ロボアド・ビジネスの現況

日経新聞の平成29年4月12日号に「ロボアドVBに成長の壁」という記事がありました。最近のこのコラム「金融取材メモ」は日経にしては、なかなか面白いし、恣意的な内容でないので楽しみに読んでいます。ロボアドにはベンチャー3社と大手証券会社、銀行数社が参入していますが、昨年2月に発売したTHEOのお金のデザイン社と昨年7月に発売したウェルスナビ社の近況を紹介しています。

THEOは申込者(口座開設者とは違うようです)が2万超で、昨年12月末の預り資産残高40億円とのことです。ウェルスナビは、今年3月末で口座数1.4万件、預り残高75億円(同社サイト)ということです。両社ともに残高の1%を顧客から手数料としてもらうだけですから、収益は4千万円とか7500万円です。社員数は何人か知りませんが、10人だとしても人件費も出ないでしょう。もっとも、このことは事業計画に織り込み済みで、早い段階で千億円単位にもっていくつもりだと思います。

その為に、銀行などとの提携を急いでいます。THEOは地銀8行とウェルスナビは、SBI証券や住信SBIネット銀との提携です。THEOはiDeCo資金を狙って、地銀8行と組みました。ウェルスナビのSBIグループとの提携の方が、即効性があったようです。SBI証券は、発売50日で1万件の申込みと50億円の預り残高ということです。

これを見ると、やはり証券会社の運用商品販売力は凄いです。まずは顧客ベースを抱えている。ネットで勧誘するだけで、商品サービスの特性を理解してくれるし、資金力もある。その点、投資未経験者に地銀がロボアドを売るのは厳しい。ロボットで何ができるのか、ETFとは何か、説明している内に、顧客も行員も疲れてしまうでしょう。その点、証券取引経験者が相手だと、システム売買で世界中のETFに分散投資して手数料は年に残高の1%だけと言えば理解してもらえる。

しかし、長い目というか、農耕型展開を目指すのであれば、証券取引未経験で若年層の小口資金を集めて長期運用してもらうという戦略は正しい。国の金融政策とも整合する。問題は、規制だという声が大きい。特に口座開設時の本人確認とマイナンバー登録です。その手続きが面倒だと口座開設を中断する人が約半分といいます。全銀協も、保険の窓販等において口座開設中断が多いのは、KYC規制にあると改善を要望しています。

FinTech先進国の米国では、送金やP2Pレンディングを提供するFinTechの伸びが止まったそうです。理由は儲からないからです。(日本ではまだ、小口の電子送金が大きな市場になるとの夢が続いていますが、冷静に取扱い件数と単価を掛け算すれば、即座に夢が妄想だと気づく筈です。日本の現金は安全で安心で便利でもあります。これは他国と根本で違う点。) 最近、米国で注目されるFinTechサービスは、インシュアテックとロボアドです。そして隠れたヒット・サービスがオンボードと呼ばれる、口座開設代行サービスです。日本でもマイナンバーなどとうまく組み合わせて、本人確認、反社チェック、開設手続きの自動入力などを利用者には無料で提供し、金融サービス業者から500円とか1千円貰うビジネスモデルはありえると思います。

米国でのロボアドに関する意識調査結果を見たことがあります。数字は覚えていません。大多数がロボアドに対して前向きな反応ですが、自分の投資判断に使うかとの質問にはNoが圧倒的でした。使う場合は、契約している独立FPに活用してもらいたいという意見が殆どだというのです。専門家といえども、その人の情報収集力と解析力には限界があるので、ロボアドを参考にしてもらえれば良い。自分の知識ではロボアドが提供する投資アルゴリズムなどを理解するのは面倒だし、無理ということなのでしょう。ですから、ロボアド利用者は圧倒的に独立FPです。

日本には独立FPは殆どいません。個人投資家に投資アドバイスを行なうのは、金融機関の営業担当者です。中立的なアドバイスは期待できません。であれば、ロボアドに任せるか、難しい所です。ロボットが何を根拠に投資判断しているのか理解するのは難しい。要は手数料の安さと面倒を省けることがロボアド利用の目的となる。一方、市場が大きく動く時には、動揺したお客からの質問電話が殺到するそうです。結果、コールセンターの規模が拡大し続け、手数料1%モデルの前提が崩れてしまう。

金融リテラシー問題を解決しないと、ロボアドで千億円単位の預り資産という成功モデルは覚束ない。政府も金融関連の業界団体も、こぞって金融リテラシー教育を推進すると言います。啓蒙サイトもたくさんあります。機会があって、啓蒙サイトを見たことがあるのですが、初級者相手の基礎情報だけで、実につまらない。どうも、役所や自主規制機関である業界団体のWebサイトは、紙芝居ばかりで面白みに欠ける。どうせやるなら、レベル別に実戦ゲーム化して、成績優秀者には仮想通貨を賞金として贈呈したらよいのにと思います。または、個別の金融機関が、金融リテラシー教育ゲームを提供して、成績優秀者に1万円つきのロボアド口座を提供すれば、効率的で効果的なロボアド販促にもなると思います。広告規制には違反するでしょうが、法の趣旨に反しない筈です。それとも、金融ゲームを展開して、その成績優秀者をオンボーディング付きで、金融機関に送客するFinTechサービスを始めるか。1人あたり1万円の送客手数料をもらえるかも知れません。規制はFinTechにとって豊饒の地のようです。

                           (平成29年4月13日 島田 直貴)