フィンテックと銀行勘定系システム (三井住友銀が東西ツイン・システム稼動)

日経新聞の平成28年9月5日付記事です。三井住友銀が東西2センターで勘定系オンラインの新しいBCP態勢を稼動させたとのことです。銀行ではなく、NECが発表しました。コールドスタンバイではなく、東西のシステムがそれぞれ店舗の半分程度ずつの処理を担当し、大地震などで片方が被災した場合にもう一方が、バックアップします。いわゆるツインセンターによるホットスタンバイ方式です。

両センターが常時、本番稼動しているので、万一の際に要員やデータの移動、ソフトのバージョン管理などが単純化できるので、コールドスタンバイよりはるかにBCPが充実します。昔から望ましい災害対策方法であるとされていましたが、ハードの費用は嵩み、運用要員も倍近くになるので、なかなか踏み切れずにいました。しかし、今日では、ハードはとても安くなりましたし、運用も自動化が進みました。異地点間のデータや処理の整合性管理も、ミドルウェアが充実して簡単になりました。

NECがこうしたBCPシステムを今更ながら発表する目的は何なのでしょう。誰かに参照してもらいたい筈です。地銀のユーザーは沖縄銀と大垣共立銀だけですし、その大垣共立は、現在、ユニシスのBankVisionへの移行作業中です。第二地銀に4行のユーザーがありますが、1行は他ベンダーへの移行作業中ですし、八千代銀行は都民銀行との合併後に次世代システムを開発する計画です。そのベンダーはこれから選定されます。NECは他ベンダーのように共同化を進めようにもユーザー銀行数が足りません。すると、きらぼし銀行の次世代システム狙いとしか考えられません。何年も後に稼動するであろう、そのシステムに今回のBCP基盤がどんな意味を持つのでしょう。

三井住友銀は昨年の5月連休で、勘定系等基幹系メインフレームを全て更改しました。最新のACOSシリーズi-PX9800/A100に置き変えたのです。何台だったか聞いたのですが失念しました。6台か8台かといったところでしょう。準備に3〜4年、費用も300億とか400億円と聞きました。ハードを入れ替えるだけで、なんでそんなに時間と金がかかるのか?と銀行の人に聞いたところ、BCPを全面的に組み替えるのが、意外と大変なのだという答えでした。13年振りのハード更改だったそうです。

処理能力の限界やベンダーのサポート切れなどで、ハードを更改することは良くありますが、今では、そんな理由で巨額投資を認めてはもらえません。何か目玉となるサービス・アップ・メニューを創るのも大変です。オープン系などは、それが頻繁に起きるのですから、それを担当するCIOが経営陣から嫌われるのは仕方ないと思います。メインフレーム担当のCIOの方が、サラリーマン寿命が長いというのも理解できます。嫌われる稟議を書かずにすみます。

最近のフィンテック・ブームが勘定系オンラインの位置付けに大きな影響を与えそうです。様々な提携先と接続し、AIを始めとする新しい技術を装備することになります。今はできるだけ、外付けにしていますが、やがて、アプリケーションだけでなくインフラもスパゲティ化する可能性が高い。インフラはマルチプラットフォーム化します。それを多様な形態で外部委託して、自行システムと組み合わせます。恐らく数百人のIT要員では、対応しきれないでしょう。マルチベンダー対応できるSIerがあるでしょうか。米銀大手のように、1万人を越える要員と数千億円のIT予算をもらえる筈もありません。ベンダーに依存しても、人件費が外注費に変わるだけで、総額が下がるとは思えません。ベンダーが売上の激減する方法を提供する筈がないからです。コストを下げる為に、既存のベンダーを切り捨てて、別ベンダーに切り替えることになりますが、その移行には大きなリスクが伴います。この方法をとる銀行もないではありませんが、決めた責任者は早々に異動して、後任が途方にくれるというケースも目にします。

最近のベンダーはSORとSOEのシステムを分離して、バイモダール方式のIT管理態勢をとることを提案します。筆者もその方が良いと思います。しかし、言うは易しであって、具体的に両システムの線引きをどうするか、データの一元性をいかに確保するか、複数システムにまたがる処理の完全性をいかに担保するか等々、具体的詳細な詰めが行なわれた例を知りません。筆者も確たる方法を知っている訳ではない。

米銀大手も同じような悩みを抱えています。邦銀よりもはるかにバッチ指向のシステムなので、リアルタイム処理前提のフィンテックが進むと、日本より遥かに深刻な問題にぶつかります。欧州の大手銀では、フィンテックを別システムとして、それにフルバンキング機能を載せる(FinTech2.0と呼んでいます)方向にあります。米国では、クラウドでコアバンキングをという主張が強まっているそうです。それに対して障害時対応の難しさやプライベート・クラウドでは安くならないと反論すると、守旧派として責められるとも聞きます。日本でも、十数年前に、分散処理でなんでも解決といった主張が一斉を風靡しました。

その米国では、クラウドをインフラとして、AIやブロックチェーンを搭載した新たなコアバンキング・パッケージ・ベンダーが出てきたそうです。既存のベンダーと激しく競合するのですが、最終的には伝統的な銀行で採用例がでてこない。そこで、フィンテックを目玉とする新設銀行に的をかえているとのことです。そこではオラクル・ファイアンスやテメノスといった中小銀行向けコアバンキング・ベンダーとの競合になります。良い競争をしてもらって、その成果を日本に持ち込みたいと思いますが、何時のことになるでしょう。

次世代システムを調査している地方銀行があります。2、3年の内に多くの銀行が検討せざるをえなくなるでしょう。今、検討している人達の話を聞くと、メインフレームか、オープン系か、言語は何を使うか、DBMSはどうするかという内容が大半です。それでは、次世代とは言えないでしょうと言うのですが、筆者自身も10年後、20年後の銀行基幹系システムのあるべき姿が見えません。ToBeが判れば、ギャップを順番に埋めていけば良いのですが。そういえば、第三次オンラインの基本設計では、かなり簡単にToBeモデルが作れました。環境が大きく変っているので、仕方ありません。

では、環境変化にいかようにも対応できるアーキテクチャとその要素技術は何かを整理すれば良さそうです。アプリは、その間に変わるものと、変らないものに分けられる筈です。問題は、こうした検討を行なうベンダーも金融機関もないことです。どうしてか。変えない方が都合の良い銀行とベンダーが、金融ITの主導権を握っているからに過ぎません。金融庁か協会がスポンサーとなって、知見のある人達を集め、調査、研究させたとしたら、どんな結果が出ることでしょう。それほど、時間も費用もかかることではないと思います。今は、フィンテックと称して新しいことをやれば良いのですが、やがては、勘定系との連携で行き詰まることになります。それともフィンテック・ブームの沈静化を図るか。

                                 (平成28年9月8日 島田 直貴)