日独政府がIoT共通規格で覚書締結の方針 (安倍首相が表明)


日経新聞の平成28年4月13日付記事です。12日の官民対話で首相は、IoT、人口知能、ビッグデータ等に関連して、政府としての方針を説明したそうです。その中で、製造業におけるIoTの共通規格をドイツと組んで作成し、国際標準化を目指すと表明しました。その他にも人工知能戦略会議を創設し、国としてAI研究を一本化しつつ投資額を3倍の3千億円(但し、資金は企業が拠出)にするとしています。ビッグデータでは、匿名化した医療情報を新薬開発などに利用できるように医療番号を使った新制度を創設するとも発言したそうです。

日経記事は、IoTに関するドイツとの連携を見出しにしました。一番重要だとの判断なのでしょう。記事に出てくる内容は、どれも製造業に関係したことばかりでした。IoTは製造業向けのものという考え方が強いのは、少々どころか大分遅れているという感じです。

IoT規格の国際標準化に向けては、既に、ドイツのI4.0と米国のIIC(Industrial Internet Consortium)が協力すると発表しています。I4.0の中心的企業であるSAP社とボッシュ社がGEの主導する米IICにも参加し、両者の仲を取り持ったとされています。IICには日本の企業も参加していますし、米独協力の発表に際には、I4.0事務局長が日本にも参加して欲しいと言明しています。今更、日本政府が新施策として公表する程のことではありませんし、さっさと標準化作業に参加したらというのが感想です。もっとも、昔から日本人は国際標準には参加することに意義があり、発言したり貢献することは稀だという説が国際標準化していますので、首相の参加表明だけで十分なのかも知れません。

筆者は製造業のIoTも良いが、日本経済の過半を占めるサービス業のIoT化がもっと重要だと思っています。それには運輸・物流・小売も含むのですが、医療・ヘルスケア・スポーツ、観光など範囲が極めて広範です。それぞれに金融サービスを盛り込むことが可能ですが、金融が主体になる分野は限られます。その結果、金融業は経済や社会の情報流の中に入れずに、傍聴人の立場か、良くても賛助会員の立場となります。それは、あらゆるビジネス活動で受け身になることであり、御用聞き商売に陥ることを意味します。では、どうするかです。

損保会社の大手が相次いで、IoTを活用した新商品開発の専門部署を創設しています。センサーで火災や水漏れ防止を図って保険料を割り引くとか自動車運転の様子を保険料に反映するとかです。意味がないとは言いませんが、いかにも単純で浅い。生保では、生体情報を収集して保険料に反映するアイディアが知られていますが、そのデータを蓄積して分析結果をフィードバックする米国企業があるそうです。日本の生保も利用したいのですが、使うクラウドはAWSだけだそうで、顧客の超機密情報をパブリック・クラウドに預けるのは、余りに壁が高い。プライベートクラウド化したいと考えると、コストが上がり過ぎて話にならずに、話は止まってしまう。

先日、新日鉄住金ソリューションズ社から新日鉄のIoTの話を聞かせてもらいました。IoHという使い方があるそうです。Hは人間です。高炉の作業員にリフトバンドを装着させて脈拍や血圧などのデータを常時監視するのだそうです。異常を検知したら、作業を中止させて休息を取らせる。何故、こんな使い方をするのか。鉄工所で重大な事故を起こすのは、新人よりもベテランが多いのだそうです。慣れからくる油断もあるのでしょうが、高熱等、厳しい作業現場ですので高齢者の方が体調を崩すことが多いのだそうです。そこで、まずは、仲間を守ることにIoTを使うことにしたと言います。まさに技術を利用する原点だと思いました。

4月5日付の日経に、警備保障のALSOKが徘徊老人の居場所を見つける発信端末を開発したという記事がありました。3 x 5.6 x 1.1センチ、14グラム、ボタン電池で1年以上、BLEで半径50〜100メートル範囲に電波を発信する。GPSを使わずに、協力者達にスマホアプリを入れてもらい、その電波を検知してALSOKに自動送信するのです。装置は杖や衣服に取り付けておけば良い。GPS端末だと1台2万円以上、月1千円以上するが、この方式だと1台2千円、月2〜300円で済むそうです。筆者に徘徊老人介護の経験はありませんが、友人たちから苦労話を何度も聞きました。悲惨というか、地獄というか。ALSOKの方式が本番化したら、自分もアプリをダウンロードしようと思いますが、自治会や学校でやっても良いでしょう。まさにエコシステムです。何も老人に限る必要はなく、子供やペットにも適用できる。場合によっては、入館証的な使い方もできるでしょう。

何が言いたいかと言うと、IoTというと、すぐに生産効率や機械設備の稼働率などといった無機質な世界をイメージしますが、もっと、人間的な使い方もあるということです。それが結果的に、効率や生産性に結びつく。金融機関はこうしたエコシステムの構築を主導すれば良い。特に地域金融機関は、地元で喜ばれることでしょう。それは金融機関の仕事ではないなどと言うのは、銀行法だけで生きることを意味します。銀行の事業目的ではありません。事業遂行上のルールに過ぎません。IoTを使って新商品をなどと思いこむと、発想が限られると思うのです。

                               (平成28年4月14日 島田 直貴)