ブロックチェーンを巡る動きと住信SBIネット銀の実証実験


平成28年4月28日に経済産業省がブロックチェーン(BC)に関する調査報告を公表しました。BCといえば、ビットコインに代表される仮想通貨取引に使われる技術としてのイメージが強く、少し勉強した人であれば、P2Pネットワークを使った安全確実な分散台帳という見方をします。経産省のレポートは、その技術的特長だけでなく、有望と思われる適用分野や社会に与えるインパクトを産業界全体の視点からまとめ、必要な政策対応を提言しています。是非、同省サイトでご確認願います。

新聞等ではBCによる新市場は67兆円という数字だけが走りましたが、これは各種の調査予測資料や文献から集めた数字を集計しただけで余り意味はありません。同省は何でも新市場規模の予想値を兆円単位で発表するのが好きなだけと思えば良いでしょう。一度も、彼らの予想数値が実際にはどうなったか検証して公表したことがありません。今回は、社会変革をもたらす分野を5つに分けて、市場規模の予想値を明示していますが、金融やその周辺である権利証明行為への適用などでは、それぞれ1兆円程度とウェイトが低く、むしろサプライチェーンへの適用やIoTなどプロセスや取引の自動化が50兆円以上になるといっています。

多分そうなのでしょうが、BCは金融庁ではなく経産省が扱うべき技術分野だと言いたいのかと勘繰ってしまいます。とかく、国が金を出すと、創造性も変化対応力も失せてしまうので、BCベンチャーは注意が必要です。筆者もFinTechベンチャーの人達と頻繁に会話しますが、やたらと省庁名や大学名を出すベンチャーは、信頼しないことにしています。

金融行政の幹部やOB、著名な金融学者などの講演をしばしば聴講します。その後の懇親会で意見交換することもあります。皆さん、必ずFinTechに触れて、これからの流れだとし、AIやBCは凄いインパクトを与えると主張します。「AIと称される深層学習はニューラル理論で作られており、結論に至る経緯の論理建的透明性はないのですが。」と言うと、何のことかという反応です。「銀行の預金や送金処理は、処理応答時間が1秒以下を要求され、証券取引では1千分の一秒を争うのだが、代表的BCだと10分間も取引確定に待たされるのですが。」と追い討ちをかけると、こいつはIT屋の癖に、何故、ITに否定的なことばかり言うのかという顔になります。こちらとしては、こうして世の中が妙に誘導され、煽った人達は後日、知らん顔するのだろうなと心配の種を増やします。それはメディア記者も同じです。こちらが、余程注意しないといけません。

金融機関の基幹系システムに関心のある人だと、今までの技術だと200億円かかる銀行勘定系システム構築費がBCで作ると一桁は減らせるのではないか、BCで勘定系を作れないかという話になります。検討すべきことは多方面に渡りますが、汎用機をオープン系技術に換えるよりは、数段革新的なアプローチなので筆者も関心はあります。そこで、「預貸金・為替の取引記録管理だけなら簡単にできるでしょう。一桁とは言わずに二桁下げられるかも知れません。ただ、銀行勘定系は、勘定系というネーミングが皆さんに大きな勘違いをさせており、勘定処理は全体のごくごく一部の数%です。コンプライアンスを始めとした社内事務規定のロジックが山のように入っており、例外処理を含めて処理手順は複雑に入り組んでおり、それは、BCによる分散台帳の対象外です。BCと従来の手法を組み合わせることになり、BCで置き換えられる箇所はごく一部ですが、大半を占める従来手法の箇所にはBCとの連携機能を加える必要が出てきて、最終的には割高になるでしょう。それをブレイクするには、BCのより一層の機能改善とプロセス管理、ビジネス・ルール管理との連動処理を可能とするアーキテクチャが必要となります。」と応えています。皆さん、つまらないという反応ですが、事実は事実なので仕方ありません。

4月18日付日経新聞に、住信SBIネット銀行が勘定系システムへのBC適用実証実験に成功したと小さな記事が出ていました。気になっていたのですが、詳細な情報を集めずにいたところ、週刊金融財政事情5月2−9日号に同行が実験結果を寄稿していました。かなり詳細かつ率直な寄稿です。銀行らしくありません。同行は先駆けてオープンイノべーションを進めているのだと感心しました。

共同研究したのはNRIですが、AWSを使って6台のノードに振込、入金、出金、残高照会、入出金明細のアプリを乗せて、250万口座で処理してみたそうです。取引を確定するブロック作成インターバルは10分では話にならないので、15秒にしたそうです。(それでも、余りに遅すぎるのですが)再現性には全く問題なく、更に、取引件数ピーク対応を確認するために夜間バッチ業務9万件も処理したそうです。1時間という基準を軽々クリアしたとのこと。(これも、一般銀行より桁違いに取引件数が少ないことに注意)プログラム改ざん防止検証も外部からの攻撃、内部犯行ともに確認したそうですが、過半数以上のノードに対し15秒以内で改ざんすることは全く無理でサイバー攻撃への耐久性は十分だと確認できたそうです。検証コストは公表していませんが、高くても数千万円でしょう。それを4ヶ月で実施しています。それだけでBCの威力がわかります。

今回の検証結果を踏まえて、勘定系の一部、元帳管理などでコスト削減が可能であることを確認できたが、口座開設や残高照会など周辺業務や他の部分でコストを押し上げることになり、その打開にはBCの技術的改善や周辺業務の見直しが必要だと結論づけています。全く妥当な説明であり、同行のチャレンジと情報共有の姿勢は誉められるべきです。また、DR/BCPの低コスト化には有効な技術だと提唱しています。国は民間銀行にDR/BCPコストを一方的に押し付けるのではなく、たまには自分の技能と費用で社会的重要インフラのDR/BCPシステムを作り、それにブロックチェーンを使ったらどうかと思います。または、マイナス金利の詫びとして作ってと銀行界が日銀に頼むのも良いか。

                                  (平成28年5月6日 島田 直貴)