全銀協がブロックチェーン検討会の報告書

日経新聞の平成29年3月16日付け朝刊が、「全銀協、仮想通貨技術の実験で地銀などを連携支援」と大きな見出しで報道していました。この日、全銀協がブロックチェーン(BC)に関する検討会のレポートを公表しました。朝刊での報道ですから、全銀協が公表する前に日経はその内容を入手していたことになります。

一昨年暮れの金融審議会報告書で、銀行業界としてBCに対する方針を検討するように求められましたが、全銀協が検討会を立ち上げたのは、昨年の8月です。随分と時間がかかりました。いかに着地させるか、調整に時間がかかったのでしょう。それはそうです。BCは、マスコミや一部評論家達が、金融ビジネスに革命をもたらすと大げさに騒ぎますが、技術、運用、セキュリティ、法制度等々、多岐にわたる不透明性があります。協会としては、ブームに乗るだけのいい加減な結論を出せません。

検討会の報告は、結論として官民学がコミュニティを作って、国際標準、安全対策、法制度に関する詰めが必要としています。協会としては、それを推進する為に、BC連携プラットフォームを作るので、銀行、FinTech企業、一般事業会社はこのプラットフォームを使って、個別、或いは、共同で実証実験を行ない、その成果を共有しましょうという提言になっています。実験の場を提供するが、すぐには、業界として決済システムなどを構築することはしない。皆で、決済、KYC、全銀システム、でんさいなどへの適用を実験してみて下さいということです。

日経の記事では、協会加盟行や企業が、テーマごとに連合体を作り、このプラットフォーム上で実験を進める。システム費用は全銀協が負担し、検証結果を各行でシェアすることで業界全体として知見を蓄積するとあります。貿易金融や電子債権などが主要テーマとして候補に上がっている。法制度も大きな課題なので、金融庁や日銀も各連合体に協力する。金融以外では、不動産登記や医療情報の共有などが考えられるなどと書いてあります。これら施策を通じて、協会としてはBC実用化に積極的に取り組むという論調です。これは、記者が勝手に書いたとは思えませんので、検討会関係者がそのように説明したのでしょう。ちなみに、金融業界紙で17日発刊のニッキンや20日発刊の金融経済には、本件に関する記事は掲載されていません。

協会としては金融審議会の要請に対して、簡単に済まそうと思えば、送金など手軽な業務で実証実験を外部委託で実施し、BCの可能性を認めつつ、現時点での実用化は時期尚早と結論づけるのが手っ取り早い筈です。しかし、そうはせずに、実験の場を用意するので、皆で検討しましょう、行政当局も指示するだけでなく、参加して下さいとしました。大人の対応です。

BCはコストが安くて、何でもできる画期的な技術だとメディアや経済系学者は言います。ところが海外のBC動向に詳しいIT系学者達は、BCは特段新しい技術ではなく、ビットコインなどで優れた運用ルールが採り入れられただけだと言います。技術面では、スケーラビリティやプライバシー保護などに問題があり、その解決には5年以上が必要。コンセンサスアルゴリズムやスマートコントラクト、P2Pネットワークの構成方法などでは、それぞれの手法に長短があり、結果として国際標準が作れずにいるとしています。要は、本格的な展開にはまだ時期ではないということです。

事実、鳴り物入りで始まり、日本からも3メガや野村証券などが参加するグローバル規模のBCコンソーシアム“R3”では不協和音が絶えません。昨年11月には、ゴールドマン・サックスとサンタンデールが離脱したそうです。その理由は、R3が合計1.5憶ドルの追加投資を参加金融機関に要請したからだそうです。なぜ、巨額な追加投資が必要なのかは判りませんが、安くて簡単だという前提が鵜呑みにできないことを立証してしまいました。こうした動きは、当然3メガから全銀協BC検討会に情報提供されているでしょう。3メガは、R3の追加投資要請に対して100万ドル程度で応じたようですが、いろいろと実験のフィードバックを受けながら、R3の持つ特許などの使用権を得られれば、投資効果はあるとの判断なのでしょう。

わが国には、内国為替として全銀システム、銀行間の送金決済でファイナリティを担う日銀ネット、外貨決済の外為・円決済制度などがあり、大口決済や銀行間決済は世界トップレベルです。ただ、抜けているのが、小口決済ネットワークです。全銀システムでは、融通性、コストなどが問題となります。FISC出向中の1985年に主要各国の決済システムを比較調査しました。米国のACHが電子化を進めながら、一般事業会社への開放を進めていました。当時の筆者は、個人の小口送金ならヤマトの宅配便の方が、安くて、早くて、便利だと思っていましたので、余りガードの固くない第二全銀を作って、それにヤマトのような会社やクレジット会社などが参画させれば、小口送金の革新ができると思って提言しました。34年を経た今日、この構想は全く実現していません。ようやく、その時期が近付いてきたと感じます。

全銀協には、BCなどを使って、単純でオープンな決済プラットフォームを作り、一定要件を備えた企業が参加できるようにして欲しい。そうすれば、スマホ決済や携帯送金、ローバリュー送金だけでなく、これから次々と出てくる新種の送金サービスの受け皿ができます。個々の決済サービスは個別企業の独創性に任せて、銀行は、ファイナリティや認証などを含むプラットフォームに特化することが、銀行界にも利用者にもよいだろうと思っています。

                           (平成29年3月21日 島田 直貴)