サービス産業の労働生産性は米国の半分

日経新聞の平成28年12月13日付記事です。生産性本部が前日に発表した調査結果に関するものです。2010年〜12年の生産性の平均を日米間で比較したところ、製造業はそれほどではないが、サービス業の生産性が極めて低く、差も広がっているといいます。特に、卸売・小売業は米国の38.4%、飲食・宿泊業が34%と目立つ。IT化の遅れが主因と思われるとしています。

生産性が低いと言われれば、もっと厳しく真面目にはたらかなくてはと思うところですが、どうみても、日本の方が米国よりも、真面目に長く、頭を使って働いている。IT化が遅れているといってもセブンイレブンなどコンビニを見れば、米国のコンビニのように派手さはなくとも、緻密なIT化では勝っている筈だ。どういうことなのかと思って、この報告書を見てみました。

そもそも、労働生産性とは何のことか?報告資料にはバックデータが一切載っていません。他で調べると、1人1時間当たりの付加価値のことだそうです。付加価値とは、企業や産業が稼いで手元に残す所得金額のことで、具体的には総人件費(公的負担、福利厚生費、外部への支払報酬・手数料などを含む)と営業利益を合わせた額で計測するといいます。それを総労働時間で割ると、1人1時間当たり付加価値が算出されます。

それなら、労働時間を減らせば良いではないか。または、給料を大きく上げたり、価格を上げて一時的に営業利益を増しても、単位当たり付加価値は増える。問題は、それを継続できるかということになります。持続させるには、仕組みが必要であり、それは物価を適切な範囲内で上げるというマクロの問題とIT化を含めた事業効率の向上となります。政府の今の経済政策はまさに正しい。ということは、産業政策が間違っているということでしょう。とはいえ、日本は自由主義経済国家です。

本調査を産業別にみると、化学産業は米国の142.3%と遥かに米国を凌駕しています。一方で、農林水産業は4.7%と約20分の1です。こうなると、殆ど趣味の領域です。金融は48.0%と半分以下。両産業ともに、労働者がサボッテいるとは到底思えない。真面目に一生懸命やっている。要は、儲かる仕組みになっていない。それは何故か? もっと総人件費を増やしつつ、営業利益を上げるにはどうしたら良いのか。金融でいえば、金利を上げれば、問題は一発で解決する。それにはある程度のインフレが必要。

金融も農業もかつては風任せというか、環境次第のビジネスモデルでした。しかし、今は農耕型のビジネスモデルでは急激な環境変化に対応できない。といって米国流の狩猟型経営を展開できるほど、経営の可視化は進んでいないし、組織や従業員の変化を受け入れるスピードも欠ける。結局は労働集約的なビジネスモデルの中で人的作業を自動化するしかない。気がついたら、更に人を減らすと事業自体が成り立たなくなってしまった。このことは金融だけでなく、農業も同じに見えます。

投入資源を最小化するだけでは、付加価値は増えません。いかに収益を増やすかが勝負になっているのだが、その方法がわからない。コンサルやITベンダーは、SORだSOEだとジャーゴンを連発しますが、具体的な方策は示せない。「FinTechではコストは下がらずに増えますよ。だから、収益に結びつかないFinTechならばお止めなさい。」と言うと、銀行の人はとても困った顔で「どうしたら収益を増やせるのか?」と聞いてくる。それは自分で考えるべきだと言えないので、(いつも口に出してしまうのですが。) 「客が金を出してでも使いたいという商品やサービスを作ることです。」と答える。そこで議論はとまってしまう。

客から金を取れるサービスとは何か? それを知っているなら、銀行に教えずに自分で商売にする。そんな当たり前を銀行員は理解していない。正直なところ、やってみないと誰にもわからない。一般に米欧の物真似は日本では通用しない。でも、メディアや行政はモノマネを期待する。銀行がサービス企業の生産性改善支援をするとその企業は金を出すでしょう。貸出利息でなく、手数料でも良い。金利が上がるまでは、銀行にとって手数料ビジネスは、成長の糧であることは間違いありません。

サービス業の生産性向上は地方創生の第一課題ですが、IoTやデジタル・マーケティング等、ITが不可欠です。そのプロバイダーであるIT業界の生産性は対米比74%です。金融も農業も、日本のIT産業に依存する限りは、IT化において米に大きく遅れることになる。ITの日米ギャップは、殆どがソフト・サービスの生産性でしょう。知財を除けば、ハードにそれほど大きな差があるとは思えない。日米差の原因を考えると、営業コスト、関連部門コストで圧倒的に米国に劣る。金融業界にとって、日本のIT業界の生産性が自分の生産性上限となる。FinTechで海外から新規参入されたら、ひとたまりもないだろう。

それを避ける為には、自力で高い生産性のITパワーをもつしかない。方法としては内製力を持つか、身近に高生産性のITリソースを集めるしかない。米国では、地域振興を兼ねて地方にITカレッジを設立し、地元の若者にIT教育を施して、囲い込もうとの動きもある。金融IT戦略も、より広い目線で考えるべき時代になったということです。

                        (平成28年12月15日 島田 直貴)