G20金融安定理事会がFinTechの影響を調査予定


G20のFSBが仮想通貨やクラウドファンディング、ブロックチェーンなど技術革新が金融システム(金融政策を含む既存の金融関連スキームやルール等)に与える影響を調査する方針だとの記事です。ニッキンの3月11日号が報道していました。3月に開く実務者会合で調査実行計画を協議し、4月にワシントンで開かれる財務相・中央銀行総裁会議で承認される予定です。

FSBとしては、ニュービジネスを阻害しないように慎重を期すとの姿勢を示していますが、既に仮想通貨に関しては通貨に準ずる機能を持っており、テロ資金のマネロン防止などに充分な警戒が必要だとし、G20各国の仮想通貨に対する監視と規制を要請しています。今国会に金融庁が上程する資金決済法改正案もこの要請と参加他国の規制状況を踏まえたものです。仮想通貨業界としては、明確な事業ルールが公的に定められることで利用者の信頼が得られ、悪質な業者を排除できるとして、改正案を歓迎しています。

クラウドファンディングやブロックチェーンを主たる対象とするという点に、FSBが関心を抱いているのは、マネロンだという印象を受けます。決済、融資など形式はいろいろですが、資金を移動できるということは、そこで資金移動の目的や当事者を偽装できる機会があります。何もテロ資金だけではありません、麻薬などの犯罪資金とも限りません。大きいのは脱税資金でしょう。俗にアンダーグラウンド・マネーは公式なGDPの20%はあると言われます。各国政府は、この資金の補足に努めていますが、FinTechで大きな穴をあけられるのは許せないでしょう。

小口資金移動程度でしたら、さしたる問題ではないですが、大口資金を分散して小口化するくらいのことは簡単です。その結果、純粋な労働収入を故郷の生活資金として送金する取引も規制に巻き込まれることになります。では、その当事者を識別して、事前に送金目的と上限額を合わせた認可をパスポートのような証明で対応すれば良いだろうとの意見もありますが、それと都度確認とどちらの方が社会コストが安くなるかとなります。資金移動の匿名化は悩ましい問題です。匿名化できないということは、個人情報保護の制約も発生します。

あるFinTechベンチャーが金融商品販売をネットで開始しました。予定を越える口座開設予約が入って喜んだのですが、本人確認書類やマイナンバーを提出するように依頼したところ、回答率がとても悪かったそうです。数字は教えてくれませんでしたが。今年の証券口座開設数は昨年の半分だそうですが、マイナンバー届出義務に原因があるとされています。証券会社の届出依頼に対して回答率は半分だそうです。(マイナンバーなど他人に知られても、どうってことないと思うのですが。政府もマスコミも脅し過ぎたようです。) このベンチャーの場合も同じような歩留まりかと想像しています。

顧客とのコミュニケーションを全自動とする前提でビジネスモデルを作るFinTechベンチャーですが、実際には規制などでそうはならない。紙が大量に発生する。顧客との相談も電話で行なわれることが多い。その結果、コールセンターが必要となる。特に市況商品を扱うと市場次第で質問やクレームの繁閑格差が大きい。結局は、ピークを想定した態勢を取らざるをえない。薄利多売のビジネスモデルでニーズのある客は多いのですが、規制が邪魔する。その規制は公共目的であることが歴然だから、安易な緩和要望も出せない。顧客数を思うように増やせず、料金の安さを消すとみずからの存在価値をなくしてしまう。結果として、薄利少売となってしまう。この穴を埋めないとビジネスとして成り立たない。FinTechビジネスの大きなポイントです。

EUでは昨年末に金融指令を発して、資金決済口座の開設を仲介する業務や口座情報を集めるアグリゲーション・サービスなどを決済関連事業と定義したそうです。つまり、決済サービス規制の対象にしたということです。アンチマネロン等の社会秩序維持という公共目的の他に、利用者保護という目的の規制が課せられるでしょう。顧客情報保護やセキュリティ対策、サービス可用性・安定性・継続性などです。バックアップやBCPなどを含めると当初想定コストが一挙に倍増するでしょう。

こう考えるとFinTechビジネスは、顧客に提供するサービスを革新するというだけでは成り立たないようです。規制の網から逃れることがビジネス設計の大きな要素となる。金融機能をアンバンドリングして、ニッチ市場に対してハイテクでより安く、便利にというFinTechの謳い文句は、次の段階では、安全で確実で継続することを保証する伝統的金融機関からの逆襲を受けるでしょう。結局は、両者の長所を合わせて短所を補い合うことで中途半端にならざるを得ない可能性もある。それでもサービス革新になれば良いのですが。

今、わが国で進められようとしているFinTechサービスは、メディアが騒ぐ程には実用化されていませんが、結局は伝統的金融機関がFinTechベンチャーの技術やアイディアを取り込みながらも、新市場ができる訳でもなく、単なる新サービス競争で終わる可能性が高い。FinTechで金融機関はコスト削減をできないので、そのコストは収益増で補うしかないのだが、その方法はまだ見つかっていない。失敗すると金融機関のトラウマとなって、金融のオープンイノベーションは将来も実現しない危険性がある。

そうしたところに、FinTechを別の目線で見ている人達がいました。一般事業会社です。本業を補完しながら、FinTechを新規事業化してみようとの大手企業が出てきました。それも、一つや二つではありません。FinTechブームのお陰で、一般事業会社と金融ビジネスの接点ができそうだということです。そうなると、金融ビジネスを変えるエネルギーが桁違いとなります。FSBがノンビリとアンチマネロン中心の議論をしている間に、マネーフローが大きく変わるビジネスモデルが出現するかも知れません。

もう一度、金融ビジネスの機能を分解整理して、新論理モデルを作り、FinTechを活用した新物理モデルを作り、規制など阻害要因を考慮しながら、現物理から新物理への移行方法を設計してみるのも一興だと思います。意外と厚利多売のビジネスができそうな気がしませんか? 

その時に、SI中心の古いビジネスモデルを維持するIT企業は、ウォーターフォール式の高価格低収益のビジネスモデル収益構造を破壊されます。今年、グローバルIT企業の多くが、世界的に組織を大きく変えて、クラウド・シフトを断行しました。欧米などでは金融も同じような流れにあると見えます。大手町を歩くと、外国人の数がまた、減りました。シンガポールや上海などに移っているからでしょう。日本がますますガラパゴス化しているように思えます。国に頼らず、我々自身がイノベートしつつ新事業を開拓せざるをえないのでしょう。

                                          (平成28年3月17日 島田 直貴)