良い手段をその時々で使い分けていれば良いのですが。その場合、唯一、怖いのは仮想通貨のように国境がない、または、他国主導の決済手段に占拠されることだけか。各国の中央銀行が、仮想通貨に警戒と可能性を抱く理由が理解できる気がします。

                         (平成29年5月8日 島田 直貴)