住宅ローン事前審査 (複数銀へ同時申込み)


日経新聞の平成28年8月18日付記事です。不動産情報のSUUMOが、住宅ローンの事前審査をネット上で複数の銀行へ同時に申し込むサービスを始めるそうです。従来は異なる申込み用紙に顧客が記入して郵送やFaxしていたのを、SUUMOが統一した書式に一度記入して送信すれば済みます。今回は、3メガとスルガ銀が参加しており、1都3県の不動産会社32社の店頭端末から申込めます。データは暗号化して送信され、結果は利用者のスマホに通知されます。手数料は無料で、ローンの成立した金融機関が、SUUMOに手数料を支払います。現在、清水銀と大垣共立銀などが導入を検討中とのことです。

SUUMOはリクルート系の不動産情報サイトで、全国の物件情報を対象にしています。利用者は物件を捜す前に、ネットで下調べをし、それから不動産会社に現地見学を予約します。希望の物件が見つかると、資金繰りを考えながらローンの可能性をチェックします。不動産会社の店頭で複数の事前審査申込みができて、結果を比較できるのは手間と時間の面でも大変助かります。今は、申込書を記入して、不動産会社が預って、当該銀行に郵送したりFaxします。店頭の営業担当者も随分と楽になりますし、商談がスムーズに流れることも大きなメリットでしょう。

住宅ローンを検討する時には、通常は不動産会社が提携先金融機関のリストを提示しますが、最も紹介手数料の高い銀行か親密な取引関係にある銀行を奨めます。ところが、今の住宅ローンは多様で複雑な優遇レートがあります。それを全て不動産会社の担当者に見せるのは、顧客が嫌がります。銀行の住宅ローン販売では、デベロッパーの囲い込みがもっとも効果的とされてきましたが、今では顧客の銀行取引密度によってレートが大きく変りますので、住宅ローン販売チャネルのパワー構造が大きく変っているそうです。

SUUMOのサービスはある意味でFinTechです。銀行としては、いかに速く、顧客にも自行にも有利な条件を返信するか、その時に、他行は最近どのような条件を提示しているかも重要な情報です。メガは融資可能額や金利、キャンペーンなどをシミュレーションしながら融資判断を自動化することでしょう。信用情報の確認や口座保有者であれば取引状況などと合わせて審査しますが、恐らくルールベースかディープラーニングと自然言語処理AIを使う筈です。手作業で審査して翌日とか翌々日に回答となると、金利で譲歩しない限り勝てません。

銀行が取引先に持つ優位性は情報の非対象性にあるとされますが、ネットサービス化は、その優位性を逆転させつつあるようです。こうした状況が進むと、銀行は迅速性と取引条件で顧客有利に寄せ続けることになります。もっとも、今まで銀行は、他人の情報は欲しがるが、自分の情報は隠しすぎです。ネットサービスが銀行と顧客との間に入ってくると取引関係におけるパワーバランスがどう変わるか、銀行はよくよく考える必要があります。行政は気楽に顧客サービス改善を言うだけですし、供給が需要を上回る限りは、顧客の側に立つ方がパワーを握れることは確実です。

本件サービスは一種のアグリゲーションですが、価格比較サイトなど、既に、定着したサービスが数多く存在します。これまで個人向け取引を中心に展開してきたネット銀も、収益源の多様化を狙って法人取引を強化しだしました。大手流通系ネットバンクであれば、親会社の仕入先等を対象にしますが、住信SBIネット銀などは、新しいモデルにチャレンジしようとします。同行は先日、クラウド会計freeeのシステムとAPI連携して、口座情報や入出金明細をfreee画面上に表示し、他行振込をできるようにすると発表しました。来年の春にはサービスインの予定だそうです。

米国のFinTechでは、決済関連サービスが儲からないことに気付き、最近では保険関係のサービスが増えていますが、口座開設を支援、代行するオンボーディング・サービスとFinTechベンチャーの機能を銀行ブランドで提供するホワイト・レーベルというサービスが急増しているようです。上記の住信SBIのサービスは、freeeが同行にホワイト・レーベルとして機能提供することになります。同行としては、対顧客インタフェースをfreeeに握られますが、顧客利便性を優先したと表明しています。それによる法人取引拡大を選んだということでしょう。伝統的銀行とは顧客基盤が全く異なりますから、それで失うものがありません。次には、freeeから取引先の会計情報を受け取って、法人融資を拡大する筈です。今、EC取引は個人消費の5%未満ですが、遠からず10%を越えて急成長すると予想されています。その時には、加盟店である法人にトランザクション・レンディングを提供する基盤となるかも知れません。

さて、伝統的銀行の側から見ると、SUUMOのサービスは、収益に悪影響を与えるものの、取引先である不動産業者から何らかの対応を求められます。クラウド会計と組むと、果たして融資が拡大できるでしょうか。地銀の取引先は全国178万の会社形態の法人が中心で、個人事業者も多いですが、会計ソフトと税理士を使う規模の法人が多い。クラウド会計を利用するのは、まさに個人零細企業が中心で、その数は7万社強と思われます。多くは信金や信組の取引先で、若い経営者の法人を除けば、今のところ、それほど大きなニーズではない。だからといって、信金・信組が対応策を打ち出さなければ、地銀や都銀がこれを使って、参入してくるかもしれません。

先程、クラウド会計利用法人が7万と書きました。クラウド会計事業者は、それぞれが利用企業数は数十万と言っています。筆者が7万という理由はこういうことです。全国にある中小企業数は432万社、内、会社形態は177万5千社、個人事業は242万6千社というのが中小企業庁の示す数字です。その他は、特殊法人や組合など。今年5月にMM総研が個人事業における会計ソフト利用状況を調査発表しました。会計ソフト利用企業は、個人事業の25.9%、クラウド会計利用企業は2.9%でした。242万x2.9%=7万となります。クラウド会計事業者がいう利用企業数というのは、有料利用社数なのか、ダウンロード数なのか判りません。定義の明確でない数字は裏取りが必要です。FinTechで使われる数字は特に定義が曖昧ですが、メディアはそのまま記事にしています。

                         (平成28年8月18日 島田 直貴)