FinTech2.0企業が銀行設立 (ドイツで免許取得)

金融経済新聞の平成28年4月4日号記事の中にあった記述です。独FinTech企業のsoralisBankがフルサービスの銀行免許を取得したとのことです。これまで、成功したFinTech企業は銀行と提携するか、銀行に買収されるかだったが、自らがFinTechサービス中心にフルバンキングを提供するステージになったということです。銀行名はbanking-as-a-platform(略称BaaP)というそうです。

いかにもIT企業らしい銀行名ですが、クラウド・バンキングという意味もあるのでしょう。日本でもありえるのでしょうか?今のところ、わが国FinTech企業は、銀行を破壊対象とも置き換え対象とも考えておらず、資本提供者であり顧客紹介者だという位置づけです。むしろ、勘定系丸投げの受け皿になっている大手IT企業の方が、銀行を設立する合理性があるし、行政が認可する可能性も高いでしょう。何といっても銀行よりも銀行業務に精通しているのですから。(これを言うと、銀行経営者はいつも嫌な顔をします。)

銀行の企画の人達とFinTech談義をしていると、スマホ・アプリ中心の今のFinTechサービスに対してとても懐疑的な意見が圧倒的です。利用者はそれ程いない、ごく一部の機能なのでお客にも銀行にもメリットがない、先端技術といっても特段のものは見られない・・・などが理由です。でも、経営陣が不安がるので、取りあえず他行がやる程度のこと、情報収集、共同研究への参加、FinTech企業との提携、担当部署の設置などをやっているが、なかなか本気にはなれない様子です。

確かに40年ほど前、米銀大手は、大手流通業が最大の競争相手だと触れまわりました。次は大手IT企業でした、そして少し前はGoogleやAmazonなどネット企業が最大の敵だなどと言いましたが、そんな事態は発生していません。今回もJPモルガン・チェースのダイモンCEOがFinTechで銀行が破壊されるような発言をしましたが、それを真に受ける銀行員は殆どいない。マスコミだけがダイモン発言やアクセンチュアのFinTech投資1.4兆円なる枕言葉を繰り返しているだけと思っています。

海外を含めて銀行を置き換える代替者が出てこない理由は何なのでしょう。@銀行が、評判が悪かろうが何だろうが、要はしっかりとやっている。A新規参入者にとってそれほど魅力的な産業ではないということ。Bそれとも確立した顧客基盤と専門知識・情報は、先端ITを使っても簡単には代替できないということなのか。今の日本は、この三つともに当てはまると思います。ドイツやイギリスは、日本とは大分違います。イギリスでもFinTech企業の銀行参入は増えているそうです。英、独ともに寡占化して傲慢な大手銀行と地域密着型の零細金融機関に二極分化しています。日本のように多様な業態が浄化槽のように出来あがって社会構成と一体化している産業構造とは異なる点に留意が必要です。要は、金融サービスに隙間が多く、新規参入者を受け入れる余地があるか否かということか。

最近、FinTech2.0なる表現がしばしば出てきます。サンタンデール銀やドイツ銀行が昨年から積極的に提唱しています。金融サービスをアンバンドリングしてニッチ分野にニューテクを使ってUI/UXを改善したサービスを提供することをFinTech1.0と定義しています。それよりもビジネスモデルや価値連鎖を大幅に変えるためのインフラレベルの改革を目指すのがFinTech2.0だというのです。わが国でも、今のFinTechに批判的な人でも、ブロックチェーンやビッグデータ、ディープラーニング、スマートデバイスを使って、ビジネスモデルの改革を目指すのであれば、正しい方向だと言います。それに、FinTech2.0という呼称を付けるとすれば、大変便利な用語でジャーゴンに留めたくはありません。

FinTech2.0では、アンバンドリングした個別サービスではなく、銀行サービス全体に、サービス・デザインなどの観点から包括的にニューテクノロジーを取り込むことになります。そこでは、現在の勘定系システムを前提とすると無理があり、時間もコストも現実的でなくなります。ゼロリセットでシステムも業務処理態勢も変えることが必要になります。EUの銀行にはこれを行なう理由(リテールから撤退するか、ユニバーサル・バンキングを続けるかなどの戦略的課題を抱えている。)があります。一方で、FinTechベンチャーとしては、重荷を背負う従来型銀行に比べて、白地に絵を描けるという利点があります。そこで、銀行免許取得という流れになるのでしょう。

さて、日本の銀行がFinTech2.0を推進するとして、問題は全面的な変革に行員や組織が対応できるか、現在の勘定系システムでは対応できないという大問題二つに突きあたります。打開策は、全面的インフラ移行を避けることしかありません。対象業務を絞るのです。例えば、全銀のモアタイム・システム対応の新決済サービスやIoTを活用した商流ファイナンス、個人向けローン、外貨預金などでしょう。これらの業務であれば、現存の契約・約款や取引データの移行がないか、最少化できます。営業部門も強くは反対しないでしょう。そして、第二勘定系とも言えるような別建てシステムが必要になりますが、それを2年以内に稼動させないと、モアタイム対応等に間に合いません。

最近、こうした検討をする銀行が増えています。使えそうなパッケージ製品もあります。課題は、業務とシステム双方を理解する人材が銀行にもベンダーにもいないことです。結局は対象分野を徹底的にシンプルにして、開発リスクを最小化する方法しかなさそうです。羨ましいことに、欧米銀や韓国の銀行には、こうした人材が充分にいることでして、わが国金融業界の国際的競争力はITパワーから崩れてしまっています。また、このソリューション導入は、時間、費用ともに、わが国大手ITベンダーが扱える代物でもありません。中堅、中小ベンダーで必要スキルと経営のスピードを持つ複数企業による協業するという方法しかありません。ただ、それを資金的にも技術的にも統括する役割を誰が果たすのか、その解はまだ見つかりません。

                         (平成28年4月4日 島田 直貴)