FinTechの今年度投資は110億円 (IDCが市場予測)

日経ITProの平成29年2月1日版の記事です。金融機関のFinTech関連投資は今年110億円となり、今後、CAGR68.7%で成長して2020年には、338億円になるということです。IDCジャパンの予測です。銀行が60億円、保険が40億円、証券その他が10億円という構成です。20年には、銀行170億円、保険120億円、証券その他が50億円です。

対象分野別の成長性は、ブロックチェーンが110%、レンディングが134%、それとIoTを使ったテレマティクス保険の三つが成長を牽引するとしています。IDCはFinTech対象分野を、個人資産管理、投資支援、テレマティクス保険、会計/経営情報、レンディング、決済、暗号通貨、ブロックチェーンの8つに定義分類しています。

IDCの発表を見ると、FinTech市場に絞った調査予測ではなく、金融IT市場予測でした。金融全体は、今年1.1%のプラス成長で2兆517億円となる。メガが2.2%、カードが2.7%、ネット証券が2.5%と堅調に成長するとの見立てです。この数字に違和感はありません。全体でいえば、大型案件が減り、ベンダーにとってきついことは確かですが、今年、比較的マシとされるこの3業種もベンダーは特定されており、開かれた市場ではありません。多くのベンダーにとっては、寒い1年になることでしょう。面白くない金融IT市場の動向で、唯一、話題性のあるのがFinTechなので、IDCとしては、ここにクローズアップした予測発表としたのでしょう。

話題性があるといっても、所詮110億円の市場です。今後、大きく伸びるといっても、元が小さいですから、成長率は高く出ます。予測手法から考えると、様々な要因からCAGRを算定して、それを市場調査から得た昨年、今年の支出額に掛けたのだと思います。その成長要因は、頻繁に替わりますので、2020年の市場規模338億円は、一つの目安にすぎません。それにしても小さい。米銀大手1行で10億ドル(BOAなど)とするのに比べると、日本全体の小ささが実感できます。

もっとも、米銀の10億ドルも内訳は公表していません。資本出資も入っているかも知れません。IDC調査は、HW、SW、サービス、通信ですから、Apple to Appleの比較にはならないでしょう。更に、FinTechで決済サービスを開発するので勘定系を改修する場合、新サービスに1億円、勘定系改修に5億かかった場合、6億をFinTech支出とするのか、それとも1億なのか。こうした予測データを見る時に、重要なのは、数字だけを見てはいけないということです。そこから大きなトレンドを掴み、ターゲットとする分野を抑える為に、その周辺のどこまでを抑えるべきかなどを考えるべきです。

日本でFinTechに係わる新興ITベンダーは約80社、そこに、大手、中堅の20社程が名乗りを上げています。多くは、金融とその個人客、法人客との繋がりを想定したメニューを考えています。しかし、FinTechはCrossTechの一部です。複数の業種にまたがる新しいサービスの開発ですから、支出側の業種で市場を定義するのか、それとも、サービス単位で見るのか。市場予測企業にとって、何とも面倒なことです。

今年の110億円を考えてみましょう。まず、保険の40億円。銀行の60億に対してかなり大きいという印象です。しかし、4月から10月にかけて、大手保険会社が相次いでテレマティクス商品を本格販売開始します。フロント部分は流行りの技術を使うでしょうが、ミドルとバックは、在来技術です。合わせると、とても40億に収まるとは思えません。証券も、ようやく野村がFinTechプログラムを始めましたが、この業界は、元々がAIやモバイルなどを本格的に活用しています。それを顧客の進歩に合わせて拡充するので、証券だけでも10億では収まらないでしょう。それにカード会社の本人確認や新決済サービスなどが加わります。

銀行ですが、今年もメガバンク主体のFinTech投資が続くでしょう。1社で40億というところもあります。もっとも、旅費やイベント費などを含んでいますが。地銀など地域金融機関は、調査研究段階が続きます。一部で決済や地域通貨の本番開始が予定されていますが、この規模は極めて小さい。そもそも、個人の小口決済そのものは、市場としては余りに小さく、単価が低すぎる。要は小さなコモディティです。そこに、多くのサービス、業者が乱入していますので、とても収益性のある市場とはなりません。他のサービスの付随サービスとなるかも知れません。ですから、IDCは決済FinTechを大きく見ていないのだと思います。他社にやらせておいて、後で買収する戦略が正しそうです。

FinTechはCrossTechだと言いました。このビジネスにおける金融機関、ベンダーの成功要因は何か?まだ、定まったものはありませんが、サービス・プラットフォーム、技術の安定性・継続性、そしてデリバリー・チャネルが重要です。一部のメガバンクやベンダーは、それに気づいています。しかし、多くは表層的で個別のサービスを競っています。目的は日経新聞の記事になることのようです。

金融機関や大手ベンダーは、自社の目線(SWOT)で市場を定義しています。新規参入者は、市場の目線(顧客の価値連鎖)でビジネス・ケースを作るべきです。そうすると、IDCの予測よりもはるかに大きな市場が見えてくる筈です。FinTechが、新市場開発ツールの一つに見えてくるでしょう。

 

                          (平成29年2月3日 島田 直貴)