クラウド産業の動向 (VwareAWSを利用)

日経コンピュータの平成28年10月27日号の記事です。「ヴイエムウェアをも飲み込むAWS」というタイトルです。VMwareの基幹である仮想化製品vSphereをAWSで利用可能にするという内容です。来年中頃にリリース予定です。要は、vSpereがパブリック・クラウドで利用可能になるということです。これまでは、オンプレミスかプライベートクラウドでしか使えなかったのですが。

今年5月にはセールスフォース(SFDC)が同社のクラウド事業におけるITインフラとしてAWSを採用すると発表しています。つまり、SFDCもVMwareも、基盤をAWSにするということで、IaaSは完全にアマゾンの一人勝ちということです。彼らは、価格=コスト競争では勝ち目がなく、技術力も日々、AWSが勝りつつあると判断したのでしょう。自ら、インフラを作って運用するよりも、AWSの方が戦略的な合理性があると考えたということです。

AWSを追走するマイクロソフト、IBM、グーグルはクラウド事業の収入はAWSの半分以下ですし、その他のクラウドベンダーは更にその半分で、この事業から撤退するか、自らはPaaSやSaaSに特化する、または、プライベートクラウドに特化するという戦略しか取れない状況です。そのAWSはIaaSだけでは物足りず、最近ではPaaSに力を入れ出しています。これからは、PaaSにおける合従連衡が続くことでしょう。対抗してマイクロソフトなど他社はIoTやAIのプラットフォーム事業を急いでいます。

日本では、パブリック(3千億円)よりもプライベート(1兆2千億円)の方がクラウド市場が大きく,そのベンダーは殆どが国内ベンダーですが、自前のインフラを使うベンダーは少なく、多くは米系ベンダーのIaaS、特にAWSを使っています。特に中堅以下ベンダーではその傾向が顕著です。即ち、AWS抜きには、わが国のクラウド産業は成り立たないことになります。

クラウドが今後のIT化を主導することは間違いないと思われています。そのベースにはインターネットがあります。これも米国で始まったものですが、パブリック・ドメイン化しており、誰でも自由に無料で使えます。その上に、ブラウザがあり、検索技術があります。これらは、いずれも米系企業の牙城です。検索ではグーグルが圧倒的な地位を築いています。クッキー情報は集め放題です。その上にECなどアプリケーションが動きます。そこでは、やはり米系のアマゾンがリードしていますが、アリババも存在感を増しています。日本ではヤフーや楽天も頑張っていますが、アマゾンには遠く及びません。そのアマゾンも取引情報や検索情報を集めています。注文する時には、クレジット支払が大半ですが、この決済情報はVISAやMasterがやはり本国に集めて、解析しています。つまり、米系企業が見事にプラットフォームを握り、通行料を取るだけでなく、その経済源流データを使って、新たな事業に結びつけています。

日本でも、この事態に気付いている政治家や政策官僚がおり、何とかしようと思っていますが、プラットフォームは一度握られたら、同じ土俵である限り逆転が至難です。日本人は、日本の顧客の好みにあったコンテンツを高い品質で提供することを考えます。多くの外国人は最初から、グローバルで普及させることを追求します。だから、最初からプラットフォーム狙いです。では、日本は駄目かというと、個別のコンテンツ、サービスで話が変ります。グローバルなものは殆どありません。Uberにしても、プラットフォームです。米国などの仕組みそのままでは日本では通用しない。日本人に経済合理的な判断力がないということではなく、安心、安全、清潔、気楽さなどに対する優先度が違うからでしょう。

プラットフォームを狙うのも良いが、そこでは、今、存在しないものを創発するしか勝ち目はなく、当面はコンテンツやサービス開発に注力し、そこからプラットフォームに向かうことが重要です。そこで、クラウドではどう考えるべきか。IaaS、PaaSは米系を使うとして、コンテンツ、即ちアプリまで持っていかれては、経営の独自性を放棄することになります。別にSaaSに力を入れろという意味ではなく、アプリくらいは自分で作れということです。アプリの仕様を一番理解しており、それを使うのは自分なのだから。システム部門にアプリの知識がない企業があるかもしれない。であれば、エンドユーザーがアプリを作って、保守すれば良い。(エンドユーザーにもそのスキルがないとすれば、存在そのものが無意味となります。)EUCを可能にするツールは豊富に揃っている。その態勢を作れば良いだけです。経営陣がITのライフやアーキテクチャを理解して、アプリ毎にオーナーを決めて、IT部門、利用部門、外部委託先へのソーシング配分を決めるだけのことです。

金融業界でいうと、クラウド、特にパブリック・クラウドを使うことへの制約が大きい。特に外部委託先管理は、その必要性を認めるとしても、金融機関のITソーシング戦略の選択肢を奪い過ぎです。行政当局は、そんなことは指導していないと言うでしょうが、金融機関が委縮していることは事実です。それをほぐす努力を行政はしていない。例えば、SFDCを使う金融機関が多いのですが、SFDCのインフラがAWSになると何が起きるのか。SFDCは顧客によるオンサイトの監査を許容していますが、AWSは絶対に認めないというのが現状です。すると、SFDCのCRMを使う金融機関にとっては、今のままという訳にはいかない。ではどうするのか?他に簡単に移行できる先がありません。今時点では、皆さん、このことに気付いていないか、気付かないフリをしています。

FISCは、再来年あたりに安全対策基準を全面改訂してリスク・ベース・アプローチにすると表明しています。その時に再委託、再々委託のリスクをどう評価するか。金融機関は、今から考えておく必要があります。こうしたことは、SFDCやVMwareの話だけではありません。クラウド抜きでどうやって金融ITの国際競争力を維持するのか。それでなくとも、随分と遅れを取ってしまいました。ITの専門家であるIT企業に依存した結果が今の状況ですから、どこで、何を間違えたのか良く考え直す必要があります。

韓国の銀行CIOが、何故、アウトソーシングや共同化をしないのか?という私の質問に、何でそんな質問を?という顔をしながら答えたことが忘れられません。「自分で作って、保守した方が、早くて安くて、自分に向いたものになるから。当り前のことでしょう。」日本は、特に金融業界は自分で作る力を失いすぎました。

                         (平成28年11月7日 島田 直貴)