2017年注目のテクノロジー (日経コンピュータ)

平成29年1月5日号に掲載の記事“News & Trend”です。日経コンピュータの記者4人による連名記事です。今年の注目テクノロジーとしてAI、IoT、クロステック、セキュリティの四つを取り上げています。

AIでは、自動運転、医療、金融などでの応用が進む。IoTでは、無線通信LPWAの商用利用が本格化する。低消費電力、長距離通信、低コストのLPWAによりIoTの普及が進み、IoTプラットフォーム・ビジネスにおける競争が激化する。テクノロジーを活用した業界横断型のビジネス革新「クロステック」も拡大する。アグリテックやフードテックなどが代表例。日本取引所グループがブロックチェーンの実証実験システムを他企業(金融とは限らない)に公開にするのも、クロステックの流れである。セキュリティではランサムウェアの被害が拡大し、クラウドへの攻撃が懸念されるとしています。IoTの普及に伴い、ルーターやエッジデバイスなど脆弱な箇所が狙われるだろうとしています。

これらの動きは、殆どの産業で進むと思われますし、金融業界でもほぼ同様です。気になるのは、金融業界では関連技術に精通した技術者が殆どいないことです。ディープラーニングにしても、技術面ではベンダーに殆どを依存しており、ユーザー側は業務面、利用方法に集中しています。ですから、利用するプラットフォームやツールが変ると、そこで、当該システムはリセットされてしまう。ベンダー側技術者も、特定の技術か製品に特化したスキルであり、応用が効かない。最近のICT化は、分業が当り前になっていますが、それでは全体最適はできないし、システム全体の整合性と柔軟性が期待できない。何よりも、時間と費用が膨れ上がる。

異なるビジネス間を連携させて新たな価値を生み出そうとするクロステックは、これから極めて重要なビジネス戦略となります。今、ブームのFinTechとは次元の違う、イノベーションが起こるでしょう。例えば、6次産業化です。第三次産業である農業と二時産業である食品工業、そして、それを外食や観光と結び付けようとする概念ですが、これはまさに、総合的にテクノロジーを集約することで、シームレスな6次産業化が可能となります。

IoTも構築するだけでは高付加価値化できません。IoTで集めたデータをデータサイエンス(ビッグデータやBIなど)で解析すると同時に、ディープラーニングで新たなKPIやSWOTを見出すことが重要です。ところが、金融界ではクローズな使い方しか考えない。行員の働き振りや動線をIoTで把握して、作業効率を改善しようとする。結果、何人月の作業を省力化できるので、投資効果が期待できるというストーリーです。それはそれで、必要なのかも知れませんが、もう少し、夢があり、働く人達が喜ぶようなテクロノジー利用を考えないといけない。

小池都知事が、国会議員から都知事に変わって、仕事に費やす時間は大幅に増え、実質24時間労働であるが、都議会以外の時間は自分で管理できる。極めて充実した長時間労働で元気一杯だと言ったそうです。他人に指図されてやる仕事と自分で考え、作りだす仕事との差だと思います。これからのテクノロジーは後者に使いたい。SORだSOEだとベンダー目線のシステム分類ではなく、働く人達の目線、顧客目線でのシステム分類が必要だと思います。その点で、新日鉄住金グループのIoXは、レベルが高い。Xの中心にはH(ヒューマン)があります。

米国の銀行業界団体BAIが昨年12月に「2017年米国リテールバンキングの展望」と称するレポートを発表したそうです。筆者は原文を見ていないので、何ともコメントできませんが、その中に「AI+24/7=2017」という表現がでてくるそうです。24/7のリアルタイム処理とAIによる顧客サービス改革が進む年だという意味だそうです。これだけ見ると、ただ、それだけのことですが、実は、極めて大きな影響のでるコンセプトです。米銀の多くはオンライン処理といっても、それは取引の受付だけで、実際にはディレイドオンライン、つまりバッチ処理中心のシステムです。ということは、業務処理オンラインの抜本的改造が必要となる。AIによる顧客サービスといっても、顧客のニーズは複合的であることが多い。しかし、組織体制は徹底した単純処理化を目指してきた結果、機能が細かくサイロ化されている。それを、顧客のその時々のニーズに合わせて、組み合わせて提供することが必要となります。

コンセプトを確立してアーキテクチャを考えることが得意な米銀が、こうした課題にいかに対応するのか、今からとても楽しみです。JPモルガンチェースが競合他行を圧倒した預金増加で注目されています。モバイル化などを進めながらも、他行と異なってリアル店舗を減らさなかったことが理由です。店舗削減を要求していた機関投資家や評論家が、同行の好業績に自分達の不明を反省するコメントを発しているとのこと。同行経営陣の見識ばかりでなく、意思の強さが評価されているそうです。今、金融庁が金融機関に求めている脱ミニマム・スタンダード、横並び経営からの脱却というのは、こういうことなのでしょう。

ICTを自動化に押しとどめるのか、新たなバリュー構築の戦略的ツールと使いこなすのか。使いこなす為には、どんな人材、スキルが必要で、それをどのように調達するのか。人材・スキルが存分に能力を発揮する為には、ビジネス・システム(目標、戦略、組織、IT、評価制度、スキル、プロセス、組織文化等の有機的組合せ)を作るのか。その際に必要となるリソースは内製なのか外部なのか、調達方法の基準と採用・育成のスキームはどうするのか。

IDCなど、市場調査機関の予測では、今年の金融IT市場は若干ではあるが増加傾向にあるという点で共通しています。ところが、大手IT企業の話ではどこも、今年は売上が大きく減少する見込みで、FinTechやAIのような小粒ビジネスでは、とても落ち込みをカバーできないそうです。長年、新たなビジネスモデルが必要だと叫んできたのですから、今年こそ、本気で事業改革に取り組む良い機会です。多くの著名企業がこうした機会を逃して存続を危うくしました。ユーザーである金融機関は、IT企業の努力と本気度をよくよく精査して、今後の取引方針を見直すべきです。流行りのテクノロジーを表面的に使うだけでは、戦略的ITパートナーの確保は不可能です。それどころか、メインベンダーと共倒れになります。どういう訳か、日本の金融機関のリスク管理にこのリスク項目はありません。

                           (平成29年1月20日 島田 直貴)