SWIFTとブロックチェーン

ニッキンの平成28年6月3日号にSWIFTアジア太平洋地域・決済部長のインタビュー記事が載っていました。「SWIFTは国際決済の刷新を進めており、現在、パイロット実験中である。来年の早い段階で本格展開を開始する。新サービスの内容としてはコルレス銀行間の資金即日利用、銀行間手数料の透明化、貿易決済の機能強化などである。これら新サービスは、既存のシステム基盤を活用しながら新たな技術を取り込んでいく。その代表例がブロックチェーンで、アクセンチュアとの共同研究を通じて技術的可能性と課題を確認した。顧客である金融機関や企業に対し、ブロックチェーンのプラットフォーム提供を計画している。」と表明しています。

SWIFTは、国際送金のメッセージ交換サービスですから、ブロックチェーンで簡単に置き換えられる筈だと考える人が多い。最近、SWIFT決済ネットワークがハッキングされ、巨額の被害を受けるケースが続いています。代表的な事件が今年2月のバングラディシュ銀行事件です。同行のNY連銀口座から81百万ドルがフィリッピンに不正送金されてしまった。他にも12行前後の被害が出ているとみられています。

SWIFTには銀行、証券など1万1千社と約3千の一般事業会社が加入しています。1日平均で2500万件のメッセージが飛び交っていますので、その弱い箇所を狙われたら、防ぎようがありません。従来は、暗号化等でネットワークを守ってきましたが、これだけ参加機関数が増えると、クライアント端末や接続ソフトに脆弱性を持つ参加者も増えます。犯罪者は、こうした事情に詳しい人間を仲間にすれば良いだけです。そうなると、懸命にガードしてきた参加者は怒りをSWIFTに向けます。もっと、セキュリティとコンプライアンスを改善しろと言います。中には、ブロックチェーンならセキュリティが格段に改善できると主張する人もいるようです。R3の実証実験を受けて、グローバル・バンク達が第二SWIFTを立ち上げるのではないかとの観測も出てきます。

SWIFTの5カ年計画「SWIFT2020」の柱は、@コアAマーケットインフラ(MI)Bコンプライアンスとしています。コアとは、主要サービスである資金メッセージ、証券メッセージなどの機能拡充です。MIとは、オーストラリアのリアルタイム・リテール・ペイメント「NPP」のシステム構築受託のように、各国の決済システム構築を事業とするものです。コンプライアンスはアンチマネロンを含めた各種コンプラ機能をサービスとして提供します。欧米主導で設立されたSWIFTはアジア・シフトを進めていますが、新興国のMIやコンプラを新規事業機会にしたいのでしょう。

SWIFTは1973年に設立されました。1980年前後には日本の地方銀行でも直接接続するケースが増えて、海外事業や決済業務に強い一部ITベンダーには結構なビジネスとなりました。筆者が、ブリュッセルのSWIFT本部を始めて訪問したのは1984年でしたが、何とも羨ましいビジネス・モデルだと感心したものです。世界の大手銀行を会員として彼等に業務ニーズを提示させ、それをオリベッティが開発受託する。それを承認された長期的計画に基づいてやるのですから、営業活動は要らない、業務仕様は世界トップクラスの専門家が作ってくれる、稼動時期は余り気にしなくて良い、セキュリティとシステム安定性を第一とすれば良かったのです。

2005年頃でしたか、SWIFT日本支部の幹部から相談を受けました。日本では金融機関の数が減る一方で、取引件数も伸びない。このままでは経営が成り立たない。一般事業会社向けの事業拡大をしたいが、良い方法がないだろうかということでした。日本はいざ知らず、幸いにもアジアが大きなマーケットとなり、SWIFTは大きく息をつけました。2012年には大阪でSibosが開かれ6200名が集まったそうです。昨年はシンガポールで8200名の参加者、内訳は北米13%、EMEA44%、APAC43%です。それだけ、SWIFTは市場の変化に対応してきたということでしょう。40年前のままだったら、消滅していたかもしれません。

そのSWIFTが今、抱える課題がブロックチェーンなど新技術による新規参入の脅威かも知れません。ブロックチェーンを自ら活用してコストと料金を下げたとしてもさしたる事業拡大にはならないでしょう。むしろ、リテール決済など新分野に進出する方が発展性に勝る。ところが、日本を除く先進国の殆どは、既にリアルタイム・リテール・ペイメントの構築に着手している。そこで、新興国がSWIFTの対象となるが、果たして採算性はどうか。かつての金融機関とITベンダーのコンソーシアムという性格は、決済ITベンダーに変わりました。SWIFTがITベンダーと競合して勝ち残れるのか。業務に詳しく、業務標準を創る立場といっても、その範囲は限られます。

問題は、ブロックチェーンを担ぐ新規参入者がSWIFTを置き換える可能性があるかということです。それは単発の商品での技術革新とは違って難しいと言えるでしょう。ブロックチェーンは要素技術の一つに過ぎません。周辺の技術で何が必要かも整理されていません。整理できたとして全て揃えるには時間とコストがかかります。そして技術的にシステムができあがったとしても、ビジネスとして円滑に廻す為には、ビジネスプロトコルや業務プロセス、参加者間の役割分担ルール等々、そして関係する人達の研修など総合的な仕組みが不可欠です。

その構築にSWIFTは40年以上を費やしてきました。それでも、高いとか、遅いとか、危ないとか文句を言われ続けます。いっそ、独占でなくオープンな競争環境の方が、SWIFTにとっても事業戦略を立て易いかもしれません。このことは、全銀システム、日銀システムなどでも言えることです。FinTechで既存の金融サービスをまるまる置き換えることがいかに難しいか。その点、わが国では金融機関とFinTechベンチャーが緩い提携関係を築きつつあります。スピードは落ちるかも知れませんが、現実的な動きだと思います。

                              (平成28年6月8日 島田 直貴)