金融庁が平成28事務年度金融審議会の総括会議

平成29年3月3日に金融審議会と金融分科会の合同会合が開催されました。

http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/soukai/siryou/20170303.html

10時〜12時の2時間だけですので、参加委員による議論というよりは、事務局がまとめたレポートを簡単に説明して、今後の検討課題を確認する場といえます。委員達には、事前にレポート案が提示されて、根回しを済ませているのが通常です。この種のレポートを読む際に注意すべきは、列記される施策案を見るだけでなく、その根底にある流れを読み取ることです。経済や市場に関する内外の流れを行政がどのように理解し、金融行政をどのように変えようとしているのかを見ることが重要です。もう一つは、余り大きなスペースを割いてはいないが、さりげなく、「XXXXといった意見もある。」と書かれた施策が、ある日突然、具体化されることも多い。

今の金融審議会では、フィンテックを通じて金融サービスのオープン・イノベーションを進めることと、金融市場のより一層の活性化、透明化、公正化を通じて金融資産の効率的運用を図ろうという、国策が議論されています。それを誘導するのが金融庁です。審議会は普通、担当省庁が事前に大まかなシナリオを作り、そこに委員や参考人が材料を提供するという運営となります。金融庁としては5年、10年先まで読めている訳ではなく、オープン・イノベーションや市場活性化を図るといいうプリンシパルに基づいて、その時々の必要性に応じて制度変更をするとしています。つまり、銀行法は毎年変わる。金融機関からすると、毎年、制度変更が複数あるということです。証券界は制度変更に慣れていますが、銀行と保険は、都度、大騒ぎになります。

金融機関の方々と話をして感じるのは、顧客数が少ない金融機関ほど、金融行政の流れを掴んでいない人が多いことです。「FinTechは、マスコミと行政が恣意的にブーム化しようとしているもので、いずれは、消え去る。そもそも、自分達は機械化を進めてきた。昔からFinTechをやっている。」と言います。そこに、オープン・イノベーションというベクトルはありません。出てくるのは、「廻りがうるさいから、FinTechとしてSNSを使ったり、スマホ決済を提供したり、ペーパーレス化を進めて少しでもコスト削減を図っておこう。」という程度の話となります。FinTechやってもコストは減らないと言っても、聞く耳はない。

3月3日に閣議決定された今年度の銀行法改正では、クラウド会計や家計簿サービスなど、いわゆる中間事業者の制度化と金融機関のチャネルを拡充する為の銀行代理店規制緩和が中心です。自民党の政務調査会では、中間事業者を登録制にすることを新たな規制と見なして反対する意見が出たそうです。ITに強いと自負する議員達が、FinTechベンチャーを擁護するつもりだったようです。議員立法を持ち出して脅しすらかけたそうです。もっとも、この議員は、何かというと議員立法が口癖です。金融庁がこうした反対意見を想定していたかどうかは知りませんが、緩やかな運用を約束することで決着したそうです。金融庁幹部と官邸の意思疎通の良さを示す結果となりました。

森ドクトリンを迷惑と考える金融機関も、少なからずあります。いずれ、人事異動でこのドクトリン推進派の行政幹部は、転出するだろうと期待している様子もあります。ただ、森ドクトリンと政府の日本再興戦略は、表裏一体であり、反安倍反自民の内閣が発足しない限り、変わらないと考えるべきでしょう。わが国の金融資産は、20年以上も新たな価値を生んでいません。金利が低いからというのは理由になりません。米英などの金融機関は、数%の運用利回りを稼いでいます。顧客と国の経済に貢献しています。しばしば言うのですが、わが国の個人金融資産1700兆円を2%で運用できたら、34兆円が入ってくる。それだけで、GDPは7%も成長すると。この比喩は虚論ですが、成熟化したわが国は、金融資産にもっと働いてもらう必要があることは確かです。

FD(フィデューシャリー・デューティ)も同様です。銀行窓販を行なう金融機関に対して、ただ手数料の安い資産運用商品を売れという意味ではありません。公正公平な売り方に変えて投資に資金を廻そう、同時に機関投資家を含めた金融機関は、もっと運用力をつけよう。株を持ち合って、金融資産を寝かせておく余裕はない筈で、株主責任を果たして資産運用者にものを言いましょうという考え方です。それを単純に、金融庁が銀行窓販の手数料を悪者扱いしているとか、大手生命保険会社に地銀へ圧力をかけろと言っていると考えると間違えます。

先日、妙な話を地銀の役員から聞きました。地方財務局の職員が、金融庁の方針を知らないというのです。地方財務局は財務省傘下の組織ですが、地域機関に対する行政を金融庁から委任されています。ですから、地域金融機関の多くにとって金融庁とは、地方財務局のことです。それが、本庁の考えを知らないのでは、民間の金融機関は動きようがありません。最近の金融行政は、プリンシパル・ベースという考え方に変わりつつあるのですが、プリンシパルは判るが具体的には何のことかというのは、民間も地方財務局も同じです。具体的な説明が金融庁から財務局にない、新聞で初めて知ることが多いというのです。

一方で、金融庁幹部からは、行政現場のノウハウ不足、勉強不足を嘆く声を良く聞きます。ネガティブ・リストに従って、チェックするスキルは高いが、ビジネス戦略や経営管理の仕組みなどに関する知識がない。どうしたら、教育できるだろうかと聞かれることがあります。「研修や本で勉強するのも必要ですが、要は経験とリベラルアーツです。学校出たてのコンサルタントをグリーンボーイと言いますが、連中と同じように知ったかぶりをされると混乱するだけです。」と答えます。

金融機関も、チェックリスト経営から脱出して、バリュー経営に変革すべきです。最近、いちよし証券の営業の原理原則「いちよし基準」が注目されています。「売れる商品でも売らない信念」などと決めるのは簡単ですが、それを長く続けることは大変なことです。プリンパル経営の代表的事例としてしばしば参照されています。              

平成29年3月6日 島田 直貴)