千葉銀行が取引先のペッパー導入支援

平成28年3月3日付け日経新聞の記事です。法人向けフィンテックの王道だと感じて、記事を読みました。もう少し詳しい内容をと千葉銀サイトを見ましたら、2月26日付けでニュースリリースしていました。日経は、単に千葉銀がPepperに手出しする程度にしか思わなかったのでしょう。1週間も原稿を眠らせました。リリースの内容は、同行のシステム関連会社「ちばぎんコンピュータサービスCCS」が行うPepper導入支援サービスの紹介を銀行が行うということでした。

CCSは社員200名強で年間売上42億円(ともに昨年3月時点)と地銀IT関連企業としては大きな会社です。親銀行向けのシステムサポートを主事業とし、他行と同様に地元企業や地公体向けのシステム関連事業を行っています。ソフトバンクロボティクス社のロボアプリパートナーの認定を受けています。千葉銀行としては、ソフトバンク・グループがPepperの本格的な拡販を開始したことやIBMワトソンと組んで日本語AI機能の採用や会話機能などを強化する動きにあわせて、取引先の販売促進になると考えたのでしょう。

このニュースから感じられる新たな動きは、主に2点あります。

第一は、銀行が顧客の事業支援にITを利用する動きです。フィンテックは今のところ、決済や小口融資のユーザーインタフェースを改善しつつ利便性を高めようとするのが大半でが、筆者は、それでは大きな革新にならないと思っています。顧客の顧客を巻き込んで新たな価値や、バリューチェーンを創ることの方が、銀行ビジネスモデルを革新できると思います。その見方からすると、取引先の接客サービスにPepperを奨めて、集客力を高める手伝いをするのはとてもよいことです。

Pepper自体は、手ごろな料金です。法人が導入する場合、初期費用は環境調査に2万円、初期設定が5万円、その後、36ヶ月の契約で月額5万5千円です。新聞の折り込み広告でも、もっとかかります。ただ、一般の商店や農家、病院などが自力で導入することは、技術的に難しい。それを千葉銀とCCSが手伝うというのです。アプリ開発を受託したとしても、CCSにはさしたる収入にはなりませんが、顧客の事業支援になるならという考えなのでしょう。それで良いと思います。これまでの銀行には、顧客のビジネス・ソリューションを提案するという発想が無さ過ぎました。

第二は、システム関連会社に新たな収益源を作ろうという考えです。システム関連会社は、かつて収入の過半を占めたオンラインシステムが共同化やアウトソーシングされた結果、その収入を失ってしまいました。そのため、新たな投資ができず、新技術の獲得もできず、人的な新陳代謝も進まず、絶滅危惧種となってしまいました。CCSは、まだ、グループからの仕事があるので、200人以上がいますが、多くの地銀が、システム関連会社を清算しつつあります。勿体ないことです。

Pepperは一件当たりの売上は微少でしょうが、CCSは多くの企業と関係を構築することができますし、ロボットやAI関連の技術を得ることが可能となります。会社の雰囲気も大きく変わることでしょう。先進技術に関して、研究開発力がなくても導入して活用できる技術力さえあれば、事業展開に問題ありません。

地銀のシステム関連会社は、かつて、地方における最大規模のIT企業でした。新技術をうまく取り込めれば、地元企業に頼られるIT企業に成長できたかもしれません。銀行関連会社として親銀行グループからの収入が全収入の半分以上でなければならない収入依存度規制があります。親銀行からの収入が減れば、外販収入も減らさざるをえません。それが、衰退を加速しました。

金融庁が進めているフィンテックがらみの規制緩和では、ITベンチャーへの出資に際して、出資比率と収入依存率が大幅に緩和される予定です。では、現存のIT子会社の場合はどうなるのでしょう。法の公平性からすれば、こうした関連会社への規制も緩和されるはずだと思うのですが、確認していません。そうだとしたら、朗報です。フィンテック・ベンチャーに出資するよりも、はるかにリスクが少なく、広範な事業展開が可能となります。その前提には、新技術の習得と営業力強化と前向きな企業文化の確立が必要ですが。システム関連会社は、金融機関にとって、極めて重要な戦略部門になる必要があります。

フィンテックで何かやりたいという地域金融機関に対して筆者は、取引先企業へのIoT導入支援を提案します。センサーは日進月歩で高性能化と低価格化が進んでいます。センサーからのデータをサーバーに取り込む通信技術も進歩しています。最近、注目されるNB-IoTでは、小型電池で数年も電力が賄え、伝送距離も10kmあるそうです。実際には、数々の前提条件が満たされた場合でしょうが、それでも凄い。サーバー側で必要なプラットフォームは、クラウドで提供されだしました。マイクロソフトのAzureでは月額で10万円だそうです。

問題は、集めたデータを解析して生産性を上げたり営業力を強化する情報を導き出す分析力ですが、それは、銀行の中にデータアナリシスを得意とする人材もいますし、銀行が外部専門家をアレンジしても良い。システム関連会社は、取引先のIoT化を技術支援する。クラウドを使っても全くかまわない。うまくすれば、取引先企業と、そのまた、取引先をつなぐIoT化ができるかも知れません。それが、広がるとABLや売掛金担保融資、パーチェス・オーダー・ファイナンスなども提案しやすくなります。宿願である商流ファイナンスへの道が開ける可能性が出てくる。顧客企業に喜んでもらえ、システム関連会社の新事業も可能となるだけでも十分ですが、その時に、国や地公体が提供する地方創生支援制度を活用しても良い。というよりは、すべきでしょう。まさに地方創生プロジェクトになるのですから。

金融機関と方々と話をしていて、取引先とその取引先にまたがる新たなバリューチェーンを作るべきで、それこそがフィンテックだと言いますと、それは金融機関の仕事ではないという反応を示します。個々に気持ちはあっても組織がそうできていない。筆者のような外部の人間には、地元企業の価値を増すことが地域金融機関に期待されるミッションであり、金融庁が求める事業性融資でもあると思うのですが。産業文化を変えるのは本当に大変です。そこに、千葉銀グループが、Pepper事業を打ち出したので、その成果がとても楽しみです。小さく入りましたが、大きく育てて欲しいものです。

                                        (平成28年3月7日  島田 直貴)