銀行代理店規制の緩和 

ニッキンの平成29年1月1日号記事です。金融庁が2017年度中にも銀行代理店制度における金融機関勤務経験者の配置義務を緩和する方針だということです。昨年9月末時点の銀行代理業者数は、56社にとどまり、それも兄弟銀行やグループ内証券会社などが大半で異業種は極めて少ない。その理由として、銀行勤務経験者の配置義務があり、それが緩和されれば、郵便局やコンビニ等を代理店として活用できる可能性が広がるとしています。

この記事は昨年12月27日に金融庁が公表した「金融審議会金融制度WG報告書案」をベースに書かれたものでしょう。当WGは、オープン・イノベーションを推進する為に必要な制度整備を検討する目的で設置されていますが、具体的にはマネーフォワードやfreeeなどに代表されるFinTech中間事業者の制度的位置付けを検討することが目的でした。諸外国の制度変更に関する動向を参照しながら、決済業務に関する中間事業者を決済指図伝達サービス提供業者(PISP)と口座情報サービス提供者(AISP)とに区分し、PISPを免許制にAISPを登録制とする。両者ともに顧客からの資金を預からないことを前提とする。(出資法との関係です。)その代わりに、銀行等は、PISPとAISPが顧客の代理として銀行にある顧客口座にアクセス(照会型と更新型がある)することを拒まない。また、接続方法に関してはセキュリティ等の為に、銀行と中間事業者間で契約を結び、銀行APIを開放する。その場合に規模などを理由として中間事業者を差別しない等をルール化する予定です。現在の主流であるスクレイピングを一定期間後に原則として禁止するなども報告書案に明記しています。

中間事業者としては、新たに規制が課せられることになりますが、先行する大手業者は、規制されることを歓迎しているようです。今の状況だと誰でも決済関連中間事業者として事業活動が可能です。不祥事が起きて顧客が離れることが心配なのです。むしろ規制の結果、堅実な業者のみとなれば、業界としての信用度が増します。皮肉なものです。規制制度の隙間をついて新事業を始めた中間事業者が、先行者の地位を確保した途端に、規制の恩恵を被るのですから。もっとも、これは、FinTechに限ったことではありません。例えば、33年前に貸金業法が施行されて、当時4万社以上あったサラ金と呼ばれる消費者金融会社が一挙に10分の1になりました。そして大手4社が大きく業容を拡大しました。ただ、それも続かず、利息制限法や業法改正による総量規制導入があり、最高裁の判決を受けて巨額な過払い金返済で、一挙に構造不況業種となってしまいました。一度、社会問題化するとわが国の規制当局は、自由経済主義を簡単に放棄します。決済関連の中間事業者も肝に銘じておくべきことです。といって、協会を作って規制当局の代理をするしかありませんが。

金融庁が銀行代理店制度を見直す契機となったのは、中間事業者の位置付けを整理していて、大きな穴に気付いたからです。対象とする金融業務を決済とその他(預金や融資など)に分け、更に中間事業者を銀行の委託を受けるのか、顧客の委託を受けるのかで、4正眼に区分しました。今のFinTech中間事業者は、顧客の委託を受けて決済に係わる業務を行ないます。銀行の委託を受ける業者は、既に銀行代理店規制か銀行の外部委託先として規制の対象です。ところが、同じような業務を行なうにも関わらず、顧客の代理を行なう場合は規制対象外です。決済では今のところ、問題となる事象は発生していません。しかし、今後は判らない。預金や融資も、いろいろと知恵を使えば、銀行と同じようなことが可能になるかもしれない。現時点では具体的な動きはないが、制度化の下準備をしておく必要があるということなのでしょう。そこで、金融庁がピックアップした代理業務規制項目が、営業所変更と実務経験者の配置義務です。ここを、銀行と決済関連中間事業者とでバランスの取れる規制に整理しなくてはなりません。今の規制だと顧客の代理を行なう中間事業者は、事業として成り立たないでしょうし、緩和し過ぎると、決済どころか融資や預金業務において金融秩序が保てなくなるかもしれません。例えば、セブン銀やイオン銀、そして年内にも発足するであろうローソン銀などが、グループのコンビニで手軽な銀行業務を始めるかもしれない。

10年前に銀行代理店制度が解禁された時に、幾つかの銀行の代理店戦略立案を手伝いました。考えられる限りの代理店候補業種で何ができるか、できないか、メリット・デメリットは何かを詰めました。コンビニやホームセキュリティ、通信キャリアなどが、個人向けチャネルとして欲しい対象でした。ただ、どうしても銀行のようなコンプライアンスを期待できないことが、最大のネックでした。現金を扱わない、顧客対応する担当者が資金移動をできないようにすれば良いのですが、それなら代理店よりもネット取引の方が、安くて早い。であれば、GoogleやYahooを代理店にするか。

今からとすると、代理店に何をして欲しいのか。ネット取引化を前提とすれば、銀行アプリを販売して欲しい。代理店の本業と銀行アプリを抱き合わせ販売してくれると嬉しいが、その際に広告・景品規制に抵触しないか等々を考える必要が出てきます。銀行支店のカウンター内の作業を顧客にやらせようとか、カウンターでの作業を代理店にさせようと思う限りは、顧客が喜ぶサービスは出てこないでしょう。郵便局を民間銀行の代理店にするという発想も、こうした考えの一種です。郵便局員は既に忙しくて手一杯です。局舎内は狭くて、新たに装置を置くスペースもない。通信回線網は極端に遅い。それも朝夕はExcelファイルが飛び交って、とても新たなアプリを載せる隙間はない。近く刷新されますが。

代理店戦略を考える時に、自分の都合や相手の外面だけ見ても、何も実現しない。2歩先、3歩先を読んで、提携候補先の都合や内情を知りつくさないと提携に係わる戦略は立てられません。そして、規制は今後も頻繁に変り続けます。旨く風と波を乗りこなすことが、これからの金融営業戦略に欠かせません。試行錯誤せざるをえません。ドタバタするか、ずーっと、様子見を決め込むかです。

                          (平成29年1月4日 島田 直貴)