ブロックチェーンと仮想通貨


ブロックチェーン(BC)への関心が高まっています。単なる分散台帳技術というよりは、新しいシステム・アーキテクチャとしての期待があるようです。日経コンピュータの2016.7.7号が特集を組んでいます。良くまとめた記事だと思います。ただ、止まらない、セキュリティが万全、コストが安いというイメージばかりが先行することに不安があります。著名な学者や経営者が、これからはBCの時代だと言うのを聞くたびに、この人は本当に判って言っているのかと心配になります。万能万全の技術がある筈はなく、約束事の集まりですから、必ず弱点はあります。

それでも、BCに対する期待は大きく、IBMやマイクロソフトなどがオープンソース・コンソーシアムを設立して機能改善・拡充や標準における指導的立場を確保しようとしています。その点で、日本のベンダーは、動きが鈍い。実証実験をしたい金融機関は多いのですが、どこも技術者を確保できずに、前に進めません。BC業者からすれば、大きな営業機会なのですが、フィンテックがらみの実証実験ですので、金融機関が大きな予算を出すことはありません。勉強という先行投資ばかりでは会社がもちませんから、ビットコイン(BTC)など仮想通貨取引を再強化しようかとなります。

ところが、そのBTC取引は意外と儲からない。日本にある大手6社のBTC取引所で黒字なのは2社だけということです。2社ともに単純なBTC取引を行なうだけで余計なことは一切しない。月当たりの取扱い額は40億とか100億円程度です。社員数も売買手数料も他社とほぼ同じ。ユーザー数はむしろ少なめで1万とか2万人程度です。黒字になるポイントは、信用取引と徹底した低コスト化なのでしょう。

金融経済新聞6月27日号にJトラストがBTC取引に参入との記事がありました。同社はBTC取引所のBTCボックスに出資していますが、自らが100%出資のJトラストフィンテックを新設しました。資本金は1億5千万円。既存の取引所に比べて特段大きな資本ではありません。ちなみに最大手のbitFlyerは40億円弱で、会員数も15万とずば抜けて大きい。それに対して、Jトラストは、金融コングロマリットで、韓国やインドネシアなどにも銀行を含めた金融事業を展開している。そのブランド、資金力、拠点、金融ノウハウを活用できます。BTC取引ビジネスだけでは、そうは機能差別化できませんから、まずはマネロン対策やセキュリティなど安心と健全性を前面に出しています。

同紙7月4日号には、Jトラストフィンテックの福寄社長インタビュー記事が載っていました。6月20日に事業を開始し、来年3月までには単月黒字にする。その為に、月当たり取引額を300億円程度にすると言っています。将来的には、決済や送金などの事業を想定しているとのこと。確かに取引所だけでは、コモディティ化しますし、価格競争に巻き込まれます。そこで、決済、送金、更には資産運用などに事業分野を広げるのでしょう。

仮想通貨といえば、6月10日の朝日新聞が、MUFGが来年秋に仮想通貨MUFGコインを発行すると大きく報道しました。一般向けに1コイン=1円で、スマホアプリなどでも使え、利用者間の送金もできる。割り勘などにも使える。外貨で引き出せるし、ATMから円で引き出せるようにATMの開発を進めているなどの内容でした。(円を引きだすだけなのに、どうしてATM開発が必要なのか理解できませんが?)丁度、この日、ある研究会がありMUFGからも参加していました。他のメンバーがこの記事について質問する前に、MUFG社員が本件については何も言えませんと宣言したので、一同大笑いとなりました。別ルートからの話では、具体的な検討をしている訳ではなく、どうして朝日の記事になったのかと行内は大騒ぎだったようです。内容からすれば、とても素人が作ったストーリーではなく、どこかの銀行で仮想通貨事業を検討している人間がニュースソースだと思うのが自然ですが。

その三菱東京UFJ銀が、世界最大の仮想通貨取引所コインベースと資本提携して、仮想通貨による海外送金の仕組みを開発するとのニュースを7月8日付日経新聞が1面トップで報じていました。MUFG本体による当件に関するリリースはありません。同日付のウォール・ストリート・ジャーナルがMUFGの柏木部長やコインベースのエアサム創業者への取材記事を報道しています。コインベースは1050万ドルの資金調達を予定しており、BTMUとMUキャピタルがそれに資金を出すことは確かなようです。柏木氏は、今の段階で具体的な計画はないが、パブリック型BCの強化戦略の一環だと述べています。BTMUのようなグローバル・バンクだと海外送金から始めて事業インフラを確保した上で、決済やその他業務に拡大していくのでしょう。Jトラストとアプローチが真逆なのが面白い。

6月27日に開催された日経FinTech Conferenceの3メガ代表によるパネルで、3行はBCに関する技術開発や仕様策定で協力すると意見を一致させました。しかし、それは他行と全ての歩調を合わせることを意味しません。当然、各行の方針、体力、戦略でスピードとアイディアを競うことになります。みずほはIBMとBCを使った仮想通貨の実証実験をすると発表したばかりですし、三井住友も先日、調査研究や外部と協業して実証実験を行なうと発表しています。意思決定の規模やスピードに大分、差が見えてきました。

金融審議会の決済高度化WGで、一時、全銀ネットの株式会社化がテーマの一つになりました。2010年に東京銀行協会から組織分離して、一般社団法人全国銀行協会傘下の一般社団法人となっています。意思決定機能は母体の銀行協会にあり、まさに国連同様で大小格差が余りに大きい。地域性も極端に異なり、意思決定が時代についていけない。そこで、独立した株式会社化したらどうだとなったのでしょう。BCを使った海外送金では、SWIFTが全銀ネットと同じ立場です。事務局はヤキモキしていることでしょう。

韓国の国民銀行が6月にアジア8カ国相手の海外送金サービスをBCで始めました。自力開発です。新韓銀行も外為送金サービスをBCで開発しています。こちらも自力開発です。決定して数カ月で動かしてしまう。それだけのガバナンスと開発力を持っています。日本の銀行も、業界全体の都合を考えていたのでは、とても国際競争に残れません。もう一つの課題は、やはり開発力です。ベンチャーでは本格的業務システム構築は、規模と技術で無理です。大手ITベンダーではスピードとコストで、とても無理。自行内に開発力はない。海外ベンダーに丸投げするのでしょうか。そう割り切るしかないようです。これからの金融機関システム部員には、英語力が必須となるでしょう。

                           (平成28年7月8日 島田 直貴)