日本郵便がネット決済から撤退


日経新聞の平成28年8月18日付記事です。日本郵便が、平成26年4月に設立したネット決済の日本郵便ファイナンスをGMOインターネット・グループに売却するとのことです。日本郵便ファイナンスの加盟店数が数百店に留まり、黒字化の見通しがたたないことが理由だそうです。業務をGMOグループの決済代行会社に譲渡して、会社は清算、従業員は株主の日本郵便と三井住友信託が引き取ることになっています。

加盟店の増加、即ち、取扱い額が伸びない理由は、アマゾンや楽天の存在です。加盟店としては、わざわざ新しい決済代行会社を追加する理由もないということでしょう。そんなことは判っていた筈です。日本郵便は何を狙っていたのでしょう。同じ構図は、銀行法の改正で、銀行が通販事業に参入する(ネット通販事業者に大口出資) ことにも見えます。

日本郵便ファイナンスに関して平成26年6月24日付当欄でコメントしています。三井住友信託の出資を受けるというニュースに対してのコメントです。「この提携が何を狙っているのか、競合他社に何を意味するのか皆目わかりません。何故、今更、自社でクレジット処理するのか、それを外販するのか、そこに何故、三井住友信託なのか。」と書いています。一見、厳しい見方を述べていますが、実は、この時には、日本郵便ファイナンスの事業方針をある程度、知っていたので、決済代行としてはビジネスにはならないが、物流や通販事業と旨く組み合わせて、地方の地場産業などと特色あるネット通販ビジネスを作れたら良いと考えていました。

同社の事業計画を具体的に知る立場にはありませんでしたが、既にある年商800億円の通販事業は、地方特産物の販売と買物難民と呼ばれる高齢者の生活必需品販売に強みがあり、注文はネットでもハガキでも郵便局窓口でも良く、配達料は無料(購入価格に含む)ということで好評でした。問題は支払で、窓口での注文の場合は、その場で支払いが必要です。ネットだとクレジットでも振込でも良いのは他の通販と同じですが、お年寄りはハガキで注文することが多い。その大半は、窓口での支払に来店してもらうのだそうです。お客に申し訳ないので、来店しないで済む決済手段を提供しようと考えたのがクレジット払いです。折角、その仕組みを作るのであれば、中小通販の他社にも提供しようと思っただけで、他社向け決済代行が戦略の中心ではありませんでした。

要は、通販事業を拡大することが目的でした。それには、加盟店を増やして品揃えを強化することです。加盟店を増やすには、購入してくれる会員を増やすという鶏と卵の関係ですが、その促進剤に支払手段の多様化があったのでしょう。問題は、主要客の高齢者、特に買物難民の高齢者には口コミ等の波及力が弱い。そこは、郵便局の外廻り職員や窓口職員に頑張って欲しいところなのですが、その現場のサポートが弱かったということなのかと推測しています。

ネット事業の顧客を対面で集めるという、何とも、奇妙な戦略となるのですが、新旧のビジネス・スタイルを抱えるとそうなることが多い。それは、IT産業でも同じです。銀行など金融業でも同じで、フィンテックでは各金融機関が市場開拓に苦労しています。そこで、バイ・モダールという概念が出てくるのですが、経営陣も現場も、今、これほど強力な営業部門があるのに、それを使わないとは何事かと言う。それでいて、既存の業務を優先する。時が経つ内に、新規事業はビジネス許容ラインの時間切れとなり兵糧が尽きる。戦略が拡散して投入資源も分散するとこうなります。現場に示す戦略はシンプルでかつ資源を集中投入することが原則です。事業の目的も理念も重要ですが、それは決め手になりません。

こう考えると、銀行にIT事業やEC事業を認めると言われても、成功させることは極めて難しいことが理解できます。これらの事業を銀行の主力事業とするのでなければ、既に成功している企業にぶら下がる方が、可能性ははるかに高い。しかし、決済だけでぶら下がると、機能がコモディティ化しているのでOne of Themとなる。そうではなく、プラットフォームになることが重要です。日本郵便ファイナンスの事業を買うGMOは決済プラットフォームになっているということです。そして、海外大手IT企業がこぞって競い合っているのが、プラットフォーム事業です。これからも多様なプラットフォーム事業が生まれるでしょう。

フィンテックと称して、ブロックチェーンやAPI、ディープラーニングと騒いでも、個別の単発的サービスである限りは、バイ・モダール戦略の実現性は期待できません。米銀などの大きな戦略眼と大規模な資源投入は、わが国金融機関とは二桁レベルで違う。スピードも違う。それを、いかに補うか。銀行にサービス革新を求めるエネルギーが見られない国内市場で時間を浪費するよりも、金融サービスが浸透していない新興国で実践した方が遥かに実現性を高められる。その経験とプラットフォームを適当なタイミングで国内に持ち帰れば良いのではと思います。では、地域金融機関はどうするのか?元金融庁長官が、地銀が共同でアジアの銀行を買うくらいのことがあってもと言っていたのを思い出します。グローバル競争を考えると時間がありません。金利の低い今は進みが遅いですが、一度上がり出したら、その時の金融ビジネスにおける変化スピードは想像を絶するでしょう。

                        (平成28年8月23日 島田 直貴)