フィンテックで町おこし (静岡銀行が地域クーポン)

日経新聞の平成28年8月23日付記事です。金融経済新聞8月29日号も、より詳しく報道していました。静銀が、ブロックチェーンを使った商店街向け買物クーポンの実証実験を9月から行なうそうです。富士吉原商店街の約70店舗が参加します。Sound-F社の電子クーポン・アプリ「NeCoban」を使って、消費者のスマホに値引きや限定サービスを登録・編集するそうです。地域や消費者を巻き込んだブロックチェーンの実証実験は、日本初で、将来はネコバンを使った町おこしを広めるとしています。マネックス・グループも参加して、決済の仕組みなど新しい金融サービスを追求するとのことです。

正直な感想として、地域マネーや地域カードなどは、地域金融機関らしいサービスではあるが、余り使われないし、銀行としても収益にならないことが多い。その点、既存のインフラを利用してクーポンのように一種のCLO(クレジット・リンクト・オファリング)であれば、コストは余りかからないし、商店の事務負担軽減にもなると思います。しかし、どの程度の消費者が利用するか。商店のやる気とアイディア次第という面が強く、銀行がどこまで普及促進に貢献できるか疑問は残ります。むしろ、LINEなどSNSを使った、チャットボットの方が、手軽に消費者と店がコミュニケーションできると思えます。とはいえ、とにかく、やってみることが大切です。

静銀は、もう一つチャレンジを発表しました。ニッキンの8月26日号記事です。中小企業情報サイト「リンカーズ」と業務提携して、大手製造業と中小製造業の技術をマッチングさせるサービスを開始しました。既に、350の取引先を登録し、年内には500社まで拡大するそうです。浜松信金が既に7月から開始して、その説明会には100社が参加したそうです。静銀としては、後追いですが、取引先に役立つサービスだとして、メンツよりも実を取ったのでしょう。この姿勢は、高く評価できます。

リンカーズの特長は、ICTを活用しながらも、人づてネットワークを重視することです。中小企業の公開情報だけでなく、産業コーディネーターや産業支援機関が直接訪問等によって、非公開情報、特に技術力や隠れた実績などを収集します。技術力といっても、具体的な仕様と評価基準がないと、利用可能性を判断できません。目利き力などと言いますが、具体的には何のことか筆者も考えたことがありません。

ある大企業が新商品開発をしているとして、特定の部品をどうしても作れないで協力先を探すとします。公開情報だけでは見つけることができないのが一般的です。公開されているような技術であれば、大手企業は既に入手しています。そこで、産業コーディネーターなど専門家が、技術マッチングを助けてくれる仕組みがリンカーズです。その基盤には、部品製造や技術の詳細なテンプレートが存在するのですが、これも同社の強みです。

わが国には、ニッチだが深い技術を持つ中小企業は豊富にあります。それも全国各地に散在しています。しかし、それを探し出すのは容易でありません。探す方からすれば、最初から、欲しい技術やその使い方を公にできる訳ではありません。登録DBから候補先を絞り込みながら、折衝内容を具体化していきます。最後は信頼関係となりますが、それを仲介するのが産業コ−ディネーター達です。ビジネス・マッチングの展覧会などで名刺交換しても、そこで交換されるのは公開情報だけです。ですから、成約率は極めて低い。すると参加者が減ってしまう。ますます、マッチング率が下がるという悪循環です。リンカーズはこうした失敗を経験して、新しいモデルを作りました。現在、急速に提携先と登録先を増やしています。

地銀など地域金融機関にとって地域創生は最大の経営課題です。中でも、地域経済の再生が重要です。地域経済再生といって、数人の農業家を都会から集めても、その効果は知れています。県内総生産が3兆円だとして、それを2%成長させるには600億円の新規生産が必要です。放置すれば、1、2%下がりますから、それを補完するには更に300億円以上の成長が必要です。ですから、地域コア企業を先導役として外部からの収益を内部で多層的に循環させる必要があります。それを金融機関が促進しなくては、なりません。今は、公開された統計データなどを使ってコア企業を発見し、その周辺企業との連携をはかりながら、県外企業とのビジネス・マッチングを図るのですが、なかなかマッチング率が上がらない。なぜなら、表面的な公開情報だけでマッチングするからです。

こうした問題は、SNSを使ったP2Pコミュニケーションでも同じです。チャットやそれにつけた写真や動画だけでは、真の人間関係はできません。直接対面して、やり取りや表情などの総合的コミュニケーションによって、相手の人柄を理解し、そこに信頼関係ができることで本当のコミュニケーションが成立する。こうしたことを我々は日常の経験から知っています。地域金融機関が、信頼関係醸成の仲介をできれば、地域創生の別のテーマである高齢者支援や女性活躍支援なども可能となる。その時に、テクノロジーやメソドロジーが促進剤として機能するでしょう。

信用金庫業界の標語はFace to Faceです。しかし、頻繁に対面するだけでは、真のコミュニケーションにはなりません。信頼が前提にあり、それを掴む為の知識と価値観や行動力が必要となります。流行りのAIにそれが可能でしょうか?思わずマイクロソフトのTay事件を思い出します。公開情報は、ビッグデータで分析できてAI化できるかもしれませんが、暗黙知をAIで発見できるでしょうか。テクノロジー・ドリブンを否定はしませんが、順番を間違えると、地域創生がますます遠くなってしまうのではないか。逆にいえば、我々が技術革新の恩恵を受けながら、より人間的な生活や生産的な経済活動を実現するためのヒントが、地域創生フィンテックを通じて得られるような気がします。

                             (平成28年9月1日 島田 直貴)