三菱東京UFJ銀行が次世代型国際送金サービス網に参加

日経新聞の平成29年3月31日付の記事です。BTMUが米リップル社の主導するブロックチェーン(BC)を使った次世代型国際送金サービスに参加するということです。米BOA、加CIBC、英スタンダードチャータード、ロイヤルバンク・オブ・スコットランド、西サンタンデール、豪ウェストパックと並んでの参加です。リップル社は、来年初頭から開始して、最終的には世界の90行程度が参加する可能性があるとしています。

日経記事の見出しは、仮想通貨技術を使うとありますが、記事や関連報道を見る限りは仮想通貨を使うとはありません。SWIFTが中継する送金情報をリップルのBCプラットフォーム上で送受信するだけです。それ自体には、決済機能もファイナリティ機能もありません。それは既存の国際送金関連システムが処理し、それとリップル・システムとをAPIでつなぐのだと想像します。ですから、システム上の変更は大きくはありませんし、従来のSWIFTは使い続けるのでしょう。銀行としては、ダブルコストとなりますが、SWIFTよりも速く、安い送金手段を提供することで、収益を上げるオルタナティブを確保することができます。

BTMUが手がけるブロックチェーン関連の実証実験は、今年の1月末時点で8件、内、自行が中心となる案件は4件で、他の4件は、BCベンチャー主導の共同実験への相乗りです。同行中心の4件というのは、Chain社との電子手形、日立とのシンガポールにおける小切手決済、IBMとの電子契約です。これらも、ベンダーが中心の実験で、銀行は業務要件の提示や検証と聞いています。MUFGコインの計画も発表されていますが、これは社内におけるグループ社員の利用であって、あくまでも内部実験。筆者の感触としては、メディアに頻繁に発表するものの、余り本気でブロックチェーンに取り組んでいるとは見えません。情報収集やBC企業との関係作りが目的かと思えます。他の大手行は、「日経はMUFGの案件ばかり大きく報道する。」と嘆きます。筆者は「払う広告料が違うのでは?」と答えます。

MUFGが外見ほどBCに本気でないと思う理由は、いくつかあります。BCが決済のように多くの金融機関が参画し、間違いなくファイナリティまで完了させるには、技術的、運用ルール、法制度面での課題が多いからです。焦って先行して気がついたら後ろに誰もいないなどというケースは避けたいでしょう。技術的には、処理能力がまだ不足していますし、コンセンサス・アルゴリズムも決め手となる方法はありません。国際標準が定まるのも数年先との見方が多い。決済で最も重要なファイナリティにしても、何ら共通に認識された取引ルールはありませんし、参加者間のタイマー標準すらない。何よりも、ビットコインBCなどでは記録の取り消しが出来ないルールとなっている。決済や証券売買注文で取り消しが効かないというのは、伝統的金融機関からすると考えられないことです。逆注文で相殺する方法もありますが、それが有効なのは次工程に進んでおらず、為替などの価格が同じ場合だけです。

メディアはコストが安い、ダウンしないと言います。BCに向いた機能だけを新たに作る場合のBCと既存技術を比べると確かにBCの方が安いのですが、BCだけで済む業務は殆どない。障害にしても、P2Pネットワーク全体が停止することはないでしょうが、一部のノードが障害などで処理遅延を起こしたり、台帳の内容に齟齬が生じる場合も多いに考えられる。各ノードは同じ記録を持つのですが、果たしてそれが法的に問題ないのか、利用者が認めるのかという問題もある。ある企業が秘密の取引先に高額送金するとして、競合する企業の親密銀行もその取引を見ることができてしまう。匿名性を持たせる方法はまだ定まっていません。そもそも、匿名性を持たせた場合、BCの優位性を維持できるのか。メディアはBCの良い点だけを報道する。それに便乗する学者や評論家の発言も大きく報道される。技術的課題を指摘する専門家の意見は殆ど無視しています。

その点、住信SBIネット銀、日本証券取引所、3メガ共同などのBCに関する実証実験結果報告や全銀協のBCに関する検討委員会報告書などは、正確によくまとまっています。特に全銀協の報告書は、判り易く、丁寧に説明しています。市販の本なども良いのですが、まずは、こうしたレポートを熟読することをお奨めします。特に報道関係者には。

その全銀協レポートですが、課題ばかり並べると、新技術に対して否定的と思われるのを避けたのでしょう。もしBCを利用するとすれば、現時点では送金(内国為替などの決済でなく、あくまでも送金情報の送信であることに注意)や電子債権、KYCなどが具体的に検討できる対象業務であろうとしています。業務的に比較的単純であり、関係組織における変更作業を限定できそうだとの読みがあるのでしょう。

上記リップルの国際送金サービスに話を戻すと、英国の2行を除くと、主要国から1行ずつです。ブレグジットが実現し、スコットランドが英国から独立してEUに加盟すると、唯一欠けていたEU代表枠も埋まると考えるのはうがち過ぎでしょうか。このネットワークは、コンソーシアム型のBCです。とはいえ、ガバナンスは様々な局面で必要となりますし、P2Pネットワークの過半ノードを提供してセキュリティを含めた運用ルールを決定管理する存在が必要です。その役割を上記6行が担うことになるのでしょう。短期間の内に、国際送金サービス市場の構造が大きく変るとは、全く思いませんが、幹事行の役割を果たす銀行には、実証実験を越える経験と学習の場になることは間違いありません。

                               (平成29年4月4日 島田 直貴)