みずほ銀がEDIの実証実験 (来年事業化を目指す)

日経新聞の平成28年8月11付記事です。企業間の決済において請求書発行、入金確認、売掛金管理等をネットワーク上で管理するシステムを富士通グループ企業数社と実証実験し、来年4月にも一般企業向け有料サービスとして発売するそうです。メガバンクとしては初の試みで、マイナス金利で収益が減少することへの対策でもあると書いてあります。マイナス金利は、いまや、銀行の新施策を紹介する際の枕詞となりましたし、銀行員も取引先への言い訳けでの常套句となっているようです。

実証実験では、まず富士通グループ数社間で月数万件の請求書発行と売掛金の消し込みを自動化するそうです。富士通グループは、こんなことを今でも手作業でやっていたのかと意外です。通常、これほどのグループになると、グループ内はもとより、親密取引先との間で、契約書・発注書、請求書、入金確認、売掛消し込みなどを行っているはずなのですが。金融界は2018年には送金フォーマットの国際標準化と電文のXML化を実施します。それに向けた準備を銀行界も一般企業も開始していますが、富士通はグループ内のEDI化を親密取引先のみずほに頼んだのでしょう。一見、業界の動きに先行する印象ですが、そうでもないことは先に述べたとおりです。

決済に関するデータの様式とコードなど、ビジネスプロトコルを標準化して、事務処理の正確化と自動化することを、EDI(Electronic Data Interchange)と言いますが、それを推進しようとする動きは、30年前からありました。経済産業省や日銀などが熱心に、かつ、執拗に普及を図ってきましたが、それがなかなか進みません。標準化、自動化すれば、請求・売掛金管理業務の20〜80%が省力化できます。それでも進まない理由は何か。銀行が経済界を主導しないからとの意見が多い。確かに、銀行にとって、それを自動化して自行に何のメリットがあるかという面はあります。しかし、銀行に原因があるというよりは、企業側にそれほどのニーズがないことの方が大きい。

企業は既に取引先番号や請求書番号などに、社内標準を取り入れています。それを、今更、変更するのは負担だけが目立つ。消し込み作業を80%省力化できるのは、大企業であって、企業規模が小さくなるほど省力化率は下がります。また、業界や企業間の取引慣習が複雑で細かい。振り込み手数料の負担、返品による支払い金額の変更、中には一括請求に対して部門別の振込みをバラバラの期日や銀行から行うなどなどです。取引先番号・請求番号・請求額などだけでは自動消し込みできないケースがあります。こうして自動化できない業務が20〜80%残れば、一体、何人分の仕事量を減らせるのか?まして、経理が社長の奥さんやパートさんだとして、その人達をクビにできるのか?といった問題があります。大企業のように関連する業務に数十人いれば、省力化効果は期待できます。しかし、大半の企業では経理部門の地位はそれほど高くはない。経理部門の合理化に時間と金を使うなら、こっちのIT化を先に対応せよとなる。こうして、30年以上が過ぎてしまいました。その状況は変わったのかがEDI普及の最大のポイントです。

EDIの概念は30年以上前からあると書きました。今でいうFinTechそのものとお気づきでしょう。それが普及しなかった理由も述べました。外部から閉じてレガシー化した自動化システムと多くの外部企業との連携が大きな課題ですが、それはインターネットを核とする技術で解決されつつあります。筆者も昔からEDIに関する様々な研究会に参加してきました。最近、感じるのは、EDIを業とするIT企業が増えていることです。彼らの多くは、 請求書発行であれば、意外と難しくなく、ニーズはあると言います。ただし、事業が成り立つほどの料金はもらえない。しばらくは赤字を覚悟して、顧客ベース確保に賭けている。電子契約も複雑な取引関係や異例取引に対応できるようになっています。

しかし、そう簡単に普及させられないと思います。データの定義と様式の標準だけが問題ではありません。慣習を含めたビジネス・ルールの集合体であり、ほぼ全ての関係企業が協調しなくては駄目だということです。銀行といえども、そこまで顧客企業に指図できません。今回のみずほの実証実験は、富士通という取引互恵関係にある巨大企業グループ内ですから、それなりにまとめられるでしょうが、取引関係の薄い企業間となると、途端に自動化率が大きく落ちます。仮に30%でも自動化できない業務が残ると、コスト削減は殆ど期待できなくなります。発展途上国やEUであれば、国が指令を出せば済むのですが。自由主義社会での標準化は、ほとほと難しいと思います。

30年前はVANサービスによるコード、様式変換で、この問題をカバーしようとしました。そうすれば、希望する企業だけでも対応できます。しかし、コストと料金が割に合いませんでした。今なら、ハードも回線も安くなりました。何とかなりそうな気もするのですが。

                              (平成28年8月12日 島田 直貴)