地域IoTの経済波及効果は2020年に5兆円 (総務省の提言)

平成28年12月16日付のITProが総務省の提言を参照しながら報道した記事です。総務省は、12月9日付で「地域IoT実装推進ロードマップ」と「ロードマップの実現に向けた第一次提言」を発表しました。IoT、ビッグデータ、クラウド、AIなどのテクノロジーを活用して、人口減少・高齢化、経済の低迷など地方の課題解決に向けた道筋を示そうとの試みです。地域IoTの生活に身近な分野として8分野を例示し、2020年度時点の経済的波及効果を試算しています。

政府の経済効果試算は、いつも、おおげさで、結果を評価することもないのですが、その方向で政策が進められるため、民間も地公体も無視できません。提言では、8つの主要分野で、実現のためのKPI(当提言では、達成のための目標という意味だそうです。)を設定しています。8分野は、教育、医療・介護・健康、働き方、防災、農林水産、地域ビジネス、観光です。

8分野における経済波及、雇用創出、ICT投資増加額、ICT雇用創出効果を試算しています。各分野に関連する市場規模増加額に産業関連表の逆行列係数や雇用誘発係数などを乗じて算出しています。分野別の波及効果試算は、総務省の発表を参照していただくとして、総額でいうと、経済波及効果4兆9千億円、雇用創出効果44万9千人、ICT投資増加額1兆1千億円、ICT雇用創出効果4万9千人となっています。一番大きいのが、医療・介護・健康で、次いで地域ビジネス、観光の順です。面白いのは防災で、ずば抜けて効果が少なく、経済波及は500億円、雇用創出は2500人です。国土交通省が怒るだろうと心配になります。

もう1点、興味深いのが、ICT分野への効果です。投資増加額が1.1兆円、ICT雇用創出効果が5万人と現在の10%にも満たない増加しか見込んでいません。これでは、わが国の大手ICT企業は、本気にならないだろう。新たなプレイヤーによる地域IoT化が必須になると思います。大手には、海外で頑張ってもらえば良い。

第一次提言として「縦、横、斜めの総合的な推進体制確立を急ぐべき」とし、その為に検討を加速すべき事項として、@地域による自律的・持続的な実装と運営の仕組 A地域ICT人材の確保と地域外ICT人材の活用 B地域資源(データやシェアリング・エコノミー)の有効活用がロードマップ実現の基盤になると言っています。

この提言は、その通りだと思います。縦、横、斜めという表現が多様されていますが、それは、何かキーとなる施策を一つやれば動き出す訳ではなく、合わせ技でないとムーブメントにならないからです。ハコモノで終わっては意味がありません。

注目したいのは、地域ICT人材の確保と地域外ICT人材との連携という提言です。地方といえば、農業中心、サービス業中心、若年層の減少などが思い浮かびますが、こうした層にICTを提供することが、大きな効果を上げることになる。企業の戦略は強い部分を強化することに注力しますが、弱い部分を強化する方が容易ですし、改善効果も大きい。

ここで気づきますが、地方経済が一向に良くならないのは、日本経済を牽引する大手企業に、魅力がないからです。正直なところ、観光のIoT化を頑張っても、1兆円の経済波及効果です。1都3県を除く地方の経済規模は350兆円くらいでしょうか。1兆円だと所詮0.3%未満です。○が一つ足りない。やはり、サービス業と農業の生産性を上げることに傾注すべきです。前回の当コラムでサービス業の生産性は米国の半分以下で、農業に至っては4.7%だという調査結果を紹介しました。企業であれば、この市場は放棄します。しかし、地元企業、住民にとっては、放棄できない。

地方の問題を考える時に、いつも思い浮かぶのが北欧諸国です。人口は、日本でいえば一つの県にも及ばない規模です。しかし、いろいろな意味で豊かです。豊かとはまだ言えないバルト3カ国は、人口100万人前後。それでもエストニアのように、ICT先進国として名を馳せている。どうして、日本ではそれができないのか。かつては、道州制にすれば大分マシになると思っていましたが、要は、自決自治であり、今回のレポートでは自律だと言っています。県という役所は、中央政府との仲介役であり、実質的権限も能力もないので、トンガッた首長のいる市町村単位でやるしかないとも言われます。しかし、市町村だけでは、パワー不足。やはり、県や地方のリーダー企業である銀行に期待することになる。

もう一つのパワーは、地方ICT人材です。まさにエストニアなどが参考になるでしょう。130万人であれだけのことができる。要は教育です。人口150万人の県で、2%3万人のICT人材を育成して、県内のICT化を進めながら、海外へも輸出できたら、どれだけ大きな効果が期待できるでしょう。人口比2%というのは、控えめな数字です。今まで、何故しなかったかというと、恐らく、地方の政治家も役人も、ICTを技術としても産業としても知らないから。そのくせ、こうしたアイデアにとんでもない妄想だと反応するでしょう。

女性を含む若い人達が主力となって、IoT、データ解析、AIなどで頑張ってくれれば、総務省の試算を越える成果が期待できると思います。その育成方法が重要ですが、地元の大学で座学をやっても仕方ない。OJTが必要ですから、専門学校のような教育機関を創る。そこで、県外を含めたICT専門家に常勤、派遣で指導してもらう。海外のスタンフォードやMITのような大学とも連携する。何故、専門学校かというと、規制を逃れるためです。文科省のやり方が失敗なのは、現状が証明しています。

UターンでもJターンでも構わないので、東京でICTに携わった退職者達にも活躍の場を作る。クラウド・ファンディングで奨学金など資金供与の仕組みも難しくはないと思います。要は、夢と実現性のある事業であることです。こんな試みを、多くの地域で進めることができれば、鬱屈したICT産業の空気も流れ出すでしょう。団塊の世代は、800万人もいます。スウェーデンの人口に近い。筆者もその一人ですが。この世代の1%でも、経験と技術と時間と資金を出し合えば、面白いソーシャル・ビジネスになると思います。

                                    (平成28年12月20日 島田直貴)