日本取引所グループがブロックチェーン実験環境を開放

ITPro平成28年12月1日付で日経FinTechが報道していました。日本取引所グループ(JPX)が、ブロックチェーン(BC)/DLTの実証実験を再び行なうとのことです。来春から開始して期間は定めない。今年の4〜6月にIBM、NRIと共同で実施した実証実験より参加者を広く求め、共同でブロックチェーンの課題を解決していく予定です。そして実験環境をオープンにして、参加企業が独自のアプリケーションを開発、実装できるようにするそうです。BCのインフラは、米IBMなどが主導するFabricをベースとし、日本IBMが協力します。

8月に公表した前回実験の報告書では、BCの有用性を確認しながらも、処理能力など技術課題も並べて、BCに適した業務の選択が重要だとしていました。それを読む側からすると、「適当な対象業務が見つからなかった、本気で使う気はなさそうだ。」という印象でした。改めて実証実験を行なうということは、BC技術を自ら推進しようと考えたようです。新興国など、レガシーの取引システムがない国では、これから取引システムを構築する際には、BCを使うでしょう。そうした国の取引システム構築を支援するには、JPXもBC技術を持つ必要がありますし、将来の自社システム全面刷新に向けたスキル蓄積という狙いもあるのでしょう。

BCを使った送金システムや仮想通貨に関する実験や実装が、続いています。しかし、メガバンクなどは、本音では、現時点でBCに技術移行するメリットはなく、単純な新業務開発くらいなら使っても良いというスタンスだと思います。ただ、世界中で実験を通じた技術的、ビジネス・プロトコルの改善が続いており、いつ、それが旧システムをブレイクアウトするか判りません。いつでもアクセスできるように、多方面での実験参加やベンチャーへの出資は続けているといったところなのでしょう。

講演の際に、地域金融機関からBCへの対応方法を質問されます。いつも「自ら、人と金を使って実証をやる必要はありません。現システムからの移行コストがかからず、技術的制約もない場合であれば、利用する価値はありますが、実際には、オープンなP2Pネットワークと守秘を求められる金融取引の矛盾が大きな障害となるでしょう。」と答えています。それで、皆さん、安心した顔をします。いろいろな意味でBCを懐疑的に見ているものの、評論家やメディアがBCをはやし立て、経営トップがウチはどうするのだと言いますので、担当者としては返事に窮しているのが実状です。

JPXが金融機関に広く実験環境を提供してくれれば、地域金融機関は焦らなくて済みます。BC技術者の質も量も、極めて限られていますが、テストベッドさえあれば、何時でもBCに手をつけられますし、相手がJPXであれば安心です。JPXとしては、BCプラットフォーで新規事業をと考えているのかも知れません。話はそれますが、東証と日本IBMは、終戦直後から冷たい関係にありました。BCを通じて両社の関係が改善して、JPXにも海外先進技術や事例が届くようになることは、とても良いことだと思います。

JPXの8月レポートでも繰り返し強調されていましたが、BC上でDLTを実装する際には、スマートコントラクトが必須だとされます。スマートコントラクトとは、契約内容や執行条件を事前に定義、プログラム化しておき、条件に合致したイベントが発生すると自動的に執行する仕組みをいいます。AIでも使わない限りは、定義しきれない契約条件(免責条件など)は扱えませんが、単純で約款レベルの条件であれば、BCに組み込めます。Ethereumなどが提供しています。最大の課題はセキュリティで、スマートコントラクトを改ざんされたら、目も当てられない状況が発生します。

ただ、スマートコントラクトの有用性も期待されており、デリバティブ契約、株式・債券の発行、配当・決済などでの適用が検討されています。BCの大規模コンソーシアムであるR3などでも、分散型台帳(DLT)プラットフォームで主要各国の法基準に準拠するスマートコントラクトを開発しようとしています。JPXが、R3のような役割を日本で果たすことができれば、次世代の金融取引のプラットフォームを米国に握られずに済むかもしれません。

スマートコントラクトを実装したDLTをBCで構築できれば、取引のコンファーメーション、権限管理、イベント処理、取引データの照合、リコンサイル、修正などが、各金融機関の関連システムから外出しできることになります。各社は関連システムの開発、導入の負担を大きく軽減できます。これまでシステムのアウトソーシングというと、特定のアプリケーションをまるまる外部委託するイメージなのですが、上記のような各社共通の管理プロセスなどを外に出すという流れは、全く新しい発想でとても面白い。やはり、米国という国は、柔軟な発想のできる国だということなのでしょう。我々に、その発想力が不足するとしても、スピードと品質で対抗することは可能です。スピード競争となるとムカデ競走のように、参加者の足を紐で繋いでいては、太刀打ちできません。わが国金融機関がいつ、ITムカデ競走から徒競争やリレー競争の世界に移るのかが、別の課題ですが。

                         (平成28年12月2日 島田 直貴)