金融リテラシーの地域特性 (金融広報委員会が調査結果公表)

平成28年6月17日に金融広報中央委員会が発表した調査結果が地銀界で話題になっているそうです。週間朝日の記事が9月12日にYahooニュースで紹介されたのですが、その標題が「金融リテラシー最下位の山梨 理由は無尽の影響?」というのです。甲州商人のイメージが強い山梨県が最下位と極めて意外な結果。有識者の見解では、地域や職場に広がる無尽の仲間を頼りにする傾向があり、金融商品の知識がなくとも、仲間のつながりでやっていける風土だと言います。読者の多くは、「えっ、まだ無尽をやっているのか?本当かな?」といったところでしょう。

記事では、山梨県は消費者ローン利用者の比率が全国で下から2番目だそうです。それが無尽の影響だと言いたいのでしょう。無尽を使うと金融リテラシーが低いとは即座には思えないので、沖縄のリテラシー順位を見てみました。沖縄でも無尽が使われると聞いたことがあるからです。すると、山梨に次いで下から2番目です。しかし、沖縄では消費者ローンは、かなり頻繁に使われている筈です。昔、消費者金融大手のコンサルをしていた時に、沖縄がとても良い市場で、良く利用されるし、不良債権比率も低い。何故かと聞くと、返済資金がなければ、親戚や友人から借りてでも返してくれるからということでした。関東人だと、消費者金融から借りていることを知人などに知られたくないという傾向が強い。だから、消費者金融の店は、ビルの一階には置かない。外から入店する姿を見られないからです。随分と土地柄で違うものだと思ったものです。

調査は簡単な5分野51の質問を2万5千人にして、その正答率を18セグメント別に分析しています。質問も海外調査と比較できるものを組み込んで、米国やOECD調査と比較しています。大変、興味深い調査です。都道府県別に比較すると上位は奈良県、香川県、京都府、岡山県、鹿児島県です。下位は、山梨県、沖縄県、山形県、青森県、鳥取県と長崎県が同点というところです。この上下それぞれのグループに何か共通点があるかと考えたのですが、特に見当たりません。江戸幕府直轄領だったとか、商業が盛んだとか、購読新聞だとか、いろいろ思いつく点で考えてみたのですが。統計データと擦り合わせしたり、ディープラーニングで解析すると何か面白い傾向というか、共通的な理由がみつかるとは思います。

調査報告では、正答率の高い地域では、株や投信へ投資する人が多いとか、低い地域では金融トラブル経験者の率が高いとか、かなり明確な傾向が出ています。その正答率ですが、全国平均が55.6%に対し、1位の奈良県は60.5%、最下位の山梨県は48.7%とかなりの開きがあります。リテラシーが高いから有価証券投資が多いというよりは、市場性商品へ投資するから金融関連の勉強をしているというのが正しいだろうと思いますが、貯蓄広報委員会ですから、まずは金融リテラシーありきのストーリーになるのでしょう。

実際に地域特性というのは、先程の消費者金融だけでなく、あらゆる面で大きく違います。あるホテルチェーンの地域別経営効率を見せてもらった時です。金沢の宴会事業がひときわ目立つ数字を示していました。単価は他よりも高いのに、利益が極めて低いのです。訳を聞くと、金沢のお客さんはビュッフェが好きなのだが、自分で料理を取りに行かない。円卓に座ったままで、接客係に料理を指定して席に運ばせるのだそうです。ですから、顧客人数当たりの接客係人数が、多くなって人件費が嵩むというのです。では、ビュッフェを止めたらと聞くと、食べ物に好みが強くあり、多くのメニューから好きなものを選ばせないと、利用してもらえないと言います。親戚や友人達が集まって、宴会を行なう回数も他地域よりは多いので、売上の面からすると、ビュッフェを止めるわけにはいかないということでした。

長野県には都市銀行の支店が一つもありません。大企業がないわけではありません。でも、都市銀行の支店がない。何故でしょう?長野県の人に聞きますと、八十二銀行が圧倒的に強いので、都銀は採算が取れないとの答えです。しかし、八十二銀の預金シェアは、33.6%、貸出は41.4%ですから、もっと地元シェアの高い地銀は存在します。筆者は、山国で経済圏が分断されており、支店を出しても必要規模を確保できないのだろうと勝手に考えています。長野県民は、どちらかというとリベラルの人が多く、勝ち組を嫌う傾向もあるようです。信濃毎日新聞がシェアを60%近く持っていることも知られています。理由は地域のニュースが充実しているからだそうです。新聞販売店は乗り合いで、複数の新聞を扱っていますから、顧客が信毎を選んでいるということです。ちなみに、同紙は毎日新聞とは関係なく、資本でいえば朝日新聞が株を保有しています。

さて、地域特性を銀行はどう戦略に反映するのか?地域ナンバー1の地銀も信金、信組も同じような商品、サービスを同じように売っています。差をつけるのは、担当者の顔しかないのか。地域の経済が縮小するとして、行員数は減らせても店数は減らせないとしたら、限界産業となってしまいます。しばらくは、地域内シェアを拡大すれば、利益率が落ちても利益額を増やすことは可能ですが、それはいつまで可能なのか。そこで、持続可能な新しいビジネスモデルが必要との金融庁的論理が出てきます。その持続可能性と地域特性はどのように関係するのか。まだ、こうしたテーマでの研究や調査結果を見たことがありません。

フィンテックはミレニアル世代対策と考えられています。世代別市場を強化すること自体は良いと思うのですが、単純に進めるとお客は一番便利で安いところに行ってしまう。やはりネットワークにのせるサービス、コンテンツを地域密着にしないと、地元のお客に評価されない。地域密着型のフィンテックとはどんなサービスが考えられるのか。これも、急ぎの研究課題です。

今、流行りのシェアリング・エコノミー。UberやAirbnb、Zipcarなどが有名です。日本政府も大変な力の入れようです。こうした新サービスは最初から全米やグローバルで始まったものではありません。身近な課題を解決しようとする中で生まれてきました。そして支持されたサービスが改善しながら拡大したのです。何が言いたいかというと、サービスはローカルに生まれるということです。このローカルとは地方というよりは現地という意味です。地域密着型のフィンテックには、ローカルがキーワードとなるでしょう。シェアリングやフィンテックは、ローカルなアイディアを実装する時のビークルだという位置づけになります。ビークルばかりに目を向けるわが国で、フィンテックが騒がれる割に進歩も普及もしない理由がここにあるようです。

                        (平成28年9月19日 島田直貴)