国内FinTech市場規模 (矢野研が調査結果公表)


平成28年3月10日に矢野経済研究所が国内FinTech市場を調査した結果概要を公表しました。それによれば、昨年の市場規模は33億94百万円で、今年度は65億71百万円になると予測しています。2020年までCAGR75.7%で成長し2020年には567億87百万になるとも予想しています。高い成長率がいつまで続くか判りませんが、昨年の市場規模は、多くの人の感覚を外れていないと思います。

この調査は、国内FinTechベンチャー、金融機関、SIerを対象に直接面談、電話やメールによるヒアリング、文献調査を合わせて実施したそうです。市場規模は、従来にない革新的な金融サービスや技術を提供するベンチャー企業の売上を集計したとのこと。

今後の高い成長は、ブロックチェーンのような革新的技術の採用が急速に進む、ベンチャー同士の連携により普及が進む、伝統的金融機関や大手SIer等との協業、政府による制度の整備などが促進すると見ています。年初には、金融IT関係者の間では、FinTechは一過性のブームで今年春には終わるとの意見と、金融サービス革新には大きなニーズがあり、金融機関との協業を通じて、飛躍的な発展が期待できるとの意見に分かれていました。矢野研は後者の立場のようです。

筆者は、FinTechベンチャーによるフロント業務革新だけであれば、さしたる規模にならないが、金融機関がビジネスモデルの変革を目指して、B2Bの分野で戦略的な活用を進めれば、矢野研の予想よりもはるかに大きく飛躍すると考えています。その代表的なサービスは、商流ファイナンスへの適用です。これは、FinTechベンチャーには到底無理で、大手金融機関といえども革新的サービスの開発だけでは実現できない。営業部門と取引先企業を巻き込んだ、グランドデザインと強力で継続的な推進活動が必須です。

一般にFinTechの市場規模を見る時に、スタートアップ企業への投資額を測ることが多い。アクセンチュアの調査で1兆円云々の投資などと頻繁に参照されます。しかし、これは市場規模ではありません。投資家によるFinTechスタートアップへの投資額であり、悪く言えばマネーゲームの賭け金のことです。日本でも欧米と同様に、FinTech関連のファンドが立ちあがり、投資家に勧誘活動を展開しています。しかし、多くの機関投資家は慎重です。収益性や成長性が期待できないと判断しているようです。低い手数料や広告収入を利用者数でカバーする薄利多売モデルが殆どですが、機関投資家の多くは金融ビジネスに精通しており、必要十分な利用者数を確保できないと踏んでいるのでしょう。

今年2月にCB Insight社が、大口の資金調達に成功した世界のFinTechベンチャーを102社抽出して集計した結果を発表しました。それによれば、昨年1年間の投資額は総額103億ドルだそうです。日本からは、マネーフォワードとZaimが選ばれています。国別では、米42社、英15社、中国12社がトップ3です。その他にはドイツ、カナダ、オーストラリアなどにも有力な企業があるようですが、キプロス、ウルグアイ、バングラディッシュなどからも選ばれています。筆者はFintechを金融ビジネスにおける貧者の戦略的兵器などと比喩しますが、発展途上国も頑張っています。この比喩は、金融行政当局者にはとても衝撃的に聞こえるようです。金融への参入障壁が大きく下がったことを顕わしていますから。

欧米のFinTechベンチャーの多くは、イグジット戦略として会社の売却を考えています。買い手は、金融機関か金融機関向けサービス・プロバイダーです。買って、自社のサービスを拡充する目的もありますが、顧客基盤を入手することも大きな動機です。ただし、自社ビジネスへの取り込みに失敗すると、即座に転売してしまう。FinTechに限らず、過去30年以上もこうしたことの繰り返しです。日本では、金融機関が他業を買収することは不可能でしたから、こうした経験はありません。そこで、成功しているとされるFintech企業に少額出資して、業務提携を行なうことが多い。提携して何するのかと聞くと、ただ、頭取が買えといったからという返事ばかりです。戦略も実行計画もない。

ベンチャー側には、頻繁に出資の申込みがきます。断る理由がないので受けますが、資本が増えるだけで売上が増えるでもない。筆者は冗談に「飲んでしまったら駄目だよ。体壊すから。」などと言いますが、資金を遊ばしておいても仕方ないので、他のFinTechベンチャーに出資する。これでは、ファンドと何が違うのか?大元の出資者は、資金使途を把握しているのかなどと心配になります。

日本のFinTechは、既存の金融機関を置き換えるものではなく、旧来の神棚的な金融ビジネスを顧客視点に変革するとの見方が大層を占めています。筆者も同感ですが、協業が深まるにつれ、ベンチャー的文化が失われて、旧来文化に飲み込まれる可能性も心配です。事実、ベンチャーの技術者の中には、銀行との付き合いに嫌気して転職してしまうケースを聞きます。遅い、決めない、文句ばかり言う、蒸し返す、上から目線が嫌なのだそうです。ファウンダーとしては、折角、金融機関とのビジネス機会を得たにも関わらず、辛い結果となります。

日本では大手ITベンダーがFinTechに力を入れています。大きなビジネス・チャンスと考えているのでしょう。米国の大手ベンダーは見向きもしません。小さなFinTechアプリよりも、それらのプラットフォームや基幹技術を提供した方が規模のメリットも営業コストの節約も期待できます。中でもクラウドが主要なプラットフォームです。

外資系ベンダーは年初から、組織を大きく変えてクラウドシフトが顕著です。居場所を失った人達が、大手SIerに続々と転職しています。FinTech起業する人は聞きません。IT業界は、労働集約的で重厚長大型の古いIT企業と新しい軽薄短小型のFinTechと軽薄長大型のクラウド事業者に分化しつつあります。重厚長大型ベンダーが、この新しいビジネス分野に適応することは物理的に不可能だと思います。彼らが機能しなくなった時、丸投げしてきた金融機関は、どうやってITを運転するのか。次の課題は、FinTech対応よりも重いことは確実です。

                             (平成28年3月30日 島田 直貴)