会計ソフトの弥生がオンラインレンディングに参入

日経新聞の平成29年4月14日付記事です。「地銀勢、AI使い融資」―横浜銀や千葉銀が中小零細に資金―とあります。システムはオリックスと提携との小見出しもありました。日経BPのITProも同日付けで報道しています。やたら、キーワードが並ぶので、どういうことかとオリックスなどのニュースリリースで確認してみました。日経記事と合わせて整理すると以下のようになります。

会計ソフトの弥生が2月に設立したALT社が開発するAIや会計ビッグデータを使った与信モデルを活用してオリックス(弥生株式の99.9%を握っている。)がオンラインレンディング事業を予定しています。この与信モデルは千葉銀、福岡銀、山口FG、横浜銀行にも提供する業務提携契約をしたそうです。

ALT社(社員数6名)が開発する与信モデルですが、弥生の顧客企業150万社のうち、クラウド会計を利用する60万社中から許諾を得た10万社の会計データ(2、3年分の取引データや日次の仕訳データなど)を匿名化して、オリックスの与信ノウハウ、AIソリューションのd.a.t.社のAI技術とデータアナリシス技術を組み合わせて、与信モデルを開発します。オリックスは、元々が中小零細企業への融資、リースが本業ですが、とりあえずは弥生クラウド会計利用企業60万社を対象に短期資金の試験的融資を今年10月に開始する予定です。本格的な事業開始は来年度となります。

オリックスによるとオンラインレンディングは、米国等で急拡大しているものの日本では余り使われていない。弥生の顧客企業7609社を調査したところ、小規模法人の85%が短期資金ニーズを有するものの、手続きの煩雑さや実行までに時間がかかるとの理由で、35%が借り入れを断念しており、ここに事業機会を見出したといいます。

昨年3月末時点の貸金業者による事業者向貸付残高は、16兆円弱です。一件当たりの平均貸付額は3千万円弱で平均貸付金利は1.69%です。年に2700億円の金利収入となります。(金融庁の貸金業関係資料より) オリックスの調査結果と合わせて推測すると小零細企業の短期資金需要は残高ベースにすると30兆円前後で内、14兆円が未対応市場であり、現在の貸金業による16兆円も利便性や貸付条件次第で取り込める可能性があるかもしれません。

年初に弥生会計が貸金業に参入するとの話を聞きました。他にも小規模事業者向け貸付を検討する会計ソフト・サービス企業が数社ありました。会計ソフトで1社から月数千円の使用料を取るだけでなく、3千万円を融資して50万円の利息を得られるとすれば、それは魅力でしょう。ただし、事業性無担保ローンは、思うほど生易しいビジネスではありません。会計仕訳データだけで与信できるものでもない。与信判断コスト(初期と中途で異なりますが)、融資手続きコスト、回収コスト、延滞時の督促コスト、回収不能時の債権処理コストなどが必要です。どれも専門性が必要ですし、規模が大きくなればシステム対応も必要です。その点で、オリックス・グループは全てを保有しています。

貸付を受ける側からすれば、手続きが簡単で実行が速く、金利が安いことが重要ですし、貸してくれる相手が安心できた方が良いのは当たりまえです。その点、オリックスや地方銀行などが、零細・個人事業の短期資金をネットで簡単に貸してくれるとすれば、それなりに利用企業は出てくる筈です。金融機関にとっては新規市場の開発でもあり、貸金業者などの市場への参入にもなります。

ある会計ソフト会社も零細企業のつなぎ融資(銀行からの借り入れ手続き期間中)を事業化しようとしましたが、あきらめたそうです。借り手にも銀行にも都合の良いサービスだと思ったのですが、やはり全体コストと比較すると採算が厳しいようです。7%以上の金利をとれるのであれば、まだしも、それでは無担保貸金業者や日賦貸金業者と同じになってしまいます。ちなみに米国のオンラインレンディングは、10%前後の金利です。それが許される社会ですし、銀行が手出ししない市場です。

また、会計データや取引データに依存する与信判断の有効性にも疑問が残ります。オリックス・グループは、投資用マンション購入資金の貸付けにあたっては、通常の与信資料の他に生活預金口座などの入出金明細を確認しています。どんな金の使い方をしているかを見て、借り手の堅実性などを判断するのでしょう。金融機関は、財務データも見ますが、単に返済能力を見るだけでなく、そこから返済意思の持続性も見ていますし、申込者との面談や事業活動の現場を観察するなどして、多面的に判断しています。米国FinTechレンディングのように、SNSでの発信内容だけで判断するなど到底考えられません。彼等は貸したらすぐに、証券化して信用債権を転売してしまいます。日本の銀行は自分の金を貸すのではなく、預金者のお金を貸すという理念であり、貸すことに大きな責任を抱いています。役所や政治家はやたら、貸せ貸せと銀行に圧力をかけますが、それなら、自分の金を提供してくれ。そして信用リスクは自分で負ってくれ。銀行としてはベストエフォートで貸すが、与信リスクは負えませんよ・・・というのが本音でしょう。

会計データから与信モデルをつくるのは、与信判断の高度化になることは間違いありませんが、銀行はそれだけで判断しません。高金利の時代であれば、会計データの与信モデルによって格付けを上げて、貸付金利を下げるなどの方法が取れますが、所詮、1、2%の貸付金利の範囲内では、そのメリットも殆どない。オンラインレンディングの定義と範囲を整理して、従来の銀行融資とは異なる新しい貸付商品の開発が必要なのでしょう。貸付の審査方法を変えるだけでは、イノベーションになりそうもありません。

                 (平成29年4月19日 島田 直貴)