マイナンバー・カードをスマホで代替 (総務省が実証実験)

日経新聞、平成28年5月18日付記事です。総務省は、マイナンバー本人確認をスマホでできるようにするそうです。マイナンバー・カードの情報をスマホにダウンロードしておき、読取機にかざすと本人確認できる。例えば複数のクレジットカード認証情報をスマホに入れておけば、カードを何枚も持ち歩かずに済む。スマホをなくした時は、キャリアに通知して通信を止めれば良い、何件ものカード発行会社に連絡しなくて済む。病院で必要な健康保険の確認もスマホでできるようにする。こうした実証実験を今年の夏から始めて、2018年度に関連する法律を改正、2019年から実用化を目指すということです。

このニュースは総務省が公式にリリースしたものではないようです。同省のHPにもありません。他紙も一切、報道していません。同じグループの日経BP社ですら触れていません。ただ、マイナンバ−・カードをスマホに置き換えること自体は、以前から考えられていることですし、今回はチップカードを廃止するとは言っておらず、いくつかのメニューをスマホで使えるようにするだけですから、総務省の一職員がつぶやいたとしても問題にはならないでしょう。というか、こうした案に、世論がどう反応するかと観測する為の記事と考えたらよいかもしれません。

もともと、政府はマイナンバー・カードのチップで余裕のある記憶域にキャッシュカード、クレジットカード、健康保険などの本人認証機能を載せて、各カードの替わりに使って欲しいと言ってきました。一年くらい前までは、大手銀行でも一部のキャッシュカードでも良いから、マイナンバー・カードに載せられたら、カードの発行や紛失・破損などへの対応費用を節約できると考えていました。ところが、最近は、こうした案を支持する声が銀行員から消えています。

クレジットカードでは、2年とか3年でカードの更新があります。高いチップカードを書留で送ってきます。受け取る方も、日中は不在ですから、休日に郵便局に取りに行くのは面倒なものです。利用上限額などの変更があるので、更新するのだと思っていました。カード会社の方に、マイナンバー・カードに置き換えたら、カード発行関連費用が抑えられますねと聞きますと、「確かにカードの真贋判定と本人確認は、マイナンバー・カードで行なえる。問題は、それ以外の機能が使えなくなることで当社の独自性がなくなる。もう一つは、チップの中に、カードの真正性を確認する機能もあり、このセキュリティ機能は犯罪集団といたちごっこをやっている。マイナンバー・カードでは成人の場合、有効期限は10年です。その間に、犯罪集団の技術が上がってカード・セキュリティを破られる危険性が高まる。だから、我々は2年程度でカード更新をしてセキュリティのバージョンアップをしているのです。」と答えてきます。

「それなら、スマホをカード代りにして、セキュリティ関連ソフトをダウンロードするようにすれば、常に最新のセキュリティ対策が可能だし、独自サービスも提供できる。カードや銀行など各社がそうすれば良いでしょう。米国でも複数カードを1枚のチップカードに統合するサービスがありますが、それが普及する前に、スマホが出てきて、今はスマホに集約できないかという流れですよね。」と聞きますと、「そうです。1台のスマホにいろいろなカード機能を載せれば便利なことは確かです。紛失したり壊れたりした時が問題ですが、それでも便利さが上回るでしょう。でも、今すぐという訳にはいかず、しばらくは実証実験を繰り返すことになります。」という回答です。

スマホによるオンライン化は、紛失や故障に備えたサービスが新しいビジネスになりそうですし、カード発行を受託する大手印刷会社などもチップカードをスマホに置き換えることを想定して、技術検証やビジネスモデルの検討に余念がありません。その内容に、とても関心があるのですが、どの社も全く教えてくれません。それにしても、印刷会社は銀行より口が固い。役所との付き合いが長くて広いからでしょうか。

金融庁や警察庁などは、現在のキャッシュカードの大半が磁気ストライプで数字4桁の暗証番号であることを非常に危険視しています。できるだけ早く、本人認証データのチップ化と生体認証化したいと思っています。一時は期限を定めて、旧式カードの無効化を図る案がありましたが、マイナンバー制度で、たかが1億2千万人弱相手に通知カードを送ることすら、トラブっている国自身を考えると、とても民間企業に強制できないと思い直したようです。最近は、この案に関する発言を全く聞かなくなりました。しかし、何か、社会的問題になるようなインシデントが起きると、またまた、風向きが変わるかもしれません。

キャッシュカードの80%が磁気ストライプ、残り20%のICカードも殆どが数字4桁の暗証番号、それが12億枚も使われている。このレガシーから抜け出すには、どうしたら良いでしょう。総務省のように、マイナンバー制度や通信業界を所管するお役所が一部の有識者からの意見を採用してトップダウンで、改善を積み重ねるのか。金融業界としては、マイナンバー・カードとのすみ分けをどうするのか、そして新しい本人認証の仕組み全体をどう設計するのか。スマホは有力な道具となります。フィンテック・ベンチャーの新サービス案には、マイナンバー制度を利用するものがありません。それは何故なのでしょう。こうした問題こそ、オープンイノベーションの良きテーマになりそうなのですが。

                          (平成28年5月19日 島田 直貴)