インシュアテック (住友生命が健康増進保険)


日経新聞の平成28年7月21日付記事です。住友生命がウェアラブル端末で契約者の歩数など健康増進に関するデータを収集してポイント化し、それに応じた保険料割引や旅行、ホテルなどの特典を付与するプログラムを2018年から開始するそうです。既存の保険商品に特約として付加するようです。ウェアラブルの配布とデータ収集はソフトバンクと提携し、点数化するモデルは先行する南アの保険会社ディスカバリーのノウハウを国内独占で利用します。最高ランクになると、翌年の保険料は2〜3割安くなるそうです。

金融経済新聞の7月18日付記事では、太陽生命の認知症治療保険が、発売4カ月で7万件契約の大ヒット中との記事がありました。病歴があっても契約できる選択緩和型なので、認知症への不安の高まる60代を中心に関心が高いとのことです。認知症が発生して180日間、症状が継続すると一時金が支払われます。こちらは、ITを利用した商品ではないので、インシュアテックとは言えませんが、やはりウェアラブルを利用したデータ収集で見守りサービスなどと組み合わせると、もっとヒットする筈だと思います。

わが国でも銀行業務よりは損保を含めて保険の方がフィンテックの適用分野があるのではないかとの意見が多かったのですが、ようやく、インシュアテックが始動しだしたようです。米欧では、インシュアテックの関心が高まっており、昨年のインシュアテック向け投資はフィンテック全体の18.6%、27億ドルと急成長しています。(CB Insights) フィンテック全体の投資額ランクでは、1位OSCAR、2位Clover、3位bright healthと上位3社はインシュアテックだったそうです。

保険会社がインシュアテックとして考えるサービスは、Personalized Insurance、P2P Insuranceだそうで、個人向けのカストマイズ商品サービスが中心となります。具体的には、自分で設計するSelf Direct、従量制のUsage Based Insurance、生体情報等を収集するRemote Access & Data Capture、コネクテッド・カー、ロボ・アドバイスなどが考えられています。(PWC調査)

こうしたサービスは、個人の生活行動における素データを収集して、リスク・モデルに応じたプライシングが柱となります。保険は顧客の基本属性や事故履歴と保険会社が収集したインシデント情報でリスク・モデルを作ってプライシングするという従来の保険ビジネスモデルを破壊する可能性が高いと思われています。決済や融資などと同様に、より源流に近いデータを握る方が、数段有利というのが理由です。この流れは、10年以上前から進んでおり、保険会社もマイクロセグメントしたリスク・モデルで対応してきましたが、今やITを使った個別モデルとなりつつあります。

ただ、この考えだけだと、保険業界としては保険料収入が減るだけの単なる価格競争になる可能性が高い。もっと、人々や企業が保険に入る目的そのものを支援することが重要ではないかと思うのですが。例えば、太陽生命の認知症治療保険に関して、見守りサービスと組みあわせたらと前述しましたが、もっと、積極的に見守りサービスを有料で提供することができないか。Peppersで脳を活性化させるゲームを提供するくらいであれば、モバイルやウェアラブルでゲームや人(特に孫や友人、ケアマネジャーなど)とのコミュニケーションを頻繁化したり、異常行動を察知して家族や病院などに連絡するサービス、予防のためのプログラム・ガイドなどは誰でも思い浮かぶでしょう。

認知障害がある程度進んでも、乳幼児や犬、猫などと接触する際に突然、正常化することは良く知られています。また、老人は、話を聞いてもらうことを何よりも好みますし、それが予防や進行を遅らせる効果も確認されています。認知症高齢者から何回も同じ話を聞かされるのは、家族にとっては苦痛ですが、AI内蔵のロボットであれば、何百回でも聞きながら、好意的な反応を示すことができます。人型ロボットを使うとしても、手に触れた際に乳幼児や犬猫の感触に似せることも簡単だと思います。

保険会社などでインシュアテックを検討している人達と話すことがあります。残念ながら自分が認知症患者のケアを長期間経験したり、研究している人と会ったことがありません。皆さん、自分の頭だけで考えている。または、どこかに良い成功事例がないかと聞いて廻る。そんな都合の良いアイディアがそこらに転がっている筈はないのですが。米国のインシュアテック・ベンチャーは保険業界経験者も多いそうですが、むしろ、保険対象リスクを直接、経験した人達が中心だそうです。保険会社は、もっとエンドユーザーとの共同研究開発を進めるべきだと思います。

保険というとリスクが顕在化した時に資金を提供することで、負担を和らげる機能が中心でしたが、リスクを予防回避し、発生した際には負担を軽減するサービスを提供することに、範囲を広げることが重要だと思います。つまり、保険料を算出する為のリスク・モデルよりも、リスク回避・軽減・解消を支援するノウハウ(自社内外)をコア機能とすることです。その為にITがどのように使えるか、ベンチャーが思いつきで創る新サービスよりも、もっと役立つ商品・サービスが創れないか。それが実現すれば、貯蓄至上の個人金融資産が、成長分野に廻されることになります。必要であれば、保険業法を改正すれば良いだけのことです。

                                   (平成28年7月22日 島田 直貴)