フィンテック中間的事業者(金融庁が制度整備)

日経新聞の平成28年7月27日付記事です。金融機関の利用者と銀行との中間で、利用者の代理人としてフィンテック・サービスを提供する事業者を法的に監視する枠組みを作る為に、金融審議会に作業部会を立ち上げる方針とのことです。7月28日の第1回金融制度ワーキング・グループで議論を始めて年内に方向性を打ちだし、来年の通常国会に関連する法律の改正案を提出する予定だそうです。

何とも素早い動きです。ということは、事務当局は既に腹案を持っており、法律改正の対象も特定しているのでしょう。EUでは銀行口座などのアグリゲーション・サービスを提供する事業者で、資金移動を行なう者は免許制、口座情報提供までなら登録制を定めています。金融庁としては、こうした諸外国の動きに遅れないように急いでいるのでしょう。必ずしも、利用者保護の為だけでなく、利用者に安心を提供することで、新規参入を促進できるという側面があります。

現在のサービスでいえば、個人の家計簿サービスや法人のクラウド会計などが、顧客の代理人として、銀行やクレジット会社から口座情報などをアグリゲートしています。その経路を使って利用者が指図する資金移動取引も行ないたいとのニーズもあります。銀行の側からすれば、顧客の代理人とはいえ、それをどのように確認して法的な証拠保全を行なうのか大きな問題となります。

中間的事業者が銀行の代理店であれば、その事業者を管理監督すれば良いのですが、顧客の代理人だとすると、顧客の本人確認と取引意思確認、そして代理人の本人確認と代理人としての資格確認が不可欠です。責任分界もややこしい。そんな面倒なことを言うから、銀行は不便なんだと言う人は、中間的事業者を包括的代理人として法的手続きをとれば良い。このことは銀行の都合というよりは、社会の権利義務を定める基本的ルールに係わることです。それを簡便化するのであれば、国が公的認証制度の一環として、利用者とその代理人の関係も認証すれば良い。利用者、代理人、銀行の三者間契約を都度、都度、行なわずに済みます。こうなるとフィンテックの問題では止まりませんが。

まずは、中間的事業者に信託や証券の一任取引のような業務機能を認めるのか。そうであれば、中間的事業者に求める義務は、信託と同等にするのか。更には、信託にも新規参入する中間的事業者と同様の業務機能を認めるのか。フィンテックが長期的、マクロ的には進めるべき方向だとして、その視点だけで多岐に渡る法制度を変えても大丈夫なのか?金融審議会の議論が楽しみですが、余り時間をかけて議論を尽くす様子はありません。金融審議会には、著名な法律学者(会社法、民法、金融関連業法等の)が参加していますが、それら委員が学会を代表している訳ではありません。役所の担当部署と同じ目線であることが多い。

ところで、銀行は随分と拙い立場に陥ったものだと思います。中間的事業者は顧客の代理人としての立場を活かして、複数の顧客と複数の金融サービス業者、場合によっては通販や公的機関などとのハブ機能を持つことになります。税理士や金融サービス販売業者は、この中間的事業者経由で顧客に販売活動を行なうでしょう。中間的事業者が個別客に提供するポータルには、様々な業者が広告を出し、勧誘します。相続や分散投資、支払管理、税金申告など、個人が複数の金融機関を廻る必要はなくなります。金融審議会が、中間的事業者の業務範囲を厳しく制約するとは思えません。せいぜい、顧客情報保護やセキュリティ、資金移動指図を受けた際の資産保全に関する義務程度でしょう。中間事業者としては、免許事業は免許事業者に任せたままで、免許を必要としない事業を多角化するのが自然の流れです。やがては、免許事業者からは手数料を取るようになる。

銀行は、天動説的な発想で、自らを中心に複数の顧客に対し主導権を握り続けることができると思っていたのでしょう。随分と昔から、銀行、特に地域金融機関には、顧客の代理人となって複数の金融機関との金融取引を仲介することを戦略とすべきだと言い続けてきたのですが、もう遅いようです。せめて、アグリゲータや決済代行業者を銀行の代理店にしたらとも言いましたが、まともに検討する銀行もありません。競争相手になるとは、全く考えていないのでしょう。商品ではなく、顧客インタフェースが勝負のポイントだということを理解していません。商品なんぞは、インタフェースさえ押さえれば、いくらでも仕入れられます。

十数年前に米国でアグリゲーション・サービスが始まりました。米銀は、アグリゲータの潜在的脅威を感じとって、自らがオンライン・アグリゲーションを提供したり、デスクトップ版のアグリゲーション・ソフトを提供しました。顧客は、他人に全財産を見せるのを嫌がって、デスクトップ版にシフトしました。ところが、個人でもクラウドが当り前となって、自分のデータをクラウドに保存するようになると、状況が変りました。多くの人が利用する独立フィナンシャル・プランナーと資産データをオンラインで共有しながら、運用を相談するようになりました。そのFPも今日では、ロボット・アドバイザーに足元を脅かされようとしています。

金融庁が、中間的事業者への規制を制度化したとしても、一挙に金融業界の力関係が変ることはありませんが、ハブ機能を失うことの影響は、徐々に、回復不能な状況に進むことでしょう。欧州銀のように、リテール事業は最小限として、法人取引や市場性取引を強化しなおすのか、銀行経営者の判断が迫れられます。ウチへの影響は何か、どうすれば良いか考えろと企画担当者に指示するような経営者だったら、その担当者には、考え時ということでしょう。金融審議会には、せめて中間的事業者と同等のサービスを銀行にも業務として認めてもらいたいものです。

              (平成28年7月28日 島田 直貴)